無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

29話 イライラすると攻撃的になる?

 翌日、道中何もなく次の町【ヴァーク】に到着した。


「止まれ!」


 門番が僕らの馬車を止める。


「すまんが身分証の確認をしても良いか?」
「構いませんよ。何かあったんですか?」
「近隣の街で魔族の目撃情報があってな。」


 あーあれか。確か魔族って言ってたしね。


「でも魔族の目撃情報があったからって、凄い警戒態勢って感じだね。」
「まぁな。普通はここまで厳しくはしないんだが。何でも近隣では突然湖を作るような魔法が目撃されたみたいでな。」
「「「…………。」」」


 おや?湖を作るような魔法って大変だな。町で使われたら沈みそうだ。


「しかも自由に空を飛ぶ魔物も目撃されているとか。」
「「「…………。」」」


 空を飛ぶ魔物か。それくらいだったら、僕達も見かけたけど既に倒したし。今の僕らなら僕とレブルが空中戦を出来るから問題はないな。セローも練習してみたけど出来なかった。水と土が得意なセローは少し難しいようだ。頑張れば出来る気がするから、また今度練習してみよう。


「そんな訳で少し厳しくチェックしているんだ。特にその……」
「ん?」
「君が悪い訳じゃないんだが。見た目を隠して侵入する事も考えられるのでな。」
「そうだね。兜とか見た目隠せば分からないもんね。」
「「「…………。」」」


 皆んなやけに静かだな。ほら、身分証出さないと……。


「あ。僕の事か。」
「……すまんな。」
「いえいえ、お仕事ですし。はいどうぞ。」


 僕はこんな時、冒険者登録しておいて良かったと思うよ。


「よし。大丈夫だ。通ってくれ。」


 あれ?皆んなの分は良いの?こう言うのは代表者だけなのかな?特に問題はなく街へと入る事ができた訳であるが。


「門番の人も大変だね。」
「原因が99%シノブさんの所為だけど。」
「さすが師匠です!」
「そこ褒める所じゃないわよ。お弟子さん。」
「師匠は凄いんですよ……お嬢様。」
「見ていれば分かるわ。」


 何か会話に違和感がある……。


「何か引っかかるわね。」
「レブルも?それが何だか分からないけど。」
『忍様。恐らくですが、セローの時と一緒では?名前を知りません。」
「あぁ。それか。」
「アイさんは何だって?」


 レブルは僕とアイさんが喋っているのを感じ取っているのか、タイミングがいつも良い。聞こえているのでは無いかと思う時もある。でも実際は聞こえていないのでこっそり教える。納得した顔で頷く。


「あの。ここまでありがとう。」
「お陰様で生きて辿り着けましたわ。」


 深く頭を下げてお礼を言ってくる老夫婦。


「お気になさらず。それより急いで来たんですから、目的の場所に行った方が良いのでは?」
「しかし、何もお礼は出来てないのに。そそくさと別れるわけには……。」
「お礼なら昨日ご飯を作って貰ったじゃないですか。」
「そんなあれは当たり前の事を……。」
「僕達も同じです。冒険者として力を持った者として、当たり前の事をしただけですよ。」
「……あなた。ここは甘えさせて貰いましょう。」
「ふぅそうだな。この恩は一生忘れん。ありがとう。」


 深く頭を下げて老夫婦は町へと消えていった。去り際に何か紙を渡された。


「良い人達だったわね。」
「そうだね。」
「それは?」
「これは何かのメモ書きだと思う。アイさん。」
『トランスレーション。どうぞ。』
「ありがとう。なになに……住所と何かの店の名前?」


 その髪を見てるとお嬢様が覗き込んでくる。


「あら?そこは有名な鍛治職人がいるって言う武器屋の名前よ。」
「知っているの?」
「えぇ。うちの武器や防具の卸先よ。あのおじさん今も元気かしら?」
「へぇ〜。世間って狭いね。」


 たまたま一緒に町に来た者同士が、少しだけ繋がっているっていう奇跡。こんな広い世界で早々あるものじゃない。


「とは言え、今日の宿を決めなきゃね。」
「そうだな。前の町みたいに走って勧誘も居なそうだしな。」
「はは。そんなのあの街くらいだよ。とりあえず適当に行くか。」
「それならまずギルドへ行きましょう。地図もあれば情報だって多少あるはずよ。」
「そうですね!いざギルドへ!で、どっちか聞いてきますね。すいませーん……。」


