無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

28話 空を統べる者達?

 街を出発して色々あった。


「そんな事より!シノブさんだけ空を飛ぶなんてずるいわ!」
「これはアイさんがフォローしてくれるからであって。」
「それはずるいわ。私でも飛べるようにならないか聞いてよ!」
『なりますよ。もちろん忍様もあの装備無しでも飛べるかと。』


 なんか僕自身がさらに簡単に飛べるようになるらしい。


「レブルはもう飛べるじゃないか。」
「あれは滞空時間の長いジャンプよ。浮いてるわけじゃないわ。」
「ん〜馬車での移動中に飛ぶ練習できるかな〜?」
『レブルであればコツさえ掴めば出来るようになると思いますが。』
「コツね。それって実際どうするの?」
『忍様がレブルを持ち飛べば良いのです。』
「そんだけ?」
「どう?どうなのシノブさん!」


 アイさんと話している限りでは、移動中でも出来そうだけど。


「やってみる?」
「勿論よ。何でもするわ!」


 凄く期待された目をされている。まぁレブルが良いならやるけど。


『まずはレブルに翼を出させて下さい。』
「レブル。あの翼を出してだって。」
「はい!」


 馬車には追いつくからと、僕とレブルだけ降ろして貰った。


 ―ボォゥ!


 随分早くなったな。剣を抜いてすぐその姿になれるのか。


「で、どうするの?」
『レブルの腰を掴んで下さい。忍様はそれでレブルを支え飛んで貰います。』
「レブルの腰を掴んで飛ぶだけね。了解。」
「え?腰?」


 ―ガシ。


「ひゃん!?」


 ―ッバ!


「あて。」
「あぁシノブさんごめんなさい!」


 驚いたレブルの翼がビーンてなった。後ろにいた僕は当然当たる訳だ。別に痛くはないから良いんだけど。


「じゃ、飛ぶよ。」
「お願いしま……」


 ―ビュン!


 レブルを掴み浮かび上がる。


「え?」
「どう?飛んだ感想は?」
「た、高い……。絶対離さないで。」
『忍様少し馬車と並走を。レブルに翼を広げ、風が当たる感覚を感じて下さいと。それと消して忍様に翼を当てないように!』


 アイさんに言われた内容をレブルに伝えた。僕に当てないようにとは言ってない。


『忍様がお好きなのであれば、私は何も言いませんが。』


 ボソッとアイさんの言葉が聞こえた。果たしてどっちの意味か……。僕はやられるのが好きではないと言いたい。でも声に出すとなんか恥ずかしいから黙っておく。


「馬車の方行くよ。」
「えぇ……。」


 高度を徐々に下げ馬車と横並びに飛ぶ。


「レブルが飛んでるように見えるな。」
「翼があるから、何となく飛べるのは分かるんだよ。」
「師匠1ついいですか?」


 皆んながレブルの飛ぶ姿を見て、セローが僕に質問をする。


「師匠はどうやって飛んでいるんですか?」
「「(聞いたかそれを……ゴクリ。)」」
「どうって。アイさんに作って貰ったこの翼で…………。」


 背中を指すことが出来ない。そして背中にある違和感を感じる。いや、どちらかと言うと。


「何もついていない?」
「あ、やっぱりそうなんですね。隠蔽魔法とか使っているのかと思いました。」
「アイさん?あれどうしちゃった?」
『忍様は出さずに飛ばれました。』
「え?」


 出さずに飛んだ?飛べる感覚もあるし、飛んでいるからてっきり着けている気がした。翼で叩かれた時に忘れていたのか。


『いずれ無くても出来ると言いましたが。まさかすぐに実行されるとはさすが忍様です。』
「あー、まさかそんな事故があるなんて……。」
「何か言った〜?」
「何でもないよ!飛ぶ感覚掴めそうかい?」


 レブルは僕の背中を見ていない。地上に降りた時はこっそり翼を装備しておこう。実は行き当たりバッタリと言うか、飛べてた奇跡を知らない方がいいだろう。うん、そうしよう。無くても飛べるんだ……とか説明が面倒だからではない。


