無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

25話 追う者と追われる者①

 いきなり剣を抜かれて戦う事になった。


「ここじゃ危ないから外に行こうか。」
「む。そうね。着いて来なさい。」
「はぁ〜どうしたものか……。」


 外に出ると仁王立ちで待ち構えるお嬢様。そんな格好で戦えるのか?


「よく来たわね。さぁ構えなさい!」
「しょうがないのか……。」


 流石に丸腰は危ないからコレクトで剣を出す。


「空間魔法?随分と怪しい事をするのね。それで爺やを討ち取ったのかしら。」
「いや、討ち取ったも何も素手だったけど。」
「ふん。まぁいいわ。」


 剣を抜き構える姿は、ちゃんと剣士だった。


「何を出そうか……風でいいか。」


 剣を抜き、風魔法で剣を作る。


「何その剣?刃がないじゃ無い。」
「一応風で剣は作っているからあるんだけど。」
「風で剣?何を言っているのかしら。それとも見えない剣なの?」
「よく見れば分かると思うけど。」
「立ち会えば分かるわ。そんな変な剣で負けて言い訳にしないでくれれば……ね!」


 地面を蹴りまっすぐ向かってくるお嬢様。まっすぐ上から撃ち込んでくる。それを受ける形で剣を振り上げる。


 ―ザン……カラン。


「「カラン?」」


 音のした方を2人で見る。地面に落ちているのは剣の刃の部分。僕のは刃が無いから……。


「え?嘘。私の?」
「……。」


 剣が折れたと言うより、斬れた感じで地面に落ちている。高い剣だったらどうしよう。


「この剣そんな鈍じゃないはず……爺や!」
「はい。ここに。」


 お嬢様の横にさっきの執事さんが跪いていた。皆んなのいる所から一瞬で移動する人のどこが衰えているのだろう。


「私の剣を……3番を持って来なさい。」
「畏まりました。」


 再び消える様に移動した執事さん。そしてすぐに戻ってきた。それを受け取り、再び剣を構える。


「まだ続けるの?」
「私はまだ負けていないわ!剣ならまだまだあるもの。」
「戦いの最中に剣が無くなったら負けじゃない?」
「煩いわね!いいから構えなさい!」
「理不尽だ……。」


 しかし結果は何も変わらなかった。


 ―カラン……。


「はぁ……はぁ……。」
「もう終わりでいいですか?」
「爺や!」
「お嬢様……もうストックは御座いません。」
「まさか5本全て斬られたの!?」
「……。」


 地面に転がる剣を見れば分かるだろうに。それより勝負の最中に剣を補充するってどうなんだ?


「はいはい。終わりよ。」
「私はまだやられていないわ!」
「剣士として、自分の剣が無くなった時点で貴女の負けよ。」
「むむむ。」
「皆様、申し訳ありません。」
「そう言うなら止めなさいよ。」
「ほほ。それは出来ないんですよ。」
「はぁ……しっかりしなさいよ。」


 レブルが止めに入ってくれて、この戦いは終わった。


「全く剣はタダじゃないんだぞ。」
「そうそう。」
「2人ともちゃっかり拾わないの。人の物だよ?」
「……俺らは危ないから回収しているだけだ。」
「お嬢さん。折れた……斬れた刃はいるかい?」
「え?壊れてしまった物は要らないわ。」
「そうか。なら貰うな。」
「勿体ない、勿体ない。」


 斬れた剣を回収する2人。ん?そう言えば。


「あれ?2人とも何でここに居るの?」
「今更かよ。だいぶ前から居たぞ。」
「そう言われてみれば居たね……。」
「ここの近くのお宅でな。家に居なかったんだよ。もしかしたら入れ違いかもしれん。」


 期日は今日って言ってたし、もう出発しちゃったのかな。


「シノブさん。急いで追いかけた方が良くないかしら?」
「そうだね。安全と言われてるけど、それもどこまで本当か分からないしね……。」


 一応入れ違いになってないかギルドに確認して、アマンとゾンには馬車を持って来て貰って……。


「アマン、ゾン。」
「馬車を回収して街の入口に行けばいいか?」
「いつでも出られる様に準備はしてあるぞ。」
「さすが。じゃ、お願い。」


 後はギルドに確認して……。


「レブルとセローは街の入口に。門の兵士さんに老夫婦が通ったか確認を。」
「分かったわ。」
「お任せ下さい!」
「僕はギルドで行き違いになってないか確認する。」


 そして金ピカ亭を出る僕達。


 何か忘れているような……まぁいいか。


 ♦︎


 ギルドに確認すると依頼はキャンセルされたと言われた。どうやら老夫婦は僕らが出た後に入れ違いになったらしい。


「一応話を聞きに行く冒険者の話はしたんだがな。」
「行き違いで聞けなかったです。」
「そうか。すまんな。それでどうするんだ?」
「依頼は関係なしに僕らは追いかけてみようと思います。どうせ通り道ですし。」
「ありがとう。俺も気になってはいるんだ。そうだ。急いでいる所悪いが数分待てるか?」
「仲間に馬車を取りに行って貰ってるんで、少しの時間であれば。」
「ちょっと待ってくれ。」


