無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

18話 限界を超えた力。

 町に戻り次の旅の準備をする。そして未だ振り続ける雨。


「流石に7日止まないのは異常よ。」
「ギルドに雨が続く原因調査って依頼がありましたよ。」


 静かな朝食に仲間とそんな話をする。前回の不死鳥の下りは話はしてある。羽根を納品して話は信じて貰えた。レブルが言ったように雨が降っているのがその証拠だと喜んでくれた。


 そして今は別の問題が出てきたと言う事。


「あれは僕が魔法で出したものだからな。止めれば問題解決になるけど。止めちゃっていいのかな?」
「師匠!依頼の詳細です。ここには原因究明と雨を止める事って書いてます。」
「前回が雨降ったから、今回は止めて欲しいって事かな。」
「ギルドも大忙しだね。そしたらご飯食べたらサクッとやっちゃいますか。」
「ギルドの一大事もサクッとなのね。」
「さすが師匠です!」


 旅の準備はほぼ終わっているし出発しても良いんだけど、このまま雨が止まなかった場合を考えると後処理はしておくべきだろう。ギルドに雨を晴らすと話をしてから外に出て来た訳だけど。


「なんでギルマスが居るんですかね?」
「すぐ晴らすみたいな事を言っていたので、今後の参考に見学しておこうかと。」
「シノブさんのやり方が参考になるとは思えないけど。」
「そうなのか?」
「僕に聞かれましても。説明するより見た方が早いから、サクッとやっちゃいますね。」
「うむ。頼む。」


 止まない雨の理由は分からないけど、雨は大体が風に流されてなくなるのは分かる。


「それじゃ行きます……風玉。」


 ―ゴォォォォ……。


 水玉と同じ原理で風を閉じ込める。後はこれを上空で放つだけ。


「嫌な予感しかしないわね。」
「師匠の魔法。ドキドキ。」
「後はこれをぽいっと。」


 ―ヒュルゥゥゥ……パァン!
 ―ビュゥゥゥ!!


「あん上空の風がここまで届くなんてね。」
「さすが師匠ですぅー!」
「…………。」


 上空で元のサイズに戻した風玉は、微風だけどここまで風が届けた。このくらいなら抑えられた方かな。


「雨が止んだ。まさか本当に一瞬で出来るとは。」
「ね?簡単でしょ?」
「まぁ簡単な方法だが、一切参考にはならないな。」
「風を纏めて特定の場所で元に戻すだけですよ?」
「だけと言うが。そんな魔導師早々いないぞ。」


 ギルマスがそんな事を言っていたけど、コツさえ掴めば出来ると思うけど。


「とにかくだ。問題を解決してくれた事には変わらないな。ギルドで報酬を支払うから来てくれるか?」
「ありがとうございます。」


 ♦︎


 宿で待機していた2人も呼んで、ギルドへ向かう。ここでのやる事も終わったし、そのまま次の町に行っちゃおうかな。


「これが報酬だ。」


 ―ドン。


 ドンって音がしたけど。報酬はそのままアマンに渡した。旅の資金でお金使うし、僕が管理するより商人の2人に任せた方がいいだろう。


「シノブ。これ全部俺達が管理するのか?」
「あ、持ち歩くのあれなら収納しちゃうけど。」
「頼めるか?こんな金額持っていたら、心配で眠れもしない。」


 そんな金額入っていたの?アマンが言うのだから余程の事なんだろう。


「こんなに貰って大丈夫ですか?」
「ああ。水不足も止まない雨も問題解決してくれたからな。その分上乗せしている。本当に助かった。」
「お役に立てたらそれで良いですよ。」
「それでお前達はいつまでこの町にいるんだ?」
「今日出発しようかと。問題解決したし、本も全部借りられたしね。」


 ここ最近ずっとお弟子ちゃん宅に入り浸り、古文書をずっと読んでいた。雨で外に出かけられなかったので、かなり読めたけど全部は読み終わらなかった。持ってって良いと許可を貰えたので、今は収納に入れている。


