無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

12話 レブルと忍のイメージ。

 私の名前はレブル。これはシノブさんと出会う少し前の話。私はある約束をお父様とした。


「もう待てないわ!私は自分の力で生きていくの!」
「またレブルはとんでも無い事を……。」
「あらあら。」
「2年よ?私も18になるわ。これ以上ここでずっと待ってるのは嫌なの!」
「そう言っても一人で生きていくなんて、出来ると思うのか?」
「やってみないと分からないわ。剣だって習っていたし、冒険者ならやっていけるわ!」
「しかしだな……。」
「あらあら。レブルちゃんは冒険者に簡単になれると思うの?」
「それは……。」


 つい出てしまった言葉じゃ、お母様には通じない。


「それにあの人だって、私より弱かったのに兵士になれたじゃない。」
「彼は冒険者としてはEランクあるのよ。腕前だけでどうこう出来る世の中ではないのよ?」
「それなら私もEランクになったら考えてくれるの?」
「そうだな。レブルがEランクになって、頼れる仲間を連れてくれば。」
「約束よ!Eランクくらいすぐなってやるんだから。」


 ―バタン!


 こうなるのには訳がある。私は16歳の頃にプロポーズされ、いざ結婚ってなった前日。彼が魔族との戦争で王都へ召集されてしまった。王都で落ち着くまで結婚は延期になった。
 もともと防衛の目的で件は習っていた。彼にも負けた事は一度もない。始めのうちは手紙も頻繁に着ていた。それも日を追う毎に減っていき、今では月1あるかないか。


「ここがギルドね。」
「レブルじゃないか。どうしたんだ?」
「ギルマス!私冒険者になりたいの!」
「と、突然だな。親父さんは許可出したのか?」
「ランクEになれば、旅も考えてくれるって。」
「ランクEね……そんな簡単じゃないぞ?」
「わかっているわ。でも何もしないのはもう我慢できないの。」
「知り合いでもランク審査は皆んなと一緒だからな?」
「勿論よ!」


 お父様と古くからの友人でもあるギルドマスター。小さい頃に遊んでもらったりしていたから、私自身も馴染みのある人。
 知らない人に対しては、多少の試験もするらしい。私は何度も稽古をつけて貰っていたので、お父様が許すなら良いと登録して貰えた。


「まずはFランクね。私の受けられる依頼は……。」


 町の清掃にお手伝いや探し物が多い。こんな事をコツコツやっていると、あっという間に時間は過ぎてしまう。ギルドの貢献によってランクは上がりやすい事を聞いていた私は、ある一枚の依頼を受付に持っていく。


「この依頼をお願いします。」
「はい。キラーラビットの討伐ですね。依頼内容の詳細をお話しします。」


 外に出たら草むらにいるウサギ型の魔物の討伐。達成素材は耳か尻尾の納品。初めてならやっぱりこれね。


「行ってくるわ!」
「お気をつけて。」


 意気揚々と私はギルドを飛び出す。そして外に出て草むらを探す。


「探さない時は見かけるのに、いざ探すといないものね。」


 草原を探しても何もいない。何も収穫なしで戻るのも癪なので、薬草の採取もしていく。


 ―ガサ。


「いた!」


 ―!ッダッダ。


 驚いた拍子に私から背を向けて逃げて行くキラーラビット。


「やっと見つけたのよ!逃がさないわ!」


 ♦︎


 ―ザシュ!


「はぁはぁ。やっと倒せた……。」


 逃げ回ること1時間。私はようやく1羽討伐する事が出来た。


「暗くなってきたし、今日は帰ろう。」


 討伐部位を回収して、残りは地面に穴を掘り埋めておく。魔物の血と砂まみれになった剣を拭き、町のギルドへと帰る。


「お、帰って来たか。初依頼はどうだった?」
「ほら。これで良いのよね?」
「おー初日に1羽狩れるなんて優秀だな。」
「それとこれも回収お願いするわ。」
「薬草か。抜け目ないな。まぁあれこれ吹き込んだ俺が言うのもあれだが。」


