無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

103話 黒い騎士と町の戦士

 決闘?肩慣らし?実験?とにかく戦うことになったんだけど。


「おい。準備はいいか?」
「いつでも大丈夫です。」
「それでは私が審判をします。このコインが落ちたら戦闘開始です。」
「マスターが仕切るのが気に入らんが、まぁいいだろう。」


 ―キィィ……


 空に上げられたコイン。


 ―キン!


 地面に落ちたコインをマスターが急いで拾いに行く。


「さぁどうぞ!」
「……。」


 動こうとした瞬間に目の前に影が横切るから、何かあるのかと動く事ができなかった。これが魔族なりの決闘の始め方なんだろうか?


「こねぇなら行くぞ!うらぁ!」


 手を振り回して、僕に小走りで近づいてくる。


 ―ブン!


「え?何それ。」


 フェイントも何もない、凄くゆっくり顔に向かってくる拳。何かおかしいと思い、いつもより大きく避ける。


「魔力が込められてはいたけど。僕がマスターさんを気になってたのを見て、わざと避けやすい攻撃をしたのかな?」
『その様には見えませんでしたが。』
「魔界に来て初戦闘な訳だし、油断してまた仲間を傷つけさせるわけにはいかない。」
『忍様……』
「何をぺちゃくちゃ喋ってやがる。余裕見せてると舌噛むぜ!」


 ―ブンブン。


 左右と規則正しい拳のラッシュ。少し大きめに逆へ逆へと避ける。これはあえて僕の攻撃を誘っているのか?そうか、おそらくはカウンター型の何か……。


「アイさん。みんなの位置は把握しておいて。」
『勿論です。そこは抜かりはありません。』
「さすが!僕が水玉で牽制するから、相手が何か動きをみせたらみんなに防護魔法を。」
『畏まりました。』
「だからぺちゃくちゃと……」


 ―ブン!
 ―ヒュ……


「んな?どこ行った?」
「ここだよ。少し距離を取らせてもらったよ。」
「そんなとこまで?移動して取れる距離じゃねぇだろ?」
「簡単な話ですよ。走らないし移動もしません。空間をとんだだけです。」
「よく分からねぇが、近づけばいい話だろ。」
「その前に一つ、水玉!」


 ―ザブン!


「さすがの騎士様だな。しかしそんな小さい水魔法がどうなるんだ?」
「ただの牽制だよ。こっちで始めての戦闘だし、少しくらい慎重に攻めないと。」
「はん。牽制なら言わずに放てよ。」
「貴方がどうするか見てみたいからね。行くよ!」


 少し小さめの水玉を出して、相手に牽制すると伝えてその反応を見たい。


 ―ビュン!


「そんな水、この俺様に……」


 ―パァァン!ザバァ!!


 相手の顔面にダイレクトに当たった水玉。その場で弾けて辺りを水浸しにする。


「ぶはぁ!鼻に水入った!」
「忍さんの水玉食らって無傷!?」
「アイツただの馬鹿じゃないのね。」
「レブルもエストも言い過ぎだよ。しかし……」
『忍様。反撃してくる素振りはありませんし、回避行動もありませんでした。』


 どう言う事だろうか。威力は確かに落としたけど、顔面直撃で無傷でいる様な攻撃にはしてない。


「ちょっと本気でやらなきゃだね。例の作戦、早速試してみようと思うんだけど。」
『魔力の効率化はまだ出来ませんが、この周辺の空間は認識完了しています。』
「何しようとしているか分かんねぇが、俺様には効かねぇ……」
「少し付き合ってもらいますよ……エリアコントロール。スペースムーブ。」


 ―ヒュ……


「また消えた?」


 ―ヒュ……ザブン。
 ―ヒュ……ザブン。


「今何をしたのかしら?」
「レブルで見えないものが、私に見える訳ないじゃない。」
「ただ速いとは違うと思うのよ。エストなら分かるかしらって思っただけよ。」
「そう言う魔法的な感覚はセローの分野よ。」
「……そうね。」


 レブルがキョロキョロと僕を探すって事は、目で追う事は難しいと言う事。アイツは……


「さっきからなんか見えづらいな。水が目に入ったか?」


 目を擦り僕を探す事を繰り返して、その辺をうろうろしている。読めない……あの無駄な動きに一体何の意味が?僕の攻撃を妨害もしてこないし、誘われているのか。もしかしたら試されている?


 この移動は魔力の消費はまだ多い。エリアコントロールで座標を把握し、アイさんに転移のサポートしてもらってこれだ。長々と試さず一気に短期決戦がりそうだな。


 だけどこれはあくまで相手の強さを知る為。魔界の魔族の強さは知っておかなければならない。レベルやステータスみたいな機能があれば分かりやすいが。あれはあくまでゲームをする上で便利にするだけ。現実はと言うかこの世界ではなかった。


「さて、準備は出来たよ。覚悟は良いかな?」
「はん。小賢しい仕掛けなんて、俺様がぶっ壊してやる!」
「それは面白い。スペース・コンプリート。」


 ―ブゥン、ザブン。
 ―ブゥン、ザブン。


「なんだ?水の玉が増えて……ってどこ見ても?」
「じゃ、遠慮無くいかせてもらうから。水玉、アセンブル!」
「こっちに向かってっく……」


 ―ザババババババ!!!!


 次々と水玉が彼に向かって突っ込んでいく。一つ二つではない……空間に置いてきた数は、余裕を持って100近くにしてある。


 水が水を弾き、小さな水滴が飛び交う。それは霧となり視覚を奪う。
 見えるはずの相手は霧の中。正直自分でも初めて試した魔法だから、威力も予想も想像できない。


「これはあれかな。やり過ぎたかな。」
『魔族ですし。この程度で負ける様ならそれまでです。』
「絡んできたって言うのもあるけど。ここまでやる必要あったのかな?」
『忍様に無礼を働いた訳ですし、これが彼の運命なんでしょう。』


 アイさんは相変わらずだな〜暢気に行く末を見守る。周りの人達は声を失っている事に、今の僕は気がつかなかった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品