無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

16話 私の名前は……

 雨宿りを始めて数時間。服も乾き空が暗くなり始めた。


「このままだと夜になりそうだね。どうしようか?」
「もうそんなになる?シノブさんが作ったここが、居心地良すぎて全然気が付かなかったわ。」
「私は明日までここでも良いです。」
「そう?じゃ、僕とレブルは帰るから。後でこのテント壊しといてね。」
「え?私だけここに残るの?」
「仲間が心配するからね。何も言わずにお泊まりはしないよ。」
「わ、私も連れてって下さい!!」


 足にしがみつく女の子。レブルを見ると両手を上げて、諦めたように肩を竦める。


「それにこのテント壊しちゃうの?」
「別に僕は残しておいても良いけど。」
「今までなかったものがあると、色々と問題があるんじゃ?この山が誰の管理下にあるか知らないけど。
「土地代とか言われてもやだね。それならなかった事にしよう。壊すか。」
「師匠。こんな硬い物をどうやって?」
「手で壊すんだけど。」


 ―コンコン。


 壁を軽くノックする……硬いな。さすがアイさんの仕事。手を抜かないね。


『これは忍様の力です。私は補助したまでです。』
「アイさんのお陰だよ。」


 天然テントの硬さに、驚く2人も僕と同じみたいに叩いて確認する。


「これは何から守る要塞だったのかしら……。」
「これを壊す魔物とか、確実に大災害ですよ。」
「じゃ〜壊すから離れてね。てい。」


 ―ズドォォォン!ビキ……ビキ……バキィィィン!


「素手で一撃ね……。」
「師匠は魔導師なのでは?」
「ほら、2人とも行くよ。」


 転移を使わず山を下り町へ戻る。どう言う訳か、道中魔物に襲われることは無かった。素材回収でもしようと思ったのに残念。


「行きは少し出てきた魔物がいないね。」
「きっと森の魔物も怖がって出てこないのよ。」
「僕何かした?」
「魔物を蹴り飛ばしたり、不死鳥1人でで倒したり。後は雨を降らせて、山頂の要塞を素手で壊したり?」
「十分脅威ですね。」


 何事もなく町に到着。雨で濡れてしまったので、ギルドに寄らずまっすぐ宿に行く。


「お、戻ったかおかえり。」
「ただいま。」
「雨が降ったと言う事は、これでこの町の問題も解決だな。」
「原因は何だったんだ?」
「山に上にいた火の鳥が原因かと。2人はこの羽根、何か分かる?」
「これは?その魔物の羽根……不死鳥?」
「おいおい、そんなレアな素材がこんな所に……まさか?」
「倒したけど。」
「「はぁ!?不死鳥じゃないのか!」」


 2人の大声で周りがこっちに注目してくる。


「今、不死鳥って言わなかったか?」
「はは。気のせいだろう。こんな所にいる訳ないさ。」
「それもそうだな。」


 周りに聞かれて慌てて僕らは部屋まで行く。


「もう一度さっきの見せてくれ。」


 真剣に羽根を見るアマンとゾン。


「やっぱり不死鳥の羽根だな。」
「色もだが、微妙に魔力反応がある。」
「へーあの鳥凄かったんだ。まぁ僕の雷食らってピンピンしてたしな。」
「え?シノブさんの魔法を耐えたの?」
「始め頂上に行った時、真っ黒な塊があってさ。ポロポロ剥がれたと思ったら、火を纏った鳥が現れたんだよ。」
「それ一度死んでるな。」
「不死鳥が復活する話は本当だったんだ……。」


 皆んなが静かに僕の話を聞いている。


「その後はレブルが前に犬を倒したのを思い出して。水玉で牽制して、水の剣で首をスパッと。」
「「…………。」」
「信じられないけど、全て事実よ。不死鳥は……死んだわ。」
「改めて聞くと……あの不死鳥が。」
「シノブ。その素材はどうしたんだ?」
「収納しているよ。なんかこの子が火の鳥って、保護対象で討伐禁止では?みたいな話があったから。とりあえず隠した訳で。人前に出すのはそこがはっきりしてからかなって。」
「確実にって訳ではありませんが。ママに聞いた事があるような。」


 その噂はギルド職員にでも聞けば分かるだろう。


「話は分かった。ところで一つ聞いて良いか?」
「ん?何?」
「その子はなんなんだ?」


 アマンがレブルの横で髪を拭いている女の子を指す。そう言えば、いつまで着いてくるんだろう。


「私は師匠の弟子です!」
「シノブが弟子を取るのか。でもまぁ1人も2人も変わんないか。」
「レブルは弟子じゃないよ?」
「まぁ教えては貰っているけど。弟子入りはお願いしてないわね。」
「では私が一番弟子!?」
「そもそも弟子入りを許可した覚えはないけど。」
「えぇ!?」


 がっくり膝を落とす女の子。


「ではレブルさんは何なんですか?」
「私?」
「レブルはパートナーだよ。前の町から一緒に旅に出たんだ。」
「奥様でしたか!奥様!どうかお弟子として許可を!」
「お、お、おぉ??」
「「ぶはっ。」」
「どうしてそうなる?」