 依頼の完了と薬草の買い取りをお願いした。


「お疲れ様でした。こちらが報酬となります。」
「銅貨2枚……。」


 貰った銅貨を握り家に帰る。


「レブル様お帰りなさいませ。随分とお疲れの様子で。先に湯浴みに致しますか?」
「ただいまジィ。そうね、お願いするわ。」
「ではご準備します。あ。旦那様が心配しておられましたので、お顔は見せて下さい。」
「……分かったわ。」


 啖呵切って出て行った割に、銅貨2枚じゃあまり見栄を張れない。少し憂鬱だったけど、心配しているみたいだし顔は見せなきゃよね。


「ただいま。」
「レブル!大丈夫か?怪我はしてないか?どうせすぐにでも討伐依頼でもしたんだろう?」
「どうせって。まぁ討伐依頼は受けたけど。」
「あぁ!やっぱりか!!」
「あなた落ち着いて。レブルちゃんは無事よ?」
「そ、そうか。そうか……。」


 椅子に深く腰をかけて大きな息を吐くお父様。


「レブルちゃんが飛び出した時、兵を護衛に出すとか大変だったのよ。」
「お父様……。」
「レブルが強いのは分かるのだが、昔から無茶をする子だしな。心配はするもんだろう。」
「ふふふ。子供の成長は早いものね。」
「で、今日はどうだったのだ?」


 久し振りにに沢山お話をした。私が話す事をニコニコ聞いてくれるお母様。反応がいちいち大袈裟なお父様。この調子で頑張れば……ふと、旅に出た後会えなくなるのかと寂しさを感じたのは、しばらくしてからの事。


 ♦︎


 翌日もその次の日も私はギルドに通った。1ヶ月後私はランクFに上がった。しかしその後はランクも上がらず、2ヶ月を過ぎた。


「ギルマス!何で昇格試験してくれないの!?」
「おいおい、1ヶ月でFランクが早いんだからな?」
「それは聞いたけど。」
「Eランクとなるとトレントやマウンテンドッグとか、パーティ推奨の魔物を倒すくらいじゃないと上げられんよ。」
「マウンテンドッグはあの山よね?確かそっちの方に行く行商があったはずね。」
「その情報収集力は買うが、単独じゃ少し危険だぞ?」
「じゃ、トレントは?」
「もっと危険だな。動かんとは言え、一人で倒せる様な奴じゃない。」
「じゃ、やっぱりマウンテンドッグね。」
「あ、おい!パーティ組めって!」


 後ろでギルマスが叫んでいるが、私は行商人に交渉する為飛び出した。


 ♦︎


「ありがとうおじさん!」
「ほほ。気をつけて。」


 ギリギリ行商人の馬車に乗せて貰い、私はマウンテンドッグがいる山まで来た。


「キラーラビットが多いわね。探さない時はよく見かけるのよね。」


 ため息ひとつして私は山を登る。そして山頂付近にそいつはいた。


「よいしょっと。ここからなら気付かれずに観察出来るわね。」


 木に登り上からマウンテンドッグを確認する。うろうろするだけでこっちには気付かない。


「このまま上から奇襲をかければ……ん?何か音がした?」


 ―グルゥゥ……。


 マウンテンドッグの目線を追いかけると、一人の黒い人がいた。


「あれは魔導師?」


 マウンテンドッグに気がついたのか、背を向けて歩き出した。


「危な!」


 ―ガチン!


 間一髪でその人は攻撃を避ける。あ、見ている場合じゃないわ。


「危ないから下がりなさい!」


 ―スタッ。


 魔物と魔導師の間に飛び降りる。


「っとと。危ない危ない。」


 危ないのは貴方よ。こうなれば私が前に出て戦わないと。私は剣士なんだから。


 ♦︎


 終わってみればなんて事はない。私も結構戦える。なんて思ってたからか、足を挫いて立てなかった。


「え?マウンテンドックが消えた?」
「はい。捌くのもここじゃなんなので、持って帰ります。あ、後でちゃんと返しますよ。」
「え?そう言うことじゃなくて。」
「はい。では失礼しますね。っよ。」
「へぇ?」