 裏に行ったギルマスは数分して戻って来た。


「これを【ヴァーク】のギルマスに渡してくれ。何かあれば助けになってもらえる様に書いてある。」
「いいんですか?」
「依頼の借りを返したいだけだ。すまんが、よろしく頼む。」
「はい。行ってきます。」


 僕は手紙を握り、皆んなの集まる入口へと急ぐ。


 ♦︎


 入口には馬車取りに行ったアマンとゾンと、レブルちセローが待っていた。


「ごめん。ちょっと待たせたかな?」
「大丈夫よ。私達もさっき合流したから。」
「そっか。兵士さんは何か言ってた?」
「ええ。老夫婦なら数時間前に出て行ったって。」
「よし、出発しよう。」


 馬車に乗り込み街を出る。


「急いでいるってギルマスに聞いたから、少し早く走れるかな?」


 ―ブルゥゥ!


「行けるってさ。こいつも気合十分だ。」
「ごめんお願いするよ。君もよろしく頼むよ。」
「今日は飯を豪勢にするから頼むぜ。」


 ―ブルゥゥ!!


 街を出る時、門番に護衛はいるか聞かれたが急ぎなので断った。


「てな訳だから。道中の魔物は魔法で牽制するから。遠くに飛ばすか、行動不能に出来ればそれいい。」
「了解です師匠!」
『忍様。後ろに馬に乗った2人組みが。』


 後ろに2人組み?護衛は断ったはずなんだけど。


「どうしたのシノブさん?」
「いや、2人組みが馬に乗ってこの馬車を追いかけるんだ。でも必要以上に近づかないんだよね。」
「街の騎士団じゃない?要らないとは断ったけど、何かあっても困るでしょうし。」
「そっか。見守ってくれているのか。ありがたいね。」
「まぁこの馬車に何かあるとは思えないけど。」


 広くなった通り道だが、補装はまだ終わっていなく思うようにスピードが出せない。それは向こうも同じだろうけど、このままじゃ追い付けない。


「そう言えばどうして後ろに2人組いるって分かるの?見えたりしたのかしら?」
「いや、アイさんが教えてくれた。一応魔物が近づけば分かるように索敵して貰っているから。」
「アイさんは優秀ね……。」
『それ程でも。』
「そう。アイさんは凄いんだよ。」


 そうアイさんは優秀である。索敵と進言してやってくれたのは言わばRPGのMAP。僕の視線に邪魔にならないよう右上に出ている。道はさる事ながら何かの生物は青く、魔物の魔力に関しては黄色。敵意や殺気を放つ物体は赤く表記してある。しかも倍率を変えられるこの機能。今は道の把握頭をしながら進むので1。アイさんはが言うには10まで出来るらしい。1〜10がどういう事かに関しては聞いてない。今は急ぎだから今度ゆっくり聞いてみよう。


『忍様。進行方向に魔物の反応です。』
「魔物か……近くに人の反応は無いね。セロー。」
「お任せ下さい!」


 ―ザザザブン。


「見えました!そこです!」


 ―チュン……ドシン。


「魔物の足が止まりました。」
「いいね。このまま進めそう?」
「……あぁ、歩道には出て来てないから問題ないんだが。」
「あれもう倒してない?」
「私軽く水玉で突いただけですよ?」
「コレクト!」


 ―ギュン。


「生きているものは回収出来ないから。どうやら倒せたみたいだね。」
「水玉一撃ですか?ここの魔物は弱いのかもしれませんね。」
「「ソウダナ。」」
「ほら、アマン。変な方見ないで前を向いて。」
「レブルに続き、セローまでシノブ化していくのか……。」
「ちょっとゾン。それどういう意味?私は水玉は使えないわよ?」
「いや、そこじゃない。」
「ってか、シノブ化って何さ!?」
「「「「…………。」」」」


 そこ静かになるところ?ちょっとそこは詳しく……


『忍様。森を抜けた先に馬車を先頭に魔物が追いかけています。』
「え!位置は?」
『ここより北西2キロです。』
「北西に2キロ……。」
「どうしたのシノブさん。」
「北西2キロに魔物に追われる馬車を見つけたってアイさんが。」


 僕らはまだ森を抜けていない。木の間を縫って行けない。これ以上早く走る事は難しそう……。


「シノブさん行って!こっちは私とセローが居るし。後ろにも2人組みがいるんでしょう?」
「分かった。森を抜けたら西にまっすぐ来て。ちょっと行ってくる。」
『マッスルレインフォース、ポスチャーコントロール、オートマティックリカバリー、ノンリミット。忍様いつでもどうぞ。』
「さすがアイさん!間に合ってくれ……。」


 僕は馬車を飛び出し、木の間を縫ってまっすぐ目的地まで向かう。

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