無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

9話 え?出来るでしょ?

 午後はまだ時間もあることから、レブルと外で少し簡単な依頼をする事にした。


「僕がいるからFランクまでしか受けられないよね。」
「いいの。1人よりも2人の方が効率いいし。」
「せっかくならもっと上の依頼を受けてみたいよね。なら、とっととランク上げたいな。」


 採取系は時間がかかるから、討伐系を探す。あ、またキラーラビットがある。これならすぐこなせそうかな。


「お、噂の2人じゃないか。依頼か?」
「噂って僕は別に何もしてないけど。」
「新人ってだけで噂はたつもんだぞ。特に君ら2人は目立つしな。」


 依頼を選んでいる所にギルマスから声をかけられる。他愛もない会話をしつつ、ランクを上げるのに手っ取り早いのはないか聞いてみた。


「ならランク昇格の依頼を受ければいい。」
「それって2人一緒でも良いの?」
「構わないぞ。仲間を集めるのもそいつの能力だからな。」


 奥からファイルを持ってきてパラパラめくるギルマス。


「これなんかちょうど良いかもな。マウンテンドッグなんかどうだ?」
「マウンテンドッグってもう1匹狩れば良いって事?」
「ん?もう1匹?」
「今査定しているやつよね?2人で倒したけど。」
「え?ちょっと確認してくる。」


 ギルマスが受付に確認しに行った。ギルマスならそれくらい把握していても良いはずだけど。


「確かにマウンテンドッグだな。よし、ランクFに昇格だ。」
「…………そんな簡単でいいの?」
「あんな綺麗な素材持ってきて、簡単とは言わないぞ?」
「それもそうね。シノブが動きを止めてくれたお陰で、楽に狩れたのは事実だし。」


 そんな訳でいきなりランクが上がった。それならEランクの依頼も受けられる。またどれが良いかいいかギルマスに聞く。


「Eランクのは2人じゃちょっとキツイと思うが?討伐がメインで場所も、マウンテンドッグクラスが多く生息する場所だし。」
「あの犬くらいの?なら、問題ないけど。」
「んーあまり期待の新人達に無理をさせるのはなぁ……お、これなら2人で行けるか。」


 ギルマスが見せてきたのは討伐依頼のトレントだった。


「こいつは根を張った場所から動かないし、距離を取り連携すれば勝てるだろう。」
「動かないってぬるすぎない?」
「実はな、こいつの木材が枯渇しててな。素材回収でいいんだが。」
「ただのお使いじゃない。」
「そうとも言うが。ギルドが欲しい素材を取ってきてくれるのは、中々ポイント稼げるんだぞ?」
「じゃーそれにしましょう。」


 まぁ他の選ぶよりオススメされた方が良いかと、ギルマスに言われた依頼を受ける。


「それなりに遠いいから、今から行くなら野営の準備も忘れるなよ?」
「場所はどこにあるんですか?」
「東に出て南に行った所にある森だ。」


 東に出てすぐ南じゃ、あの森じゃないか。あそこなら転移も出来たのに。


「場所は……ここだな。」
「地図なんてあるんですね。なんだ近い。」


 ギルマスに地図を見せてもらい場所を確認する。


「馬がいれば1時間くらいで行けるが。持ってないだろ?」
「無いですね。」
「私も無いわ。」
「早朝に出て行けば歩いて行けなくもないから、明日にでも行ってみるといい。」
「そう言えばシノブさんの仲間は馬持ってなかった?」
「……あぁ。聞いてみようか。」
「何にせよしっかり準備する事だ。じゃ、依頼は受けたから頼んだぞ。俺が頼んだ訳だし、討伐の期限もペナルティもないから安心してくれ。」


 手続きはやっておくよと、適当な感じで話が進んでいく。早速っとギルドを出た僕とレブル。


「馬を借りるか聞きに行くの?」
「ちょっと確認したい事があるから聞いてみるよ。アイさん。」
『はい。森までの道ですか?』
「うん。話が早くて助かるよ。僕の足で走ってどれくらいかな?」
「え?走るの?さっきの聞いてた?」


 レブルが驚いて聞いてくる。だってその方が早くない?


『10分もあれば。お連れ様を抱えて少し早めでですが。』
「そうだよね。やっぱり走ろう。」
「え?私そんな早くないわよ?」
「大丈夫。任せて。」
「もしかして……」


 ―ガシ。


「やっぱり!?」
「しっかり掴まっててね。今日は怪我してないから、この前より少し早く走るよ。」
「えぇぇぇ…………。」


 ♦︎


「勢いよく飛び出したかと思えば。忠告したんだが、アイツら走って行かなかったか?」
「昨日も走ってましたし、彼なら平気なのでは?」
「昨日も?」
「はい。マウンテンドッグの山から彼女を抱えて。」
「それってトレントの森より遠くないか?」
「そうですね。」


 俺は頭を抱えて考える。普通に受け止めているけど、俺の感覚がおかしいのか?


