無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

54話 努力の先の名。

 今日は皆んなの時間が合ったから、街に買い出しに出かけた。ただ歩いているだけなのに、会う人会う人に声をかけられる。


「お!黒の勇者様!今度うちの店にも食べに来てくれ。サービスするぜ。」
「ありがとうございます。」


 食堂や露店を通れば皆んなが僕らを誘う。まぁ初日に食べ歩いたし、たまに出かけた時は露店をよく使うし覚えられたか。


「赤いおねーちゃん!この前はありがとう。」
「どういたしまして。今度は首輪外しちゃダメよ。」


 子供がレブルに飛びつく。この前捕まえて犬の飼い主のようだ。お母さんが誤っているが、レブルは気にせず飛び込んだ子の頭を撫でる。


「セローちゃん。昨日言ってた薬剤、今取りに行かせてるから。明日にでも取りに来ておくれ。」
「本当ですかー!必ず行きます!」


 薬剤を取りに行かせている……急なお願いでもないはずなのに、セローがお願いしたからか早急に準備してくれたに違いない。孫にせがまれたお婆さんの絵が見えるぞ。


「ひぃ!白銀の獅子王!?」
「な、誰が獅子王よ!」
「すいません。すいません。すいません。」
「やったね。エストにも異名が出来たみたいだね。」
「良くないわよこんな物騒な名前。そんな事より!どうして私がその、白銀の獅子な訳なの?」
「はい!!2人の猛虎の手綱をしっかり持ってると聞きました。」
「「あはは。」」
「分かっている?猛虎って2人の事よ?」
「「え!?」」


 素敵な二つ名が付いたエストを笑っていると衝撃の事実が。僕とレブルが周りには虎に見えたのか?そんな暴れたりしてない……はずだよね?道場に言って指南を受けて、試合をして帰っただけなんだが。


「もしかして何もしてないって思ってる?」
「何かしたっけ?」
「何もしてないわよ。」
「2人して……レブルは基本相手を瞬殺するし、シノブさんに至っては道場傷つけたじゃない。」
「あぁ〜力加減ミスったやつか。」
「ミスったやつかって軽いわね。」
「あの時はこれ外していたからね。」


 いつもつけてるヘルメットを軽く叩く。


「この前は聞かなかったけど、ないとどうなるの?視界は開けるし、身軽にはなると思うんだけど。それだけで、木刀から真空波は出ないわよね?」
「これがないとアイさんとコンタクト取れなくなるからね。いつも力加減は任せっきりだったから。」
「次から対人の時は、絶対それを被ってて。」
「そうするよ。」


 いつもアイさんを頼るのもどうかと思ったりするけど。始めは案内役のAIって考えだったけど、僕にとっては今や欠かせない存在。むしろアイさんなしじゃ日常生活も出来ないのでは?と感じる時もある。


「でもあれはアイツらがいけないわよ。取れって言ったのは向こうだし、シノブさんがあそこまでする必要もなかったのに。」
「まぁ壊したのは事実だし。」
「ん?シノブが壊したなら、俺とゾンで直しに行こうか?」
「もう直したわよ。強度だけで言えば元の100倍……それ以上になったけどね。」
「あーこの前のテントみたいなやつか?」
「いつか建て替えたり壊す時どうすんだ?」
「「「…………。」」」


 その時はその時である。ただの土魔法だし、それなりの道具持ってきたら壊せるでしょう。


「あ、それより貴方!この名前これ以上広めんじゃないわ……よ。っていない。」
「だいぶ前からいないっすよ。」
「そろーり歩いて行ったよ〜」
「不名誉な二つ名が広まる……。」
「いいじゃないですか!私も何か欲しいです!」


 セローの二つ名か。これだけ僕らの噂が広まれば、セロー自身目立つしすぐ出来るだろうと思う。


「もしかして聞かないだけで、既にあるんじゃないかな?」
「ですかね!ちょっと聞いてきます!すいませーん!!」


 ポロって言っただけなのに、それを信じてすぐ確認するセロー。かもだからね?これでなかったりしたら落ち込むのかな?どうしよう……。


「師匠!ありました!私の!」
「そっか。良かったね。」


 危なー!あって良かったよ。ありがとう街の人。


「セローのはどんなのよ?」
「私のは水球の魔導姫って言ってました!」
「水球って水玉使うからかな。魔導はそのまま魔法の事で、きは姫だろうね。セローらしい可愛いもので良かったね。」
「はいです!」
「ぐぬぬ。そんな可愛らしい……残るはラストラだけね。」


