無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

43話 無敵のスタート地点。

 ラストラが一世一代の告白をしてから早1ヶ月。僕らはチーム毎に特訓する事にした。


「あ、セローそこはもう少し魔力を抑えても平気だよ。」
「はい!師匠!」


 今僕はセローと2人で森の中にある湖の上にいる。空を飛ぶ練習も何度かして、飛行装置も何度か改良をした結果としては飛び続ける事は出来なかった。そして今もその飛行装置を弄っている。


「やっぱり魔法の相性だったのかな?」
『セローは魔力コントロールも上手ですし、あの跳び方で良いと思います。本人も喜んでいますし。』
「水圧をコントロールして、急加速と急停止の繰り返し。空中で静止するのは難しいけど、機動力って面では僕と同じくらい動けるしね。」


 セローは水魔法を主体に飛び跳ねる飛び方を覚えた。空中で静止する事も出来なくはないけど、止まる間は水圧全開で放出し続けないといけない。魔力消費も激しく、とてもじゃないけど使い物にはならなかった。


 そして今は水圧と浮力の実験中。水面を歩為の魔力と走る時の違い。そして現在は足踏みしてその場に留まるまで出来るようになっている。本人としては水面に止まる事が目標らしい。


「師匠!アイさん!どうでしょうか?」
「ん?おー足踏みしないで止まれているじゃないか!凄い凄い!」
『水面下で魚が被害を受けていますが……まぁいいでしょう。』
「見えない所で足をかいて浮き上がるアヒルみたい。」
「師匠!アイさんはなんて!?」
「まぁいいでしょうだって。」
「やった!私やり、きゃ!」


 ―ボチャーン!


 喜び過ぎて集中力が切れたか。セローの近くまで行き手を伸ばす。


「うぅ。面目ないです……ぶくぶく。」
「いいって。これで浮遊の試験は合格だしね。」


 湖に落っこちたセローを回収。服を乾かしてから皆んなのいる町へと戻る。このくらいの時間なら、あにイベントにも間に合うかな?


 ♦︎


 ―カン!カカン!カツン!


「いいぞーいけいけ!」
「あぶね!ふーヒヤヒヤするぜ。」
「どっちも頑張れ!」


 まだ打ち合う音がするって事は間に合ったらしい。イベントの邪魔をしちゃまずいし、このままここから観戦するとしよう。


「ん?セローちゃんとシノブさんじゃないか。」
「あ、こんにちわ。屋根借りてます。」
「あはは。そんな事言われた事ないわ。どうぞ。そう言えば今日だったわね。」


 屋根に転移した僕とセロー。洗濯物を干しに来た家のおばちゃんに声を掛けられた。そのまま3人でイベントの行方を見守る。


「せや!」
「は!」


 ―カーン!


 槍を使う相手の攻撃を引きつけ、ギリギリで剣を滑らせ軌道を外す。槍を弾き反撃に移るも、自身を軸に回転して勢いを乗せ攻撃する。


 ―ビュン!


「「「おぉぉぉ!!」」」


 それをしゃがみ回避する。手に汗握る展開に、周りの声もヒートアップしている。


「頑張ってるねエスト。」
「そうだね。ちょっと魔力の流れに乱れたけど。少しは成長したみたいだね。」
「私には早すぎて見えないわね。それでいて少しって、師匠さんは厳しいわね。」
「でも師匠は最強です!」
「ふふふ。そうね〜」


 やめてくれセロー。こっちが恥ずかしくなるじゃないか。こんな時は、このヘルメットしていて良かったと思う。照れた顔とか見られたくないしね。


「実際はエストの魔力には無駄が多いです。動かす度にあんな魔力流していたら、攻撃がバレバレです。」
「おやおや。セローちゃんも師匠に似て辛口ね。」
「です!私は師匠の弟子ですから!」


 別に僕もセローも辛口って程じゃないけど。試合を観ているレブルも顔付きが少し険しいって事は、きっと考えは僕やセローと一緒なんだと思う。


「あ。ギルマスさんが限界かもです。」
「エストはあれだけ魔力使っている割にまだ平気そうだ。レブルとの訓練で鍛えられたおかげかな。」
「毎日町で見かけた時は、ヒーヒー言って頑張っていたからね。あの子はいつも疲れた顔して、スタスタ歩くから体力があるのかもしれないわね。」


 そう言えば効率の良い修行が出来るって、レブルが何か言っていた気がする。いつも朝のランニングくらいしかしていないから、効率よく鍛える方法があるなら是非知りたい。


 ―カァーン!ドシ。


 槍が弾かれ空を……こっちに飛んでくる。


「危ない!」


 おばちゃんが叫ぶ。その声を聞いて皆んなが僕とセローの方を見る。


 ―パシ!


