無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

64話 闇夜に溶ける者。

 とある夜僕は皆んなを呼び出した。


「皆んなにおり行って話があるんだ……。」


 皆んなが黙って僕を見る。


「そろそろ次の街に行こうかと思う。」
「やっとか〜今回は長かったな。」
「まぁ過ごしやすい街だからな。アマンだってだから何も言わなかったんだろう?」
「そうだな。」


 アマンは待っていたとばかりに一番の反応を見せる。ゾンに関してはいつも通り。


「ん?私はいつでも。シノブさんに着いて行くわ。」
「私もです師匠!さぁすぐに出発ですか?」


 レブルもセローも僕が居るところであれば、どこでもいいってスタンス。荷物も最小で今すぐ出ても構わないと言ってくれている。


「急ね。理由はなんとなくわかるけど。」
「皆切り替え早いですね!僕荷物まとめて来ないと!」


 落ち着いたエストは何かを察してくれている。唯一ラストラだけ、準備も心構えもまだであたふたしている。


 そして……。


「私はもう皆様に着いて行くと決めましたから。シノブの力になれればと思う。」


 最後に声をかけてきたのは、あの時の魔族。そのまま別れようかとも思った。しかし記憶もなく、名前はおろかやりたい事も分からない時た。アイさんが教えてくれたけど、こんな普通な形をしていて魔族と言うから驚きだ。


「そんな肩に力入れなくていいのに。気楽に行こうよ。」
「そうは言ってもね。鍛えてもらった分、少しは皆さんに楽をして貰いたい。」


 記憶を失くした魔族の人を僕らは、ハイヤーと呼ぶ事にした。高みを目指すイメージからとった名前だ。記憶が失くした事で落ち込んだそぶりは見せず、常に高い意識を持っている。実は密かに龍族に会いに行こうかと考察していたりする。仲間に止められたから、もちろん勝手にでは無く許可を貰って。


「けどこの1ヶ月でだいぶ強くなったわよね。」
「いえいえ、レブルさんの足元にも及びませんよ。」
「そうでもないわ。あの魔法は私とは相性が悪いだけよ。他の人とは戦えるでしょう?」


 こう見えてハイヤーは負けず嫌い。一見、優しそうな顔立ちにおっとりとした話し方。負けた場合も駄々をこねず負けを素直に認める。しかしすぐに自分の反省点を洗い出し、次に活かそうと必死さが伝わってくる。


 実はここ1ヶ月、ずっと模擬戦のような訓練をしている。レブルは僕らの中で機動力、技術、攻撃と全てにおいて群を抜いている。僕と唯一打ち合いが出来る相手である。ハイヤーは何度も挑んで入るが、レブルの言う通り相性が悪い。
 レブルの属性は火がメインの風と光がサブとして使える。ハイヤーは闇メインのみ。暗闇の不意打ちや気配を消す事に長けている。しかしレブルには何一つ通じない。


「そうでしょうか?セローさんは攻撃を当てる事が出来ませんし。」
「魔道士の私が攻撃を当てられたら負けだから。そりゃ逃げるよ〜」


 セローは水がメインの風と土をサブとして使う事が出来る。爆発的な機動力、魔法を使う精密さ。これはもう僕より上かもしれない。威力には若干の不安があると言っているが、闘う側からするとそう言う次元ではない。


「あの魔法の数を掻い潜って攻撃。しかも本人を捉えるのが一番難しいときた。」
「師匠に習った事を忘れずに反復していますし。」
「やっぱりもう少し訓練を……。」


 剣を見つめて今にも走り出しそうなので、止まってもらう。やれやれ、話が途中なのに。


「話は脱線したけど、戻すよ。出発は今!即行動を起こしたい。」
「あーそうだな。夜の方が静かだしな。ゾン、馬車は?」
「宿舎の裏手に停めてある。昼間出掛けたわけでもないから、動けると思うぞ。」
「あらかじめ2頭には夜出る事は伝えてある。昼間少し多めに休んでもらってるよ。」
「抜けて目ないよな…………馬と喋れるのか?まぁシノブだしいいか。」


 よく分からない認識だけど、何故か馬の言う事がなんと無くわかる。そして僕の言う事は全て理解してくれるし、頷いたり相づちをうってくれる子までいる。だからそこは問題ではない。


「よし、皆んなにはそれぞれの役割を話すから。」
「別にそんな事しなくてもシノブなら…………」
「アマン。シノブはただやりたいだけだ。俺らも付き合うもんだ。」
「みたいだな。全く面倒な事になったな!でも面白いからいいか。」


 さぁ!行こうか!


 ♦︎


 なんて事ない。ただ夜にこの街を出発するだけのミッション。


「ブルー周囲に敵影なし。オールクリアです。」
「こちらゾ……ホワイトZ。進路クリア了解。発進する。」


 ブルーが進路上に何もない事を伝える。
 それに反応したゾン事、ホワイトZが馬車を動かす。ちなみに何故ホワイトなのか、聞いてみた。クリーンな商売人だからと、この街でだいぶ稼いだ2人の商人談。


「こちらレッド。左前方反応あり、停止して様子を。」
「ゴールド了解。灯りを薄暗くします。あとは任せます。」
「えっと……ダーク2了解。隠蔽。音と匂いを軽減します。」


 馬車を止め、音と匂いを消す事でその場に何もいないと認識させる。原理はよく分からないけど、そこにあるけど認証されないって魔法。闇魔法だからいずれ僕も使えるのだろうか。


 街を巡回している兵士だろうか。トボトボ道を歩いていく。あれなら魔法を使わなくても、素通り出来たのでは?難なく宿から出発をした僕ら。後は出入口までの道のりと、門番とのやりとりが残っている。


「こちらグレー……。メイン通り異常なし。これ私もやる必要ある?」
「こちらダーク1。これは皆んなで成し遂げる事に意味がある。」
「……了解よ。」


 メイン通りの警戒に当たってくれるグレー。この時間は全てのお店も閉まっていて、今日に限っては酔っ払いのおじさんもいない。


「こちらホワイトA。いつもいる酔っ払いが、1人もいない何が起こった?」
「こちらグレー。皆んな寝ているわ。眠りやすいベットでもあったんじゃないかしら?」
「ベッド……。」


 裏路地に目を凝らしてみると、ゴミ置場に何人か人間が積み重なっている。あれはたまたま眠ってしまったとは言い難い……。


「こちらグレー。目標を撤去……誘導。進路クリア。」
「こちらホワイトA。皆の幸運を祈る。」


 裏路地に向かって敬礼するホワイトA。怪我はしてないから、別に問題はないと思うけど。


 そして門前まで到着した。問題はここをどうやって出ようか。


「おや?夜遅くにどちらへ?皆様揃って。」
「……星を見に。」


 苦しい!確かに考える時間は少なかったけど、そんな星を見るのに馬車や仲間全員で……


「そうですか。ここは木々に囲まれて見えずらいですからね。この前突然現れた舞台の上がオススメですよ。場所はご存知ですよね?」


 あーあそこか。そう言えば周囲を更地にして少し段差を作った関係で、お城の土台になりうる場所だ。きっと何もないから星を見るスポットになったんだろう。


 そして星を見に行くと言ったきり、勇者は闇夜に消えていった。

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