無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

70話 星振りの月

 王都へ行く道のり。食事を終え順番に見張りをつける。始めは僕とエストにゾンが見張りをする。そして皆んなが寝静まった頃に事件は起きる。


「きゃぁ!」
「魔物だ!お前ら起きろ!」
「くそ!俺の装備を持ってこい!」


 少し離れた場所で、悲鳴が聞こえてくる。声を聞く限り野営をした事があるのか、凄く慌てた感じだ。


「今悲鳴が聞こえたが。どうした?」
「ん?向こうで魔物が出たって。」
「そうか。突然悲鳴なんて聞こえたから、驚いて起きたぜ。」
「なんかバタバタしているっぽいけど。」
「シノブがいるなら大丈夫だな。おやすみ。」


 声にびっくりして起きてきたアマンだったが、僕と少し会話をしたらまたテントに戻っていった。


「シノブさん。助けに行かなくていいの?」
「ん?僕らのとこに来たら戦うけど。」
「そういうもの?シノブさんなら、真っ先に助けに行くかと思ったわ。」
「助けてと言われたら助けるけど。見たところウサギの魔物が数羽だし。」
「大丈夫かしら?なんか心配になる叫びが聞こえたけど。」


 それは僕も気になった。野営をするにあたって、武器が手元にない事は致命傷になりかねない。


「こういう複数で野営する時は、お互いが自分で対処をするもんだ。」
「そうなの?」
「あぁ。ただ何も言わずに戦っていると、他の野営しているところに魔物が行きかねん。叫んだりするのは、周りも注意しろって合図でもある。」


 ゾンがそんな取り決めがあると説明してくれた。僕はそんな取り決めがあった事自体知らなかった。


「シノブもそれで動かないんだろう。ギルドでそんな説明もあったからな。」
「……そんな説明あった?」
「ん?一緒に聞いただろう?」
「そうだったような?」
「その反応は、シノブさん知らなさそうね。」
「……。」


 2人とも僕を見たまま無言になる。


「それじゃシノブが動かない理由は他にあるのか?」
「知らない人と連携出来なければ、逆に戦いの邪魔になるかなって。」
「確かに。下手に立ち回られたら、邪魔かも。」
「成る程な。そう言われれば、ギルドがそんな説明をするのも納得だ。」


 助けに行く事は簡単だけど、それが逆に迷惑な時もある。僕がこうして動かないのは理由がある!って最もぽい事を話す。本当は仲間を優先したいからだけど。こうして話している間も、狼が茂みから僕らを見ている。


「……それ。」


 ―キャン!?


 足元にあった石を投げて、狼を追い払う。


「今、何かした?」
「そこらにある石を投げただけだけど?」
「なんかいたのか……?」
「後ろの茂みに狼が居たから。隠れてたからバレてるよって教えとけば、こうして寄ってこない。」
「後ろの茂みって……ここから見えないんだけど。」
「エストの位置からだと、焚き火を挟むから見えづらいのかも。」
「違う気がするけど……シノブさんが言うならそうなのね。」


 茂みにいた狼が離れていくのは確認できたから、これで僕らを狙う魔物はしばらく現れなさそうだ。


「この魔物硬いぞ。魔導師!魔法で倒せ!」
「やってるわ!だけど、獲物が小さくて当たらないの!少し動きを止めてちょうだい!」
「それが出来ればやってる!こいつら硬いだけじゃなくすばしっこいぞ!」


「…………ねぇゾン。」
「……言いたい事は分かるぞ。」


 2人が僕を見てくる。


「あれ、助けた方がいい?」
「私はそう思うけど。」
「俺もあの言葉を聞く限り……しかし取り決めがあるから、助けを求めてこないのか。」
「でもウサギだよ?数もそんなにいないし。」
「ちなみにどれくらいいるの?」
「ん?今は5羽かな。あ、ゾンお茶貰っていい?」
「お、おう。」


 ゾンからお茶を貰い喉を潤す。


「シノブさん……今はって?」
「ちょっと待ってね。アイさん、隠れてるの入れたら何羽いる?」
『15羽います。』
「15って!?かなりいるじゃない。」
「そう?だってウサギだよ?」
「そうだけど。ウサギでもそんなにいたら、危ないんじゃ?」


 エストに言われて、今戦っている人達を見る。大きなダメージは受けていないようだけど、さっきから1羽も倒してはいない。魔導師が牽制して、治癒師が盾である戦士の治療をしている。あれ、もう1人居たような……あ、テントの中で蹲っている。お腹でも壊したのかな?


「2人が言うなら、少しお節介をしておこうか。」
「それがいいと思うわ。」
「だな。」


 僕は立ち上がりウサギの群れを見る。距離はそんなにあるわけじゃないか。レブル達が寝ているから、この場を離れるのもなんだな。


「アイさん狙いは任せるね。」
『畏まりました。それでは……シャープシューティング、マジックコントロール・ジャストワン!』


 必中の魔法と魔力制御も?あー、戦っている人達の邪魔はしないようにしないとか。さすが気がきくね。


「それじゃ、風玉。行って来い!」


 ―ビュゥン!


