無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

51話 2人の思い。

 私はここ【メロデ・マウント】の領主になってしまったフージである。昨日より所領民からの手紙がやたらと多くなった気がする。軍の経費や建物や武器の修繕費なんかを見ているより、領民の声を聞く方が街のためだろうと読んではいたんだけど。


「これも。これも。これも……どうなっているんだ?」
「どうかされましたか?」
「びっくりしたあ!ジュカか。」


 彼女は僕の補佐をしてくれるジュカ。いつも突然現れて、気がつけばいつもそばに居る存在。身の回りの世話や、仕事もたまに手伝って貰っている。


「いやね。最近領民からの手紙が増えたじゃない?」
「そうですね。魔族襲来の噂、魔物の軍勢も近づいていると不安なのでは?」
「そうなのかな〜話す内容がいつもと違って、お願いとかじゃないんだよね。」
「と、言いますと?」
「読んでみてよ。その方が早いから。」


 ジュカが手紙を受け取り読んでいく。その横にあったもう2枚も渡しておく。


「これは確かに願いとかではなく……感謝状?」
「やっぱりそう見えるよね。でもそれ僕じゃないんだよ。」
「この手紙に共通するのは、黒の勇者様でしょうか。」
「昨日来たばかりのはずなんだけど。」
「初日でこれですと。明日あたり倍ぐらいに増えていそうですね。」
「うわぁ〜ありえる。」


 明日はもっと忙しくなるのか?そうなる前に休みたい……。


 ―コンコン、ガチャ。


「フージ。例の依頼の報告だ。」
「全く……ノックしても返事をする前に入ってきたら意味がないでしょう。」
「ノックも無しに、そっと入ってくるのは良いのにか?」
「「……あぁ?」」
「その喧嘩は他所でやってくれ。それより報告書は?」
「そうだった。こんな女に構ってる場合じゃなかったんだ。」
「「……あぁ?」」
「話進まないから。」


 報告書を貰って読み進めていく。魔族と思わしき石像があったと書いてある。しかし何かから逃げようと必死な形相で、見つけた時は魔族か疑いたくなったらしい。いったい何から……って1人しかいないか。


 街では黒の勇者と話を広めておいて、街の人達が驚かない様にした。そうでなければ、あの人は怖がられる存在である。顔を覆う兜に、全身黒い皮か何かの服。本人はあまり気にしていないみたいだが、威圧感というか存在感と言うか……見る人にプレッシャーをあたえていることに気づいているんだろうか?


 そして2枚目の報告を読み進める。このページは大量に魔族がここへと向かう話の報告だった。


「魔物の存在が確認出来ない?どう言う事?」
「あーそれな。そのまんまだ。周辺に魔物がいない。」
「そんな訳ないでしょう?ちゃんと見てきたの?」
「仕事はきちんとやるさ。おそらくだが、これもあの兄ちゃんの仕業だろうよ。」
「報告にある。この巨大なクレーターですか?」
「そうだ。何かが落ちて焼け焦げた跡があってな。その周辺にいくつか魔物の残骸があったから、大軍は確かにいた。って事しか分からん。」
「いた……ですか。」


 兵士長が調査依頼を適当にする人じゃないのは分かる。報告通りなら周辺に魔物がいなくなったのは、逃げた可能性が高い。魔物は話したりは出来ないが、本能には忠実な訳だし。


「我々は戦わずして、危機を回避したと言う事でしょうか。」
「そうなるな。兄ちゃん達にでけー貸しが出来たな。」
「そうですね。あの方々はそんな事微塵にも思っていないでしょうけど。」
「ふーん。面白そうな人達なのね。私も会ってみたいわ。」
「頼むから大人しくしてくれよ。ジュカがそこに混ざると危険な気がしてならない。」
「……フージ。」
「何ですか?」
「ジュカならもういないぞ。」


 あぁ……面倒な事にならなければいいけど。なるんだろうなぁ……。


「ダメだ。探しに行こう。」
「仕事放っていくのはマズイだろう。」
「仕事が増えるのはもっとマズイ!」
「黒の勇者様ならなんとかするだろうよ。」
「何かあったらブドーの所為だからね……。」
「分かった。探しに行くから。いじけんな。」


 ブツブツ言いながらも、ジュカを捕まえてくれる良い友だ……自分の仕事は大丈夫なのだろうか?


 まぁいいか。私が気にする事ではないな。


 ♦︎


 僕らはここ【メロデ・マウント】を満喫しようとしている。


 ……はずだった。


「どうしてこうなった?」
『どうしてでしょうか?』


「レブルそっち行った!」
「任せて!」
「ひぃぃ!こっち来た!」
「エスト逃げないで捕まえてよ!」
「無理ぃぃ!助けてぇぇ!!」


 逃げ回るエスト。


「捕まえようとすると逃げて、逃げると追いかけるのね。」
「犬ってそう言うもんだろ。」
「いいから助けてやれよ。」
「私動く動物は苦手。」
「俺もだ。」
「そうだったな……しゃーない。」


 走り回るエストに近づくゾン。


「よいしょ。」
「きゃ!?」


 ―キャンキャン!