 飛んできた槍を片手で受け止める。


「危ないな〜もう。」
「セローちゃん……。」
「ナイスキャッチ、セロー。」
「これくらい大した事ないです。」


 セローが動くのが見えたから、僕はその場を動かず見ていた。槍を受け止めてなければ、僕に頭に当たっていた所だ。皆んなの視線も気になる。


「皆さんこっちを見てどうしたんでしょう?」
「もう試合は終わったし。ここで見てたのバレたから下に行こうか。」
「はいです。おばちゃん、バイバイです。」
「え?あぁ。今度は玄関から遊びにおいで。」


 さて皆んなの所までテレポート……。


「とぅ。」


 ―バシャ。スチャ!


 テレポート使って降りようとしたんだけど、セロー先にそのまま飛び降りてしまった。水を上手く使い2階の高さから降りても怪我一つない。


「大丈夫セローちゃん?あの高さからって無傷な訳が……。」
「そうですか?これくらいの高さくらいへっちゃらですよ?ほら、師匠だって。」


 ―ビュン、ッス。


「ん?どうかした?」
「シノブ一体セローにどんな訓練を?」
「え?普通に魔法使って、空飛ぶ練習してただけだよ?」
「その結果があれ?」


 あれって何の事だろう?あれ……あれ……。皆んなの視線が集まった時から、今までの間に何か特別な事したっけか?


「別に特別おかしな事はないよね?アイさん分かる?」
『転移は忍様が行いましたし。セローが槍を止めて、着地に魔力を使った事くらいでしょうか?』
「え?槍を受け取るのも、魔力の流れとか見ていれば対処できるレベルだし。着地に魔力は使わないと怪我しちゃうし。」
「それよそれ。アイさんはよく見ているわね。」
『見ていますが。私も忍様と一緒で、特別凄い事は無かったと思います。』
「アイさんも僕と同じ意見だって言っているよう。」
「あ〜……。」


 そんな目で見られても困るよ。そこに戦いを見ていたレブルが近づいて来る。


「シノブさん。セローの訓練はどうなったの?」
「魔法剣は出来なかったけど、水玉の数を増やしてコントロール出来るようになったよ。空には水の水流を使って空中で飛び跳ねる事は出来たかな。結果的に機動力は僕と同じくらいかな。」
「だそうよ。シノブさんにとっては、これくらい普通な事なのよ。」
「何それ化け物じゃない。」
「化け物って……。」


 ただ出来た事言っただけなのに。それにセローだって頑張ったんだから。


「同じ期間でセローは遠くに行ってしまったわね……。」
「遠く?こんなに近くにいるのに?」
「そう言う所は変わらないのね。」
「ん?ん〜……まぁいいや。師匠!明日からはどうしますか?」
「ここでの修行も1ヶ月か。早いもんだね。」


 すぐにでも旅に出ても良かったけど。急いでいるわけでもない僕達は、当初の防具の新調と戦闘面の強化の為修行をする事にした。


 ラストラの回復魔法に至っては、傷の治療と体力回復しか出来ていなかった。薬の知識に町医者さんの協力してもらい、どんどん医学を覚えていくラストラ。面白がって色々教えた結果が、傷も病気も治せる回復師へとなった。


 エストレアはレブルがみっちり教えた甲斐あり、ギルマスにも立会いで勝ててしまうくらいになった。黒い剣の扱いも慣れ、剥き出しだった剣に特製の鞘を作ったらしい。


「その鞘が例の特別製?」
「そうよ。ラストラに手伝って貰って、ようやく完成したわ。」
「ラストラが手伝ったの?」
「僕はただ魔道具提供しただけっす。」
「そんな事ないわよ。色々と相談にのって貰ったし、何よりこの魔道具私の為に作ったって聞いたわよ。」
「いや、まぁ〜はは。」


 エストの剣に着いている金色の宝石に仕掛けがあるらしい。ラストラが言うには、大気中に存在する魔力を集め、剣へと魔力を貯める事が出来るとか。
 何でか説明はされたけど、原理みたいな物は難しくて理解するまで大変だった。ラストラは皆んなには適当に流すのに、僕だけは分かるまで教えてくる。別に僕は魔道具を作りたい訳でもないんだけどな〜