 ウサギに向かって一直線に飛んでいく風玉。それに気がついたウサギが、避けようとその場から飛び退く。なかなかの反応速度だ。だけどそれじゃ空中にいる君は隙だらけだよ?


 ―ギィ!?パァァン!


 風玉が軌道を変えて、空中にいるウサギの頭に当たる。


「なんだ!?ウサギが飛んだと思ったら、頭が弾けたぞ!?お前がやったのか?」
「知らないわよ。何処からか魔力を感じた気もするけど。それよりまだ居るんだから、よそ見をしないでちょうだい!」
「おう!行くぜ!」


 うん〜?弱い風玉だから、相手に当てて隙を作ろうかと思ったのに。あの一撃で倒してしまったようだ。やっぱりウサギって強くないよね?


「考えるのは後にしよう。アイさん隠れてる奴らを一気に叩くよ。」
『はい。10羽のところに狙いは付けています。』
「はは。言わなくてもやってくれるって。さすがはアイさん。頼りになるね!」
『あー勿体無きお言葉……』
「じゃ、一気にいこう。火玉いけ!」
『あ。火は……』


 さっきは1匹を狙い撃つ為に、速度と精度の高い風の魔法を使った。戦闘しているところに魔法を撃つわけだから、適材適所というやつだ。
 そして茂みに隠れている10羽は、戦闘している場所から離れている。だから僕は、少し範囲を広げた火の魔法を選んだ。速度もさっきの風魔法を参考に少し速くしている。


 ―キラッ……ボゥ!!


 茂みに向かって火玉を投げる。暗い所に火の魔法だけあって、花火が水平に飛んでいくようだ。


「ちょっと!それ……」


 エストの声が聞こえた様な?しかし放った魔法は止まらない。火玉が茂みに隠れているウサギに当たる。


 ―ドォォン!


 当たると同時に火玉が破裂。茂みを中心に大きな火の粉が飛び交う。そうそれは夜空を彩る花火のように……。


「「キャァァァ!!」」
「うぁぁ!!」
 ―ギィィィ!!


 色んな叫び声が聞こえた。


「あー……なんで火の魔法を選ぶのかしら。」
「ウサギが魔導師の撃つ火の魔法に、牽制されていたからだけど?苦手なんじゃないかと思って。」
「その理屈は分かったけど。私が言いたいのはそうじゃなくて。」
「どういう事?」
「それは火の範囲魔法をあんな近距離で撃つか?しかもレブルではなくシノブが?って事だろう。」


 うんうんと頷くエスト。えーどうして僕が火の魔法を使っちゃいけないんだ。


『……忍様。残った4羽が逃げています。』
「あっと。それなら早く倒さないと!」
「シノブさん!火はダメよ!」
「っと。なら水だな。水玉……」


 バラバラに逃げる4匹のウサギ。狙うな数打てば良し!


 この時僕は、テンションが高かったかもしれない。夜遅くまで起きているからか、久し振りに火の魔法を使った花火を見たからか。冷静に考えればやりようはいくらでもあった……と思う。


「くらえ!!」
「そんな気合い入れて平気なの!?」
「それより投げたの上すぎないか?」
「ふっふっふ。バラバラに逃げるならこれしかないね。水玉流星!」


 一瞬で溜められるだけ溜めた水。それを夜空で解放からの、放物線状の重力落下。


 ―ズダァァン!ズダァァン!ズダァァン!


 一つまた一つ。地上に降りてくる水玉は、空気を斬り裂き大地をも砕く。


「コラー!なんで水があんな落として落ちてくるのよ!」
「いや、バラバラに逃げるウサギを一網打尽にしようかと。」
「シノブさんの一網打尽って言葉が既にアウトよ!」
「大丈夫。ウサギも付近に潜んでた魔物もまとめて倒すから。それに……」
「大丈夫じゃな……それに?」


 怒るのを止めて僕の言葉を聞き返すエスト。答えましょうとも。


「まだまだ続くよ。」


 エストとゾンが空を見上げる。雲に覆われた空に、月明かりを射し込むいくつもの光。そう、雨は徐々に強くなるもの。


「うっそ……あの隙間の光全部?」
「1、2、3……もう何本か分からんが。ここに居て俺達は平気なのか?」
「それは大丈夫…………かな?」
「皆んな逃げてぇぇ!!」


 エストの叫びが周りの人を起こす。いや、もう既に皆んなテントから空を見上げているな。そしてこの時、王都へ続く荒野に一つの名所が誕生した?


【星振りの月】と言う名の……魔物が近づかない土地として。



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