無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

82話 楽しい事が好きな母。

 執事はラストラのお母さんが、テキパキと指示を出し僕ら以外いなくなった。


「まず初めに……娘の我儘に付き合って頂き、本当に感謝しています。」
「あ、いえ!むしろ助かっています。」
「本当に?ご迷惑を掛けてませんか?」
「お母様。私だって成長してるんだから。」
「そうですか。ただ実験癖が心配なだけです。自ら危ない橋を渡る事で、皆様にご迷惑をお掛けしてないか。」
「勿論、危ない事は止めますよ。回復出来るのはラストラさんだけですし。」
「僕そんな危ない事してないっす。」


 いきなり僕に頭を下げてくれたラストラのお母さん。僕らと行動してからはアマンがずっといたけどな。僕と一緒にいる時は……


「シノブさんの魔法にも実験は自分でしてないしね。」
「あれは被験者がいたので……」
「やはり癖は変わりませんね。」
「僕だって自分の命と天秤ぐらい分かってるっす!」
「そこは胸を張る場所ではないと思うけど?まぁいいでしょう。リーダー様がしっかりしているので、安心して任せられます。」
「……リーダーって僕ですか?」
「このパーティの中心はシノブ様だと思ってますが違いますか?


 ラストラのお母さんが仲間に問うと、皆んなが頷いてくれる。へー僕ってリーダーだったんだ。特に気にした事はなかったけど。


「不思議そうな顔をしていますね。ですが色はそう出ています。シノブ様に対する安心と信頼が伝わってきます。」
「色ですか?」
「はい。私ども家系は、感情を色で見る事が出来るのです。なので、娘の想い人も……」
「お母様!?」
「ふふ。母に隠し事は出来ませんよ。あの人が来るとこの話が出来なくなるので、今のうちに……ね。」


 真っ赤な顔のラストラと、目があって動揺するアマン。
 人の感情を色で見る事が出来るのか。分かると色々と便利そうだけど。色だけに……こほん。


「それで皆様は、どの様な御用でここへいらしたの?ラストラが来たと言わないで、あえてあのネタ試練を超えてきたのでしょう?」
「ネタとか言っちゃうんですか。」
「だってそうでしょう?どこの世界にあんな鬼畜……物騒な……危ない試練を受けるのかしら。」
「お母様、全部言っちゃってます。」
「ごめんなさい。私達にはとっても助かってるのよ。ただ最近は挑戦者もいなくて、退屈してたのよ。せっかく映像化の魔石まで買ったのに。」
「またそんな無駄遣いを……それなら玄関の人を見るのに使えば良いのに。」
「ここに来る人の顔が分かっても面白くないもの。映像の魔石って高いのよ。」


 映像の確認する術が無いのかと思っていたけど、実際はちゃんと存在していたんだね。まぁ王都に住む人が高額って言うからには、お母さんの言う楽しみたいは分かる気がするけど。そしてこのやり取りを見ててラストラの実験好きと言うか、世の中を楽しもうとする姿は母親似なんだろう。


「話がズレてしまいましたね。」
「ここにきた目的でしたっけ。一つはラストラとの旅の許可と、王都に入る為の印が欲しいからです。」
「旅に関しては許可は要りません。むしろ娘を外に連れ出して頂けるなら、こちらとしても有難いですし。印に関しては紙は持っていますか?」
「ここにありますが。」
「ちょっと借りるわね。」


 ―ペタン。


「はいどうぞ。」
「あ、有難うございます。こんなに簡単で良いんですか?」
「この家の決定権は私にありますから。それにこの先に進む場合で、必要な実力も信頼も十分です。」
「そう言うものですか?」


 ともかく印の問題はこれで解決。後は王都に行くだけだな。


「あの物騒な警護システムを全員無傷で通過するのよ?今の王都にいる人でそれが出来る方はいません。あ、別に貴方をどうこうって訳じゃ無いですよ?」
「いえ、私にはあれは攻略出来ません。騎士としてまだまだ力不足です。」
「上には上がいると分かれば、貴方はまだ強くなれます。期待していますよ黒騎士ヴァイツァー。」
「は!有難きお言葉。」


 ヴァイツァーが騎士っぽい。昼間っからお酒を飲んでサボっているのが嘘のようだ。


「ラストラのお母さんはヴァイツァーを知っていたのですか?」
「情報は生き抜く上で最も重要です。ですので第1堀での旧ギルド崩壊は知っていますし、魔族が攻めて来た際の攻防も報告は受けています。」
「ははは。」
「シノブ様がこのタイミングで王都に来たのも、ラストラが会いに来てくれた事も何かの縁です。しばらくはここを拠点に動いてみては如何でしょう?」
「それは有り難いのですが、ご迷惑ではありませんか?」
「まさかそんな事はありません。娘がお世話になった方にお礼も兼ねております。」
「お母様…………本音は?」
「貴方がいれば退屈しないから!」