「それでレブルの特訓はどうだったんだい?」
「レブルの特訓……地獄だったわ。」
「そんな本人前にして言う事かしら?」
「私は言うわ!あの特訓は誰がどうみても地獄よ!」
「そうかしら?私は効率的で凄い訓練方法だと思うんだけど。」
「あーそれ聞きたかったんだ。どんな方法なの?」


 エストが特訓の内容を話す。中身は至ってシンプルで、体力の限界で倒れたエストをラストラが回復。怪我は勿論の事、体力も回復出来た事。


「それが全ての始まりだったわ……倒れても、倒れても起こされて。心は疲れているのに体は元気って言う。」
「それがおばちゃんの言っていた、スタスタ歩くけど顔が疲れているってやつか。」
「ね?お手軽に限界を超えられて効率的でしょ?」
「レブルはこんな事言うのよ!おかしいでしょシノブ!」
「そんな同意を求めてこられても……僕は良いな〜って思うけど。」
「ダメだ!セローはおかしいと思うわよね?」
「ん?元気になれるならいいと思う〜」
「ダメだわ!このパーティにまともな考えをする人がいない!」


 まともな考えって、元気になる魔法であれば良いと思うよ?魔力は以前にセローに分けた事あるけど、あれ以降使わないようにしている。丁度いい何かがあるかもしれないな〜今度ラストラに教えて貰おう。


「一応言うけど僕は反対したっすよ。体力は回復出来ても、減った魔力を即時回復は出来ないんで。」
「魔力なら僕が回復できるよ。」
「え?体力と魔力を回復出来たら最強じゃない?」
「師匠の魔力付与……うっぷ。私は遠慮しますぅ〜」
「私も断るわ。」
「それズルくない?」


 皆んなもっと喜ぼうよ。体力も怪我も魔力も心配する事は無いんだから。


 ♦︎


 屋敷に帰るとリビングにはアマンとゾンが居た。


「おう。修行は終わったか?」
「うん。とりあえずね。僕らが特訓している間にアマンとゾンは何していたの?」
「普通にシノブ達が持ってきた素材を捌いて、道具屋とか武器屋に売りに行ってたな。」
「1ヶ月も居ればだいぶ顔も広くなってな。たまに露天とか開いて商売させてもらったりしたぞ。」
「へ〜。」


 やっている事がいつもと変わらない気もするけど。アマンとゾンも特訓に誘えば良かったかな?


「いつもとやってる事同じとか思っているだろ?」
「べ、別に……。」
「まぁ一緒だがな!」
「一緒なんじゃん。」
「まぁ解体もだいぶ早くなったし、途中で色んなお宅にお世話になって料理の腕も上がったな。」
「時々屋敷に帰ってくるのが遅いと思ったら、そんな事までしていたんだ。」
「だな。俺らは旅の補佐しか出来ないからな。旅費も稼がなきゃいけない訳だしな。」


 そういう意味では、僕らはアマンとゾンにだいぶ助けられている。防具新調も生活面を一切機にする事なく修行出来たのも、2人が後ろから支えてくれたから出来る事だ。


「2人ともありがとう。」
「よせよせ、俺らの仲じゃないか。」
「そうだぜ。将来自分の店を持つのに経験は大事だからな。」


 そうか。始めは2人で店を出すとか言ってたな。色んな経験出来るように、僕も何か手伝える事があれば良いんだけど。それは今後考えていこうと思う。


「さて、そろそろ出発する準備をしようか。」
「準備ならいつでも出来てるぜ。1ヶ月修行って話だったからな。」
「シノブはダラダラしたりしないで、きちっと期日は守ると思ったからな。」
「僕は割と適当な方だと思うけど。」
「戦いについてはそうだけどな。根本が真面目なんだよ。」


 中学の時も真面目だよねってよく言われたな。まぁどっちでもいいんだけど。


「そう言えば旅をするなら、ラストラの親に挨拶しないとだな。」
「アマンさん……。」


 きっとまたやらかす。この感じはきっとだ。


「でも両親住んでいるところは少し遠いいっすよ。」
「大丈夫だよ。【ホッパー】まではテレポートですぐだよ。」
「あれ?言ってなかったっけ?両親そこには住んでいないんだ。」
「じゃ?どこに住んでいるの?」
「王都。」
「王都か行った事ないな。じゃ次の目的地はそこでいい?」


 仲間達は頷く。次の目的地は決まった。異世界の中心地、王都ライドステア。


 この仲間達と一緒なら絶対面白くなる。今から楽しみだ。



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