「目的は本じゃないけどな。初めは旅の薬を揃える事だったぞ。」
「そうそう。怪我や病気を何とか出来るようにしたかったからな。」
「お弟子ちゃんが来てくれるから、そこはクリア出来たわね。」
「そうか。セローちゃんがいなくなると親父さんも寂しくなるな。」
「大丈夫!パパにはいつでも会えるから。」
「いつでも会える?」
「あ。」


 慌てて口を抑えるお弟子ちゃん。てか、名前はやっぱりセローなんだな。
 この場は笑いながら誤魔化し、僕らはいそいそとギルドを出てそのまま町の外に出る。


 ♦︎


 本日は晴天。雲1つない綺麗な空である。


「こう晴れていると、また雨が降らなくなるか不安になるわね。」
「原因だった不死鳥はいないので、大丈夫だと思いますが〜。」


 馬車の後ろで足をパタパタするお弟子ちゃん。少しずつ見えなくなる町でも見ているのだろうか。少し寂しそうにも見える。


「お弟子ちゃん大丈夫?」
「あ、はいレブルさん。」
「レブルでいいわよ。」
「なら私は弟子で良いです。」
「…………そこは名前を言うところじゃないかしら?」


 首を傾げるお弟子ちゃん。


「名前?……セローでいいです、よ?」
「それ!」
「へ!?」


 驚くお弟子さ……セロー。さらに首を傾げる。


「もう言っちゃうけど。セローあなた一度も自分の名前を名乗ってないのよ。」
「あはは。まさか〜。そんな事は…………あれ?」


 唸り初めて腕を組んで考える。考えても出てこない事だよ。男性陣が見守る中。


「道案内が出来ると言って。」
「言ってたわね。」
「魔法が2属性使えて。」
「それも言ってたわね。」
「セローですと……。」
「……。」
「言ってない!?凄い魔法を前に自分の名前を名乗ってません!あ、だから皆さんお弟子ちゃん何ですか?」
「「「やっと気がついた!」」」
「えぇぇぇ!?言って下さいよ〜」


 新たな仲間セローの名前を聞いた瞬間でした。


「名前も分かったところで。本の試し撃ちを。」
「え!ここでやるの?」
「大丈夫、外に向けてやるから。暴発とかアイさんがいるからしないと思うんだ。」
「本当に大丈夫なのよね?アイさん頼んだわよ。」
『お任せ下さいレブル。』
「お任せ下さいって。」
「アナタだけが頼りよ。」


 全くレブルは心配性だな。魔法の試し撃ちと聞いて目を輝かせるセロー。


「何をするんですか師匠!私にも教えて下さい!」
「分かったから、そんな近づかない。落ち着こうか。」
「はい!」


 教えるって言ってもまだ使った事ないし。まずは見て貰うしかない。


「そうだな……やっぱりまだ使えてない光属性だよな。太陽の光を利用した攻撃魔法なんか簡単そう。」
「光魔法カッコいいです!」
「だよね!よし、頑張っちゃおう。」
「「不安だ……。」」


 本には光を集める受け皿の様なレンズと、効率良く光を集めるのに鏡で角度を調整と書いてある。この本を書いた人はレンズ担当って書いてあるけど、こんな魔法を複数でやればきっととんでもない威力だろうな。