 何がぐぬぬだろう。二つ名なんて100%見たイメージでしょう。残るラストラもあまり目立って戦闘しないし。街で何か揉め事があってもアマンに隠れているだけだし。そうなると見た目の金髪関連の何かだろう。


「ラストラのも聞いてきました!」
「僕ですか?そんな目立つような事何もしてないのに。」
「表立って争いに参加しないし、戦闘でも治癒メインだからイメージし辛そう。」
「そもそも僕は街中じゃ戦闘してない。外で見ていた人もいないはずなのに。それで僕のは何ですか?」


 あ、やっぱり少し気になるんだ。


「えっとね。意味は分からないけど、キンカの乙女だって。」
「キンカってあのお金とかのキンカ?」
「そんなラストラは豪遊してないし。金色の華じゃないかな。」
「華って可愛いじゃない!ずるいわ!」
「まーまー。エスト。」
「「……。」」


 皆んなで喋りながら歩く中、口を閉ざす2人がいる。


「2人にも何か作る?」
「シノブよ。こう言うのは誰かが伝えるから価値があるんだ。」
「でも私は聞いたよ〜?女の子だけ聞いてきたけど、アマンとゾンのも聞いてこようか?」
「やめてくれ。俺は無い事実を知りたく無い。」


 そんな無い事が落ち込むか?2人だけないって言うのが寂しいとかかな?


「そうだ!良い事を思いついた。アマンとゾン……」
「「却下だ。」」
「え?僕まだ何も言ってないよ。」
「俺らは商人だ。解体はやっても、生きている魔物を倒す事はしない。」
「したがって、空を飛んで魔力の練習や。」
「剣を覚えて道場破りもせんぞ。」
「僕はいきなりそんな事しないよ。」
「「「…………。」」」


 アマンとゾンは分かるけど、エストまで一緒に睨まれるあれはないぞ?


「空を飛びたいと思ったのが、遠い昔のようね……。」
「セローはこの前出来るようになりました!」
「ほら。」
「……2人は特別だから。」
「そう言う訳だ。俺らは二つ名はいらん。それは血の滲むような努力をした人間に与えられるものだ。」
「さぁ、今日はどこで食べる?さっきの声かけてきた人の所に行くか?」


 2人が望まないならしないけど。隠れて筋トレや基礎練習しているのは、知っているんだけどな。いずれ気が変わるまで待つとしよう。大事なのは本人のやる気だし。


 街を歩いていると目の前に黒い影が。


「レブル斬らない。」
「黒の勇者……あ、シノブでしたっけ?」
「突然どうしたんですか。」


 僕の前に出て剣を構えるレブル。


「怖いわね。何もしないからしまってくれるかしら?」
「なら少し下がりなさい。貴女はいちいち近いのよ。」
「普通に声かけて下さいよ。何でわざわざ上から降って来るんですか。」
「その方が止まってくれるかなって。」


 そんな事してたら地面に着く前に斬られるよ?知っている気配があったから剣は構えないし、レブルにも声はかけたけどさ。


「そうそう。フージが……」


 ―ぐぅぅ。


「……。」
「師匠お腹が空きました!」
「今のはセロー?」
「違うよ〜」
「……私です。」


 ってジュカさんか。そんなお約束みたいに音がなるもんなんだね。


「僕らもこれからご飯にしようと思っていたので、ご一緒にどうですか?何か話があるなら、そこで聞きますので。」
「そ、そうね。急ぎって訳じゃないし。」


 せっかく地元民がいる訳だから、オススメのランチを紹介して貰った。


 その後女子達でスイーツの話題が上がり、女性陣だけで食べ歩きに出かけてしまった。さっきの要件は結局聞けていない。急ぎじゃないって言ってたし、まぁ良いのかな。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品