 あれよあれよと私は抱えられ、町まで走って帰ってきた。魔物を直接回収したり、途中蹴り飛ばしたりと可笑しなことが続いた。


 そしてギルドで治療されている私。


「はぁ〜……。」
「どうしたの?」
「私今日山に行ったの。」
「はい。」
「あんな凄い魔導師見た事ないわ。」


 ギルドの職員さんに愚痴の様になってしまったが、話さずにはいられない。


「ふふ。そうですね。彼は凄いですよ。初日にギルドに穴を開けるくらいですから。」
「あの穴は彼がやったの?」
「ええ。何でも壁に軽く魔法を放ったらしいですが。」
「シノブさんでしたっけ。やっぱり凄い人なんだ。」


 何気なく明日も会うと約束をしたけど。もしかしたらもう一つの条件の頼れる仲間に……。


「なんて。都合良いよね。」
「何か言いました?」
「何でもないわ。」
「そうですか?」


 この日は治療して私は、あの人の様に強くなりたいと密かに思う事にした。


 ♦︎


「おーいレブル?」
「!?な、何かしら!?」
「そんな驚かなくても。」


 ぼーっと僕の事を見るから何かあるかと思ったけど。


「ちょっと考え事をしてただけよ。」
「何のですか?」
「え?えーっと……そう!家の事よ。大丈夫かな〜って。」
「気になるならいつでも帰れるから言ってよ。」
「そうよね。飛び出しておいて、そんなすぐ帰れるなんて思って……。」


 レブルが驚いた様に目を見開く。目おっきね〜。


「帰れる?」
「はい。あれ言いませんでしたっけ?」
「何を?」
「えっと、僕は……これ言っちゃいけないんでしたっけ?」
「今更だな。そこまで言っておいて。」
「だな。そこまで言って何でもないは通じんだろう。シノブが良いと思う人には教えれば良い。」


 レブルは旅の仲間だし、言ってもいいか。


「僕は転移の魔法が使えるから、帰ろうと思えば帰れるよ。」
「転移ってもう何でもありね。」
「はは。違いない。もはや出来ない事探す方が早そうだ。」
「シノブなら何でも出来そうだよな。」


 少し暗かったレブルも笑ってくれた。出来ない事なら既に一つあるし、僕だって出来ないって教えとこう。


「あ、でも僕は回復魔法使えないよ。」
「「え?」」
「そう言えば、私と会った時に出来ないって言ってたわね。」
「何でも回復だけは光の精霊と契約が必要らしくて。
 怪我や病気をしなければいいだけだよ。」


 笑っていた2人の顔が強張る。


「シノブは良くても俺らは?」
「怪我は守ってくれるだろう。」
「だが、病気になったら?」
「……。」
「次の町だが【リストン】に向かおうと思う。」
「お。次の町だね。」


 前の町はギルドの依頼ざんまいで、あまりゆっくり町を見ていないから次はゆっくりしたいな。


「そこは何が有名なの?」
「聞いて驚け。何と薬の生産と研究が盛んな町なのだ。」
「それは生命に関わる問題ね。」
「そうとも。シノブがいるからって、回復や薬類は【ネクタース】で一切買っていない!」
「そんな高らかと言う事じゃないわね。」
「だから町に着くまで、病気や怪我はやめてくれよ。」


 僕頼りだったのか。前もって言っておけば良かったな。他にも出来ない事があったら皆んなに話そう。


 途中野宿は必要って事で僕らは木の近くに馬車を止める。


「おい、レブル。火を頼めるか?」
「ええ。」
「僕も火を使えるけど?」
「……いいのよ。私の魔法の練習だから。」
「そうか。レブルは真面目だね。」


 僕は火の魔法が使えたけど、一度も頼まれた事ない。でもレブルには頼んでるのは、彼女の魔法の練習の為か。こう言うコツコツした実践って大切だよね。さて火の当番がレブルやるってなると、この食事の準備中は結構暇である。


