無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

68話 本日は晴天なり?

 そして嵐が去った後、勇者様はどうなっているだろうか。水が爆発した事で発生した水蒸気が晴れようとしている。


「これで生きていたら、あの子も化け物ね。」
「もって何ですか?」
「貴方もよ。自覚ないのかしら?」
「化け物って事はないでしょう。」


 風もないから霧もなかなか晴れない。生きていたらって、お姉さんが言うから少し不安になる。


「風で霧を飛ばそう。」
「軽くよ?抑える事出来る?」
「大丈夫だよ。抑えるのは得意だから。アイさん。」
『マジックコントロール・ジャストワン。どうぞ。』
「得意って本当かな……。」


 ―ヒュウ……ビュゥゥン!


 小さな竜巻が上へと霧を呑み込んでいく。


「やれば出来るじゃない。キラキラして綺麗ね。」
「ただの風魔法なのにキラキラって?」


 その結果は目の前の勇者を見れば分かる。


「あー酷い目にあった。」
「生きてたわね。」
「お姉さん勇者様に対する扱いが雑ですね。」
「あの子はあれでいいのよ。」


 お姉さんが勇者様に近づいていく。


「気分はどう?」
「ハーネス……正直、よく分からない。」
「でしょうね。でもこれが貴方と彼の差よ。」


 自分の手の中にある剣を見つめる勇者様。


「剣が泣いているか……。」
「ふぅ。やっと落ち着いたわね。ちょっと話してくるわ、貴方はここで休んでなさい。」
「いや、俺も行こう。」


 2人でこっちに歩いて来る。手加減したとは言え、さっきの攻撃受けてすぐに立ち上がるってどうなの?


「付き合ってもらってありがとね。」
「いえ、その……大丈夫ですか?」
「ああ。鎧は粉々だが、剣と俺自身は問題ない。」
「問題ないですか……。」
「頑丈さだけが取り柄だから気にしないで。」
「だけとは酷いじゃないかハーネス。」
「だけでしょう?皆んなも挨拶しなさい。」


 何も言い返せない勇者様。そこに仲間が集まって来る。


「あーえっと、すまない。君が魔族じゃないとバッフルから聞いた。」
「分かってくれれば良いんです。」
「……でも1人は魔族だった。」
「俺が戦ったやつだろ?」
「君ほどの人が魔族と一緒に居るのは何かあったのか?」


 これは言い逃れは出来ないか。どう言ったもんかな。


『忍様。私に考えがあります。』


 お、アイさんが助けてくれる!これは……勝ったな。


 まず記憶を失くした魔族と出会った状況を話す。僕との話に意気投合して、街の領主には記憶喪失の人を拾ったとだけ説明。その後1ヶ月くらい一緒に過ごした結果問題なし。誰かに預けるより、僕の手元に置いておく方が安全。仲間と話した結果一緒に旅をする事になった。


「成る程な分かった。記憶を失くしているなら、可哀想だな。」
「そんな生い立ちがあったとは……彼の拳を受けたが迷いのない感じは、君達と出逢ったからなのだろう。」


 男2人がうんうんと頷いている。チョロいな。


「それはそれで、結果魔族には変わらないわ。生かしておく理由にはならないわ。」
「バッフルは硬いな。この人が責任持つんだろ?良いんじゃないか?」
「何が良いのかしらイグニ。」


 青い髪のバッフルと言う子は険しい顔で、赤い髪のイグニと言う子はすっきりした顔をしている。


「何かあればシノブさんだっけ?が、倒してくれるだろう?じゃー預けてて問題ないんじゃないか?」
「それはそうだけど。」
「バッフルもさっきの戦い見てたんだろう?」
「最後の水魔法は見たけど。」
「なら平気だろう。勇者様の防具を粉々にする魔法だぞ?魔族ならバラバラさ。」
「そうなんだけどー」


 腑に落ちなそうなバッフル。すると白い髪の子が目を覚ます。


「ここは……」
「姫様!」
「ご無事で何よりです。」


 2人の女の子が近づき、肩を支えて体制を起こす。そして気絶していた状況をハーネスさんが要点のみ話す。


「そう言う事でしたか。いいでしょう、魔族に関しては彼に任せましょう。」
「魔族ですよ?いいんですか姫様?」
「良いも何も。我々では彼から魔族を奪う事も出来ないのでしょう?ならば任せる他ありません。」
「っぐ。」


 最高戦力である勇者様を倒したからか、ハーネスさんが上手い事言ってくれたか。とにかく僕はこのまま去る事が出来そうだ。


「それでは僕は仲間の元に行かないといけないので。」
「こっちの我儘に付き合って貰ってありがとね。結構離されちゃったけど、追いつけるの?」
「うん。少し本気で走れば大丈夫かと。」
「本気で……皆んな少し離れましょう。」


 勇者様一向が離れる。


「シノブ様!お転婆な子ですが、妹をよろしくお願いしますね。」
「妹?」
「挨拶がまだでしたね。私、キャリパー・ライドステアと申します。」
「ライドステア……エストのお姉さん?」
「そう、やっぱりあの子はエストレアなのね。前髪で顔を隠しているから、自身は無かったのだけど。」


 あーカマかけられたか。顔を隠していた理由も、この人にバレたく無かったのか。最終的に僕がバラした形になってしまったが、エストにはなんて伝えよう。




 ……まぁいいか。




「それでは皆様、また会う日まで。」


 それぞれが手を振る。何か言っているが、離れすぎていてよく聞こえない。まぁせっかく離れてくれたんだから、少しスタートダッシュをしよう。


 陸上でいうクラウチングスタート。両足を蹴って進む為に、地面を少しだけ盛り上げる。蹴って壊れないように固める。
 スタートダッシュを速くするならやっぱり火の魔法か。足の裏から魔力を噴出すようなイメージをする。
 重力を少しだけ軽くする事で、爆発力を活かせるようにする。あまり軽くし過ぎても、質量がある程度ないといけないから少しだけ。


「本気で走ってみるから、補助はお願いね。」
『お任せを。ポスチャーコントロール!マッスルレインフォース!』


 全身の筋肉が軋む。走る時に使うのは足だけじゃない。全身を使う事で、一歩でも早く前へ。


「位置について……」
『エアーカーテン、オートマティックリカバリー、ノンリミット……忍様いつでも!』


 ただ走るだけなのに、アイさんの保護は完璧。これだけやってくれたんだ、僕も自分の限界を知っておこう。


「ドン!」


 ―…………パン。


 何かが割れる音がした。




 一歩、また一歩地面を踏みしめる。






 周りの景色がとてもゆっくりに見える。








 過ぎ去る景色で誰かと目があった。


「シノ…………」
「ん?」


 この透き通る声はレブル……。


 ―ダン!


 ―ダダン!!


 ―ズザァァァァァ!!!


 走る足を止める為、走りだした歩数と同じだけ踏みしめる。走り出すのは一瞬だったけど、止まるのにこんなに大変だったなんて。
 必死に止めた地面が耐えられず。平地全体が地割れを起こし、平地に凹凸が出来た。


「皆んなが来るまでここを少し直さないと……。」


 嵐が去った後のような荒れた大地。それとは対照的に空は雲一つない快晴だった。

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