「アイさん。先に受けを作るから、光に耐えられるよう丈夫に作りたいからフォローお願い。」
『勿論です。カバーストロング、メニーアセンブル。』


 光を集める受け皿……ガラスのような物で魔力を使って留める。


「これ少し難しいね。出来なくないけど。」
「師匠。手伝える事ありますか?」
「いや、自分で……レンズ役ってそういう意味か。セロー1ついいかな?」
「はいぃ!」


 元気だな。耳がキーンってしたぞ。


「あのレンズに光を集めたいんだけど。水魔法使って光をあれに当てるように出来る?」
「この内容ですと……。」


 本を覗き込んで魔法の流れを見るセロー。文字は古代文字で殆ど読めないが、この本には絵が描いてある。何と無くは分かるみたいだ。


「水を球体と言うより楕円……入射角とかは上で調整かな〜行っておいで。」


 ふわふわ円盤の様な水が浮いていく。空に上がった円盤はレンズに向かって光の角度を調整する。


「あ、少し貯まるの早くなった。この調子で頼むよ。」
「はい!分かりました。」
「じゃ、セローの方法真似させてもらおうかな。水玉。」


 ―ザブ、ザザザ……。


「レンズの意識に集中しながらだとこれぐらいかな。」
「えぇ!?あんなに水の魔法を……私は1つ。」
「セロー。シノブさんが規格外なのよ。気を落とさないでね。」
「そんな事ないよ。練習すればセローも出来るよ。」
「私に出来るでしょうか?」
「出来るよ。だって僕の弟子でしょ?」
「はい!頑張ります!ぐぬぬぬ……。」


 空中に2個目の円盤が作られていく。


「まだまだ……行きますよ。」


 ―キュポン。


「あ、魔力回復薬飲むなら僕が分けるよ。薬はいざという時の為に残しておかないと。」
「でも師匠はあの魔法で手一杯では。」
「たぶん大丈夫かな。出来るアイさん?」
『余裕です。彼女の肩に触れて下さい。』


 言われた通りに肩に手を置く。セローがビクッとした。


「驚かせた?ごめんね。」
「い、いえ。」
『ディストリビュート。』
「わわ!何ですかこの魔力!?無くなるどころか、限界超えちゃいますよ!」
「ほら、気にせずどんどん使う。」
「はいぃ!!」


 肩に手を置き魔力を分け与える。円盤が増える毎に魔力が減るけど、微々たるものですぐに回復してしまう。


「……宇宙人の侵略?」
「これだけ揃うと圧巻だな……。」
「それよりこれ大丈夫なのか?」
「「…………。」」


 3人が慌て始めた。まぁやったのが自分だから、驚かないけど。これが突然空にあったら驚くだろうなぁ。


「し、ししょ……。」
「頑張ったね。これだけの数の水の円盤とかセローがいなきゃ出来なかったよ。」
「うぅ……。」


 セローは水の魔力コントロールが凄く繊細で上手だった。僕も集めるのをやろうとしたけど、セローに任せてレンズと魔力を分ける作業に集中した。


「もう僕より水魔法凄いんじゃないかな。数も50はあるよ。」
『魔力不足は忍様がフォローされているので、弟子であればこのくらいやって貰わないと。』
「はは。アイさんも厳しいね。そんな急いで育てなくても良いんだよ。」
「あぅ……も、もう。し、し。」


 嬉しいからか、うまくしゃべれていないセロー。体が震えだした。よく頑張ったしここはちゃんと褒めてあげないとか。


 ―ポン。


「はぅ!」
「頑張ったね。偉い偉い。」


 頭を撫でる。


「シノブさん。そろそろ手を離したほうがいいわよ。セロー死んじゃうんじゃない?」
「え?」


 レブルに言われて、セローの頭から手を離す。


「はふぅ……もう魔力……貰えないですぅ……。」
「限界超えたわね。ご愁傷様……。」
「あれ〜?僕自身が全然魔力減らないから気がつかなかった。ごめんセロー。」
「これだけの魔法使って減らないのね。シノブさんの限界が見えないけど。」
「僕も分からないや〜」


 限界を超えたセローのお陰で、光魔法は完成した。空に浮かぶ円盤の真ん中に、光り輝く受け皿……。


 合作光魔法は一体どれくらいの威力か。魔力酔いをしたセローを待つ間、僕はワクワクが止まらなかった。



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