 老夫婦とも別れたし、僕らも動かなきゃね。レブルの言うギルドで地図や情報を集めたいから、宿を確保する事で決まった。セローは歩いている人に道を聞きに行った。


「ギルドへ行くなら案内するけど?」
「あれ、まだ……。」


 居たんだって言葉を飲み込む。忘れてたって言えば面倒な事になりそうだし。


「お二人も目的地には着いた訳ですし。好きにして良いんですよ?」
「別に私は急いでいた訳でもないわ。」
「そうなの?別に借りがとかのくだりはもう良いからね?」
「そうにもいかないわ。」


 えーまたあのくだりやる訳?


「貴方に折られた剣の借りは返して貰うわ。」
「剣の借りを返して貰う……?」


 あれ?この会話の流れだと僕が借りを作った話になっている。言葉のミスかな?


「あ、そう言えば。町へ着いた訳だし、剣は返して頂戴。」
「あ、そうね。ありがとう。」
「どういたしまして。じゃ、行きましょう。」


 セローが場所を聞いたみたいで、手を振り僕らを呼ぶ。


「では、また何か縁があれば……。」


 スタスタ歩き始めたレブル。


「じゃーな。街中だが気をつけてな。」
「短い間だったが、さらばだ。出発だ。」


 アマンとゾンが短く挨拶をして、馬車を走らせる。


「それじゃ。」


 僕もそれに便乗して馬車へと乗り込む。


「…………ほ?」
「待ちなさいよ!」


 馬車に並走させる様に着いてくるお嬢様。馬は降りて手綱を引いている。


「……っち。」
「ちょっと貴女。今何か……?」
「気のせいじゃない?ほら剣の擦れた音かもね。」
「……なら良いですけど。」


 僕には聞こえた……レブルの舌打ちが。アマンとゾンも聞こえたみたいで顔が引きつっている。レブルはお嬢様があまり好きじゃないのかもしれない。


「私はまだ借りを!」
「貸した覚えも、ましてや借りた覚えは無いわ……。」
「っう!?」


 そんな怒ってどうしたんだレブル?お嬢様が気迫で押されて黙ってしまったよ。


「わ、私はその……剣を折られた……。」
「折られた?」
「ひ!自慢の剣が通じなくて……ちら。」
「……。」
「このままでは職人としての自信が無くなりそうで……ちら。」
「……。」


 そんなレブルの顔色伺う様に喋らなくても。何も言わない今のレブルは怒った感じはしない。さっきまで何かに怒っていた?


『レブルは忍様の所為にして話す、彼女に苛立ちを覚えたのでしょう。』
「そうなの?」
『当たり前です。許可さえ頂ければ、私自ら手を降したいくらいです。』
「そ、それは怖いね。」
『私に手は無いですので。忍様のお手を汚すのでと我慢していました。』
「……そうか。言いたい事あったら僕に言ってね。アイさん。」
『お心遣い有難う御座います。レブルがいるので今は問題ありません。』


 何だかんだで、レブルの事好きだよねアイさん。直接話した事はないけど、きっと話せば友達にはなれるんじゃ無いだろうか。アイさんに友達か……。


「シノブさん。2人が一緒に行動したいって。どうする?」


 アマンとゾンは手を僕に向けて任せるって感じだ。セローは……ずっと手を降っている、今はぴょんぴょんジャンプしている。大丈夫だよ。気がついているから。


「分かった。この町では一緒にいよう。でもずっとこの町には居ないから。その時どうするかは改めて考えようか。」
「それで良いわよ。」
「……それで良いわ?」
「そ、それでお願いしますわ!」
「……。」


 なんか寒気が一瞬だけどした。


「怖いな……。」
「まぁ怒る気持ちも分からんでもないけどな。」
「なんか少し寒気がしたよ。」
『忍様。これぐらいで治らないのであれば……。』
「だ、大丈夫だよ。セローも待っているから行こうか!」