「シノブ。この鍋一杯に水を頼めるか?」
「お安い御用だよ!」


 仕事が来た!これで皆んなの役に立てるぞ。


「張り切っているところ悪いが、破裂したりはやめてくれよ。まぁアイさんが何とかしてくれるか……頼むぜ。」
『お任せを。マジックコントロール・ジャストワン。』


 ―ザバァ……。


 鍋から溢れる水。


「まぁ鍋ごと破裂しないから良しとしよう。ありがとな。」
「……どういたしまして。」


 アイさんに手伝って貰ったのにこの結果か。マジックコントロールって言ってたから1%に抑えてるんだよな。


「アイさん。ちょっと補助なしで魔法使ってもいい?」
『はい。では解除します。』
「よし。少し魔力を抑える訓練をしよう。」
『自身の力を過信せず。日々鍛錬する忍様は流石です。』


 ―ザブ。


 力を抜いて、小さな水玉を作った。特に何も頑張ってないこれで、どれくらいの威力があるんだろう。


「アイさん。近くに生体反応はないかな?」
『前方200メートル先に魔物の反応くらいです。』
「それなら問題ないかな。とう。」


 ―ヒューン。


 軽く遠くに水玉に投げる。ここで破裂させたら皆んなびっくりするだろうし。これくらい離れればいいかな。僕は水玉に向けた意識を切る。


 ―ズバァァァ!
 ―ギャァァァ!


「…………。」
「おいおい。何したシノブ?変んな叫びが聞こえたぞ?」
「あ、邪魔したかな?ごめんゾン。水玉の制御をって、力を抜いて作った水玉の威力を確認したくて。」
「さっきの鍋の事気にしてるのか?」
「ちょっとね。」


 投げた先を眺める。


「水たまりと言うか、もはや川?」
「あんな力抜いて簡単に作ったのに。」
「簡単に作ってこれか。どうしたもんか……おーい、レブル。」


 火の番をしていたレブルを呼んでくるゾン。


「シノブに魔法を教えてやれ。」
「私が?教えて貰う身よ?」
「違うよ。制御だよ。レブルは火を抑えられてるだろ?」
「出来るけど。シノブさんの場合はアイさんが抑えてもあれだから、無駄な気がするけど。」
「まぁいいから。いいから。」


 そう言うと鍋を持って向こうに行くゾン。


「ふー制御ね。さっきの魔法アイさんは制御は?」
「解いて貰った。」
「な、何て危ない事を……。」
『も、申し訳ありません。』


 アイさんが謝る事はないんだよ?


「水玉……よね。これはシノブさんに教わったんだけど、イメージが大事なのよ。私はさっきの火を使う時は、ろうそくをイメージしたわ。それから少しずつ大きいものを想像したの。」
「初めは小さいものか。気をぬく事ばかりで、そこまで気を回していなかった。」
「気を抜いてた……。」


 何でそんな顔で見てくるの?気は抜いてたけど、ここで暴発するようなミスはしないぞ?


「じゃ、アイさんに手伝って貰って。シノブさんは小さい水のイメージで。」
『畏まりました!マジックコントロール・ジャストワン!』
「小さい水の、小さい水の……。」


 固定された水……海、ダム、プール……お風呂。これ以上小さいのが浮かばない。


「もっと見たことあるので構わないのよ?水ならコップとか水の入ったヨーヨーでも。」
「ヨーヨーか。それイメージしやすい。」


 ―ザブ。


「出来た。後はこいつの威力か。」
「さっきと同じくらい遠くにお願いね。」


 ―ヒューン。


 レブルに言われ、さっきと同じくらい先に投げる。


 ―ズバァ。


「お!出来た出来た!」
「さっきよりは規模は小さいけど。ヨーヨーをイメージしてあれ?しかもアイさんの補助の元……。」
「ありがとうレブル!なんか掴めた気がするよ。」
「え、ええ。お役に立てて良かった……わ!?」


 レブルの手を握り喜ぶ。


 そうだね。制御にもイメージは大切なんだね。改めて気づかせれたよ。

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