『そろそろ仕上げと行きましょう。』
「そろそろ仕上げだって。」
「ドキドキするわね。」
『忍様。上空50メートルに。』


 レブルを抱えて上空まで上がってきた。


「さっきより風が強いね。」
「そうね。でも高さが違うとこれだけ変わるのね。」
『忍様。手を離して下さい。』
「この違いをしっか……。」


 アイさんに言われ手を離す。そのまま飛ぶかと思ったレブルは落ちて行く……真下に。


「りぃぃぃ!?落ちてるぅ!!」
『風の受け方は分かるはずなので、後は感覚を掴むしかありません。』
「いや、随分とスパルタだね。」
『忍様はすぐ出来ましたけど?』
「そう言えばそうだね。」
「たーすーけーてー!」


 バタバタ暴れて落ちるレブルを、地面に到着する前に回収する。


「突然酷いわ……夢心地が一気に走馬灯に変わったわ。」
「風の受け方は分かったから、後は飛ぶ感覚を掴むだけだってアイさんが。」
「いや、アイさん。そんな簡単に言うけどそんなのすぐ出来る……。」


 腕の中に抱えたレブルが僕を見る。


「シノブさん。アイさんが作った翼は?」
「……コレクト。ほら、あるよ?」
「今まで無かったわよね?」
「……翼は隠していたんだよ。」
「へぇ〜。でも、コレクトって収納魔法よね?」


 鋭いなー鋭いよレブルさん。なんか少しだけ怒ってる気がするけど何かしたかな?


「はぁ……。シノブさんは感覚だけで飛べるのよね。背中のそれをね。」
「ははは〜。出来ちゃった。」
「だからアイさんの基準が少し高いのね。そんなぶっつけで出来るわけ……。」
『忍様。今です!投げて下さい!』
「なぁいぃ……またぁぁぁ……!!」


 そしてまたバタバタ暴れて落ちるレブル。そしてキャッチする。


「シノブさん……離す前に言って欲しいわ。」
『分かっていては意味がありません。咄嗟に出来なければいけませんから。』
「分かっていては意味がないし、咄嗟に出来なければだって。」
「これもしかしなくても出来るまでこれが続くのよね……。」
「大丈夫。レブルなら出来るよ。」


 そしてこの後もパラシュートなしのスカイダイビングは続く……。


 ♦︎


 何だかんだで着いて来た私と爺や。だけどさっきから信じられない光景が、目の前で繰り広げられている。


「あれは何をしているのかしら?」
「あれは空を飛ぶ練習なのでは?」


 空を見上げると叫びながら落ちる赤い翼を生やした女。それを受け止めまた上昇する黒い男。


「きゃぁぁ!」
「……地獄ね。」
「案外そうでもないぞ〜。」


 そう声を掛けてきたのは馬車を操る従者?


「レブルはあれで結構楽しんでいる。」
「そうなの?叫び声が聞こえるんだけど。」
「実際叫んでいるが、諦めたり止めようとしないから。地獄って訳じゃないだろう。」
「そうだな。それに落ちればシノブが受け止めてくれる訳だし。」
「レブルにとってはどっちもご褒美ですね!」


 この人達が何を言っているかよく分からないわ。受け止めてくれるって言っても、もし落としたら?そもそも人が空を飛ぶってどうなの?そりゃ飛べたら気持ち良さそうとか思わなくもないけど。


「きゃぁぁ!死んじゃう!!」
「あはは。大丈夫だって。それー。」


 楽しそう?なんか男の方が楽しそうではあるけど……。


「ただいちゃついているようにしか見えなくなってきたわ。」
「だろ?だからあれはほっといていいんだ。」
「…………。」
「お嬢様にもいずれ現れますぞ。素敵な殿方が。」
「人の心を読まないでくれる?それにあんな殿方はお断りよ。」


 変な黒い格好で顔も見えなくて。女の子をポンポン空に投げて、楽しむような男は……。周りの仲間達は楽しそうに空を見上げる。


「一緒にいても退屈はしなそうだけど……。」
「ん?何か言いましたか?」
「何でもないわ。」


 空では2人の元気な声が響く。2台の馬車は次の町に向けゆっくりと進むのであった。

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