 満面の笑みでサムズアップするラストラのお母さん。ここ最近は退屈とか言ってたからな。


「それであればお世話になります。」
「良いのよ。早速ですが、今朝の出来事を聞いてもいいでしょうか?」
「今朝の出来事?」
「ただ眩しいだけの兵士がいたでしょう?簡易な報告は貰っていますが、直接聞く方がより面白く……正確に状況を把握出来ますから。」


 面白いって言っちゃってますよ。まぁ隠すつもりはないし、諸々の説明は……


「アマンよろしく。」
「突然俺か!?」
「そう言うのはアマンの分野だよ。補足とかあれば僕も話すから。」
「私も貴方とお話をしたかったので、丁度いいですわ。お茶も来たので、ゆっくり話をしましょう。」


 ―ガチャ。


「失礼します。お茶をお持ち致しました。」
「皆さんどうぞ。」


 今入って来る前に察知した?人の感情を色で見るって言っていたけど、もしかすると魔力で常に人を観察している。そうなると魔法を使っている……そう考えていると僕と目が合い、口に手を当てる。内緒ですよって聞こえてくる気がした。


 ♦︎


 今朝の出来事はアマンが一通り説明をしてくれた。ついでだから、お城に行かないといけない理由も話した。やっぱり話がスムーズに進むね。


「面白ですね。話し方も上手で、まるで物語を読み聞かせるようでした。」
「恐縮です。」
「そんなに畏まらなくて良いのよ。いずれは家族になるのです。なんなら義母さんでもリアちゃんと呼んでくれて構わないわ。で、どっちで呼びますか?」
「か、か、かぞ!?」
「……リアさんでお願いします。」
「今はこれでいいでしょう。」


 ―コク……カチャリ。


 お茶を飲んでカップを置くと顔と言うか、空気が少し変わった。


「しかし調べなきゃいけない事が増えたわね……爺。」
「はい。こちらに。」
「うわぁ!?爺どこに居たの?」
「ほほ。それは秘密ですぞラストラお嬢様。」
「ずっとラストラのお母さんの後ろにいたよ。」
「ほほぅ。さすがシノブ様。奥様以外にも私を認識出来るとは……。」
「爺は私の専属執事です。近くに待機させ、先程の話を聞かせていました。」


 簡単に言えば情報を収集する人だな。気配を消していたのはもしかして僕らを試したとか?仲間の顔を見るとハイヤーは気がついてみたいだな。


「別に試した訳ではありませんよ?ただその方が皆んなびっくりするかと思って。」
「びっくりしたよ。でも爺は昔から突然現れるよね。」
「そうでしたかな?」
「それよりもう一つ調べて欲しい事が増えたわ。こっちに人数さけるかしら?」
「魔族を尾行していた者3名が負傷しまして、内容によりますが。」
「今から何か調べるんですか?」
「ええ。黄金騎士団の調査と、昨日からお願いしていた魔族の動向を。」


 ん?魔族の動向って。


「ハイヤー何か知っている?」
「黄金の騎士団はまだ調べていませんが、魔族の方では昨日襲われたくらいです。」
「「「…………。」」」


 僕とラストラのお母さんと爺が顔を見合わせる。


「うちのメンバーがすいません。」
「いえいえ!こちらこそ、戦闘はこちらが仕掛けたようなので。悪いのは私達です。」
「私も申し訳ありません。」
「いえ、むしろお怪我がないか不安です。」
「私は特に。鍛えてますから。」


 ハイヤーは個人での戦闘力もだけど、闇魔法が扱えるから隠密系が使えた。だから魔族の動向を監視する役割を任せていた。


「これは一度作戦会議が必要ですね。魔族もですが、僕らにとっては王族も心配なので。」
「有り難いです。全員を招集しなさい。」
「は!」
「じゃ、ちょっと話してくる。ハイヤーとアマンは僕と来て。」
「おう。」
「いいですよ。」
「皆様はここでお寛ぎ下さい。すぐ夫が来ますから。相手をしてあげて下さいな。」


 ―ガチャ!


「今戻ったよ!ラストラちゃん!」
「あなた、私は少し仕事をしてきますわ。皆様のおもてなしを任せるわ。」
「おう!任せて貰おう!」


 ラストラのお父さんを皆んなに任せて、今後の話し合いをする。



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