 レブルが真っ赤になり、2人が笑い転げる。


「良いじゃねぇか。シノブに着いてきたって事は、そこそこ腕の立つ冒険者なんだろう?」
「いえ、私は魔導師ですが冒険者ではありませんよ。それに師匠と比べられると……。」
「シノブと比べたりはしないさ。規格外なのは俺らも知っている。」
「母にまだ許可は貰ってませんが。魔導師としても薬師としても、師匠について行けば成長できると思ったのです。」
「そうか。若いなのに色々考えてるんだな……。」
「おい、アマン。今この子なんて言った?」


 ゾンが驚いた顔で、アマンに聞き直す。


「何って。母上に許可はまだって。」
「そこじゃない。魔導師としても薬師としてもだ。」
「魔導師って事は魔法が……ん?薬師?」
「はい。薬師としてが本職です。魔法はその過程で使いそうなのを覚えました。」
「薬師!シノブこれは連れて行くしかない。」
「そうだぞ!弟子は何人いても良いだろう。」
「2人が言うなら。後はレブルが良いと言えば。」


 2人がアワアワしてるレブルに声をかける。


「「良いよな奥さん!」」
「奥さん…………私は良いと思うわ。」
「よし許可出た!よろしくな弟子ちゃん!俺はアマンだ。」
「俺はゾンだ。俺らは商人だから戦闘はしないが、生活面のサポートはする。よろしくお弟子ちゃん。」
「よろしくお願いします。」


 何だかんだで、これからも着いてくる事になった。弟子となっているけど、魔法覚えたての僕で良いのかな?


「僕も魔法はまだ勉強中だから、そこまでたくさんは教えられないけど。」
「あれだけ使えてまだ勉強中なんですか。あ、それで古文書に興味を。」
「あ!それだ!今ならまだ間に合うよね?どこにあるのそれ?」
「私の家にありますが。」
「よし、本を読みに行くついでに許可も貰ってこよう。」
「おいおい。普通逆だよな?」


 細かい事は良いんだよ。早く行かないと古文書が逃げちゃうよ!


 ♦︎


「ただいま。」
「お帰りセロー。おや?お友だ……ち……。」
「シノブ!兜を取るんだ。」
「初対面にそれは衝撃が強い!」
「あ、部屋に入ったら取るのが礼儀だよね。」


 ヘルメットを取り改めて挨拶をする。


「こんばんは。古文書を読みに来ました。彼女の師匠になりご挨拶をと思って来ました。」
「おい、シノブ。古文書を一度忘れろ。会話がおかしいぞ。」
「そう?では……古文書がどこにあるか知っていますか?」
「そう言う意味じゃないんだが。」


 だって早く見たいじゃん!この世界の神秘に触れると言っても過言じゃない!


「セローどう言う事だ?」
「パパ、後でちゃんと説明するから。ほら師匠達、2階が私の部屋なので。」
「お邪魔します。」
「あ、ああ。ごゆっくり……。」


 ―バタン。


 中に入ると本に囲まれた部屋。窓の下に机とその隣にベッドが置いてあるだけって言う、もの凄くシンプルな部屋だった。


「ここは薬草で、古文書……あった。これだ。」
「あった!借りるね。どれどれ…………。」
「読めますか?私も解読しながらだから、あまり読めてないんですけど。」
「読めない……そんなせっかくの浪漫が。」


 僕は本とヘルメットを落とさないよう、膝を落と……。


 ―ガバ!


「アイさん!これ解読出来るかな?」
『古文の文献ですか。可能です。トランスレーション。』
「おぉぉ!読める!」
「えぇ!読めるんですか?」
「うん。ちょっとしばらく借ります……あーそう言う事か。こっちは……。」


 何だこの本。凄いじゃないか!呪文によって魔法を効率化、複雑な術式や生態なんかを知らなくても良い。基礎をについても書いてあるけど、書いた本人が上手く説明できないのか分かりづらい。僕は見てれば分かるのは、学校で基礎をちゃんとなったっているからだろう。まさかこんな所で、勉強している事が役に立つとは。


「ところで他の本だけど……ってあれ?」
「セローとアマンとゾンは下に行ったわ。お父さんとお母さんに許可を取りに行って来るって。」
「それ僕がいなくていいの?」
「師匠としてはいた方がいいけど。説明や交渉はあの2人に任せればいいわ。必要であれば呼ばれるだろうし。」
「レブルは何読んでるの?」
「古文書は読めないから、誰でも読める入門書を。」
「入門書!それは魔法の?」
「えぇ。でもシノブさんの説明の方が分かりやすいわ。ばかりで、逆に分かりにくいと思うのよ。」


 パラパラめくって見せてくれた。確かに絵本かって言うくらいの比率だ。


「ふーん。でも分からない人には逆にいいのかもね。見た方が早い時もあるし。」
「そう考えればそうかもね。」


 そしてまた本を読み始める。


「ねえ、レブル。」
「何かしら?」
「セローって?」
「本人から聞いたわけじゃないけど。お父さんが言っていたから、お弟子ちゃんの名前なんじゃ?」
「そう言えば名前聞いてないな……。まいっか。」


 気にしないことにして、僕は本を読むことにした。

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