 この2人はなるべく近づけないでおこう。


 ♦︎


 セローの案内でギルドまで来た。入口では頻繁に人の出入りがある。


「あっと。ごめん……なさ、いぃ!?」


 僕にぶつかりそうになった人が、物凄い形相で驚きギルドの中に戻っていく。


「言っておくが、こいつは人だからな。」
「へ?あ、その……ごめんなさい!」
「ん?別にぶつかってないし。こちらこそ驚かせてごめんなさい。」


 アマンがすかさず僕を人だからと話した。見て分かると思うんだけど……。


「全身黒いし。シノブはなんか不気味に見えるよな。」
「酷いなゾン。そんな事なくない?」
「私はカッコいいと思うけど。」
「です!師匠は不気味じゃありません!不思議なだけです。」


 レブルはありがとう。そしてセローはフォローしているつもりなんだろうか?


「門で魔族の話があったからかしら?」
「かも知れませんな。魔族は黒い装備を好む傾向がありますし。」


 お嬢様が言う門での、僕だけ確認はそう言う意味があったのか。しかし黒い装備か……今度防具を変えるか考えたらみるかな……。


「貴方はいつもその格好なの?他に装備はないかしら?」
「ん?今まで困ってないから、ずっとこのままだよ。洗濯も魔法で出来るし。」
「魔法で洗濯って……。」
「やってみようか?」
「いや、ここで脱がれても……。」
「そんな事しないよ。」
「それは後でいいから。受付行こうぜ。皆んなの視線がそろそろ気になるしな。」


 さっきからギルド内の人達に、見られているのは感じてたけど。それも僕が黒い装備だからかな?


『忍様。視線を消しましょうか?』
「え?見られない様に出来るの?」
『はい。多少ですが目に障害は残りますが。よろしいですか?』
「よろしくないよ!どうしたの?最近物騒だよ!?」
「アイさんはなんて?」


 アイさんに内容を聞いてレブルに伝えた。


「閃光ね……ありだけど。ギルドの人に迷惑が掛かるのは、やめた方がいいわね。そうね……威圧みたいな事は出来ないのかしら?」
『それも良いですね。忍様の凄さが周りに伝わります。』
「閃光も威圧もしないからね?ほらほら、ギルドの人も見てるし。受付行くよ〜。」
「シノブさんが良いなら、それで良いけど。」


 レブルもアイさんも何だか攻撃的だな〜僕は全然気にしてないのに。


「ようこそ【ヴァーク】ギルド支部へ。本日はどの様なご用件でしょうか?」


 受付の人は普通に対応をしてくれる。まぁ普通はそうなんだろうけど。


「前の街で手紙を貰ったので、渡して欲しいのと。地図を頂ければと。」
「畏まりました。地図は1パーティ2枚まで無料です。それ以降は1枚銅貨2枚になります。どうされますか?」
「僕とアマンに1枚ずつで、お嬢様達はどうします?」
「私達は知った場所だから要らないわ。」
「そう。なら2枚お願いします。」
「すぐにご用意します。それと手紙をお預かりしてもよろしいでしょうか?」


 あ、手紙か。コレクトの空間から手紙を取り出して、受付の人に渡す。


「……え?今、何も無いところから手紙を……?」
「空間魔法です。」
「く、空間魔法?そんな古代魔法が……あ、失礼しました。お預かり致します。こちらで少々お待ち下さい。」


 驚いた様子の受付の人は、手紙を預かり奥へと行った。


「おい、シノブ。そんな人前でポンポン見せない方が良いって……。」
「そうだっけ?今度から気をつけるよ。」
「今度な……まぁもう遅いと思うけど。」


 さっきの受付の人ともう1人、若い女の人が出てきた。


「君達がこれを?すまないが、奥で話をしても良いかな?」


「ギルマスが出てきた!?」
「あー今日もお美しい。」
「それよりあのパーティ一体何者なんだ?」
「それよりってどう言う事だ!あの人の美しさはな!」


 ―パンパン!


「ギルド内で揉め事は止めてくれ。」
「「はい!」」
「いい返事だ。頼むぞ。」
「「はい!!」」
「やれやれ。すまないな。それでどうだろうか。ここでは少し目立つのでお願いしたいんだが?」
「はい。その方が良さそうですね。」


 手紙と地図を貰いに来たのに、何故かギルマスにお呼ばれした。あの渡した手紙に一体何を書いてあったんだろう……。

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