 ゾンの脚にしがみつく犬。


 エストを抱え上げるゾン。


 抱えられてじっとしているエスト。


「ど、ど、どうして?」
「こうなった……ってか?俺だって鍛えてるからな。」
「え?あ、そうなの……。」
「つっかまえた!」


 ―キャンキャン!


「おぉ。さすがレブル。」
『えぇ。素晴らしい動きでした。』
「そうだね。一瞬だけどブレて見えたよ。」
『私と忍様が魔力を使ってないとはいえ、一瞬でも越えるとは素晴らしい成長です。』


 レブルの居たのは、セローのいた場所か。犬まで距離は約5メートルかな?それを一瞬で駆け抜けたんだな。セローの足元から犬まで焦げた足跡がある。一歩一歩に火属性で加速……でもあんな精密な魔法が僕に出来るだろうか?1人じゃ無理だろうなぁ〜


『私が手助けしても難しいですよ?』
「やっぱり?」
『申し訳ありません……。』
「少しは自分で出来るように頑張るさ。」
『私も努力します。』
「一緒に頑張ろう。」


 僕もアイさんもまだまだ強くなれる。皆んなに置いていかれないようにしよう。




 皆んなが僕を見る。なんだ?


「師匠が頑張るなら私も!」
「私だって負けないわ。」
「セローもレブルも程々にな。シノブの頑張り方はきっと次元がおかしいだろう。」
「あの〜私はいつまでこのままで?」
「あー悪い。」
「いいのよ…………ありがと。」
「お、おう。」


 ふむ。ふむふむ。これはもしかすると?


「おかしいですね?黒の勇者のハーレムだと思ってましたのに。」
「誰がハーレムって?」
「貴方ですよ。黒の勇者様。」
「黒の勇者……それ何とかなりません?」
「私は貴方の名前を知りませんから。」
「僕は忍です。」
「私はジュカと申します。」


 僕の横にシレッと立っていたこの女性はジュカさんと言うらしい。この人は僕の事を知っているらしいけど、僕は知らない。


「ところでジュカさんは僕に何か御用でしょうか?」
「いいえ。」
「なら?何故ここに?」
「何故って?興味があったから。」
「興味ですか?」


 僕はこの街に来たばかりだし、見も知らない人に興味を持たれる事はしていない。なので僕を睨むのはやめて下さいレブルさん。


「ふふ。ハーレムじゃなくて純愛なのね。」
「純愛?」
「あれー?もしかしてシノブって……」
「見つけた!」
「おや?これはこれはブドーではないですか。」
「外でその名を呼ぶな。兵士長と呼べ。」


 兵士長がジュカさんの首根っこを掴む。ぷらーんと持ち上げられるその様子は、さっきのゾンとは大違い。


「すまんな黒の勇者。」
「兵士長までそう呼ぶんですね……忍と呼んで下さい。」
「分かったシノブ。ジュカが何か粗相はしてないか?」
「粗相?別に何も……いや、ハーレムとか純愛がどうとか。」
「失礼な!私は何もしてないぞ!」


 そう言うと兵士長は周りを見る。一人一人の顔を見る。


「ハーレムと純愛ねぇ……。」
「そうよ。シノブってば……むぐ。」
「大人が首突っ込むな。あーそうそう。お前のご主人様が連れ帰って来てくれって。」
「フージが呼んでるの!こうしちゃいられないわ!またね黒の勇者様!」


 首根っこを掴まれていたジュカさんは、兵士長にそのまま連れ去られていった。


「ちょっと離してよ!早く帰らないといけないんだから!」
「はいはい。大人しくしてろ。見失うと面倒だ。」
「はーなーしーてー!」


 嵐のような人って、あー言う人なんだな。今後、関わりたくない。


「レブル?そんな怖い顔してどうしたの?」
「別に。」
「師匠!レブルが怒ってます。」


 僕に報告されても困りますセロー。そして怒っている理由は僕には分かりません。


「シノブには難しいだろうな。」
「それはゾンも……。」
「なんだエスト?」
「何でもないわ。」


 そこもそこでなんか怒ってないか?


「僕には分かり……」
「しぃ。ラストラ。」
「ん!」


 分かっているなら教えてくれ。アマンが首を横に振る。


 はぁ〜考えますよ自分で。それでいいんでしょ。


「…………。」


 ジュカさんが来てからレブルは睨んでいた。そうなると僕とジュカさんに原因があるんだろう。そこで話していた事は少ない。ハーレムと純愛……てか、ハーレムってなんだよ。変な噂の所為だろう。


「むぅ。」
「シノブさん。」
「え?」
「何か食べに行きましょう。」
「え?」


 怒ってない?何かを食べに行く?お腹が空いていたのか?違うと思うんだけど。


「ほら。行きましょう。」
「あ、うん。」


 レブルに押されて僕は歩き出す。


 街を満喫する為。


 ―キャンキャン!


 こいつを持ち主に帰してからだな。

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