「アイツは魔導師だよな?」
「そう認識しています。」
「そう言えば、背中に両手剣持ってたな。」
「あ、それは私も気になりました。」
「山から人1人を抱えて走り、両手剣を装備する魔導師?何だそりゃ?」
「お仲間の商人さんの言葉を借りますと、彼ですし。」
「その認識でいいのか?」


 あの魔導師は一体何者なんだ?疑問ばかり浮かんでくる。


「ギルマス。暇なら壊した床と屋根修理して下さい。」
「それ俺の仕事か?」
「はい。予算を使っていいなら依頼しますが?」
「ん〜〜許可する。」
「では手配します。ギルマスが予算渋らないって、珍しいですね。」
「いや、なんかトレントの素材が、思った他早く手に入りそうだから。」
「それを見込んだ依頼をしたんですか?相変わらず悪知恵は働きますね。」


 アイツはそんなセリフを吐いていなくなった。俺ギルマスなんだけど?


 ♦︎


「きゃぁぁぁ!早い早い!!」
「あはは。そんな喜ばなくても。」
「喜んでないぃぃ!!」
「もう着きましたよ。」
「はぁ……今の速さ。絶対馬より早いよね?」
「馬と比べた事ないから分かりません。」


 森の入口に着いてレブルを降ろす。地面に立って大きく深呼吸をする。


「地面が恋しいわね。」
「さて、時間もそんなにないですし。狩りに行きましょうか。」
「はぁ〜そうね。過ぎた事言ってもしょうがないわね。」
「アイさん。トレントの反応はどこかな?」
「そんなの分かるの?アイさん?」
『道の右手5メートルの所に1体います。』


 右手5メートルの木ってあれか?


「あの木がトレントだって。」
「だってって。よく分かるわね?普通射程圏内に入るまで、普通の木にしか見えないはずなんだけど?」
「そうなんですか?なら軽く魔法放ってみます?」


 森で火はいけないって言われたから、覚えたての風で当ててみよう。


 ―ヒュルル。


「え?何その魔法?」
「何って風だけど?水にする?風の方が制御し易いから良いかと。」
「いやいや、そうじゃなくて。この前は火と水と雷って言わなかった?」
「昨日使えるようになったんだよ。」
「魔法ってそんなに簡単に使えるの?」
「え?使えない?」


 首を大きく振るレブル。そんな事ないと思うんだけど。


「じゃ、撃ってみるね。えい。」


 ―ヒュルル……パァァン!
 ―グラ。


「嘘……本当にトレントだわ。」
「これなら簡単に見つかるね。後どうすればいいのかな?」
「ギルマスに言われた通り距離を取って、攻撃がセオリーね。倒した目安は緑の葉が枯れるらしいわ。」
「へーそうなんだ。根元斬り落とせばいいのかと思った。」
「それが出来ればいいけど。幹が太すぎるし相手は攻撃してくるはずよ?」


 距離を取るにしてもどれくらいかなな?


「レブルはトレントと戦闘した事ある?」
「無いけど。あ、ちょっとシノブ?」
「ちょっと確かめるから見てて。アイさん動きの補助を。」
『畏まりました。マッスルレインフォース。ポスチャーコントロール。ダイヤモンドアーマー。』


 ゆっくり木に近づく。


 ―ミキミキ。ビュン!


「シノブさん!」
「っほ。」


 枝がしなって鞭みたいだ。距離は2メートルってとこか。


 ―ガサッ。スパパパ!


 葉っぱが飛んでくる。これは逆に近づいたら?試しに少し下がったらひらりと葉っぱが落ちていく。遠くまで飛ばないのね。


 ―ビュン!ビュン!スパパパ!


 鞭のようにしなる枝と、近距離の葉っぱが主な攻撃方法か。魔法とか使ってこないところをみると、こいつは弱いやつかも。


「一通り見たからいいや。さて、どう戦うか作戦立てようか。」
「……何したの?」
「ん?距離を確かめて、攻撃パターンを調べただけだよ。聞く事も出来るけど、体験した方が早いかなって。」
「何でそんな事を?」
「何でって、知らない事は調べるでしょ?その方がレブルも戦いやすいかなって。」


 レブルが頭を抱える。


「私もトレントは初めてだから、動きが見れて大変参考になったわ。でもね……。」
「ん?」
「危ない事は止めて。相手が強くて怪我をしたらどうするの?」
「僕が怪我?ん〜それは考えていなかったよ。」


 心配してくれるなんて嬉しいな。


「でも僕は自分に出来る事しかしないよ。その上でレブルと安全に戦える方法を探した訳で。」
「ふぅ。気遣いありがとう。でも私も戦士を目指す身。怪我の一つくらい覚悟しているわ。」
「駄目だよ。綺麗な顔してるんだから、傷ついたら大変だよ。」
「き、綺麗!?」


 後ろを向いてバタバタしているレブル。目にゴミでも入ったかな?


「さぁ!気を取り直して行くわよ!」
「え?あーうん。気合十分だね。」
「私が先行するわ。枝は何とかなるけど、葉っぱは可能な限り撃ち落として欲しいの。」
「分かった。お安いご用です。」
「行くわよ!はぁー!」


 ―ミキミキ。ビュン!
 ―ザン!


「そんな攻撃全て斬り裂いてあげるわ。」


 なるほど、伸びてくる枝を斬り落とせば、残りは近距離の遠隔攻撃のみ……ん?近距離なのに遠隔?


「てや!は!」
「それにしても綺麗な剣筋だね。剣はあーやって使うんだ。勉強になる。おっとその距離は葉っぱが来るね。」


 ―スパパパ!
 ―ヒュルル。パァン!パァン!


 威力はあまり無いから、風で葉っぱを散らす。


「ありがとう!」
「いえいえ〜。」


 しばらく戦っていると、枝も葉っぱも無くなったか大人しくなる。幹は揺れているから、まだ生きているはずだけど。


「これどうするんですか?」
「枝を拾って、こいつは放置でいいんじゃない?」
「討伐はしないんですか?」
「目的はこの木な訳だし。倒すにしても、持っていけないわよ。だからギルマスは素材が欲しいって言ってた訳だし。」
「持っていければポイント高いんですよね?」
「まぁランクは上がる査定には影響するだろうけど。」


 幹を触り感触を確かめる。レブルのお陰でこうやって触っても襲われない。


「試し斬りさせて貰ってもいいかな?」
「いいけど。斬れるかは分からないわよ?」


 ―ジャキ……。


「すぅぅ……フルスイング!」


 ―……パァン!


「え?何今の?」
「斬れたの?どうなの?」


 木に触れたらなんか違和感が。


「なんか押せる感覚があるけど。ん〜?」
『トレントは倒せました。そして木は少しずつ倒れています。』
「木が倒れる?レブル離れて。」
「え?」


 レブルの手を引き自分の元に抱き寄せる。


 木が倒れると同時に剣が砕ける。


「へ?何で?」
「剣が砕けた?両手剣って頑丈なはずなんだけど?」
「トレントって硬かったのかな?」
「でも斬れてる訳だし。何でかしらね?」
「野球のスイングがいけないかな?アイさん分かる?」
『忍様の力に耐えられなかっただけですよ。斬れたのは剣の速さで真空波が発生したからです。』


 ほへ〜真空波か。それなら剣とか要らなくないか?でも素手は何かとカッコつかないしな〜。今度また武器屋で聞いてみるか。念の為砕けた剣の破片は拾っておこう。


「まぁ剣は良いや。せっかくだしもう1体分倒したら帰ろうか。」
「そうね。せめて剣一本分は稼ぎたいし。丸々2体分あれば、お釣りがくるくらい買い取ってくれるでしょうし。」


 近場にいたもう1体を同じ要領で倒す。そして枝を拾いやっぱり無防備なトレントが残る。


「真空波って事は取手だけあればいいよね。」
「剣なら貸すわよ?」
「壊したら嫌だし。やり方はあるから見ててよ。」
「忍さんが言うのなら良いけど。」


 刃の部分が砕け、握る部分だけ残った。風で刃を作れたりするかな?


 ―ギュル!


 やってみたら出来た。目には見えないけど何か空間が揺らいでいる。何も見えないのかレブルはじっと僕の事を見ている。


「後はこれでいけるかだけど……。」


 ―シャン……。


 木が再び倒れる。


「やれば出来るもんだね。」
「普通は出来ないと思うんだけど?何をしたの?」
「風で剣の刃の部分を作っただけだよ。」
「だけって。それって魔法剣よね?初めて見たわ。」
「レブルだって出来るでしょ?」
「とりあえず、シノブさんの基準はおかしいとだけ言っておくわ。」


 そうなのか?今度また外に出たら教えてみよう。


「さてそろそろ帰らないと、皆んなが心配するね。」
「もしかして帰りも?」
「じゃ、行こうか。」
「やっぱりぃぃぃぃ…………」


 森に女の悲鳴のみが響く。

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