無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

5話 危ない人認定。

「おりゃ!」
「んー?」


 ―ビュン。


 縦に大振りする剣を横に躱す。


「アイさん。魔法補助できます?」
『相手を死亡させる確率100%ですが、よろしいですか?』
「そうか100%……え?なんで?」
『忍様の魔法ですとチリも残らないかと。』
「怖っ!弱い魔法とかあるんじゃ?」
『最大に抑えてその予想です。』


 困ったな〜魔法でちゃちゃっとやっつけたかったけど。チリも残らないって……。


「アイさん。火じゃなくて水玉は?」
『はい。魔法に属する全てにおいて、相手をチリにするかと。』
「水玉でチリってどう言う事だろう……。」
「さっきからブツブツと!」


 ―ビュン!


 どうしよう。魔物は躊躇う事なかったけど、流石に人間を殺しちゃうのは嫌だな。魔法が駄目なら素手で戦うしかない。


 剣で攻撃してくるけど、遅すぎで見てから避けられるからいいとして。
 それにアイさんもフォローしてくれていて、見えないところの攻撃が来る前は教えてくれる。赤いアイコンが目の前に浮き出て見えるから、なんだかロボットにコックピットにいるみたいだ。


 逃げているだけじゃ勝てないし、相手も諦めてくれない。


「殺さずに無効化できる方法はないかな?」
『忍様ですと……攻撃動作を全て拳一つ分、開けてみるなどどうでしょう?』
「寸止めって事?」
『必ず拳一つ以上開けて下さい。それ以下は死亡率70%です。』
「何でか分からないけど。当てちゃダメってことね。」


 アイさんのアドバイス通り寸止めでやってみた。


「これくらい?」
「ごはーーーー!!」


 当ててないのに1人が吹き飛んでいく。


「生きてます?あ、動いた。」
「……。」
「拳一つって意外に難しいよね。引けばいいのか?」


 ―ビ、ギュン!


「うごー!」
「「ぎゃぁぁ!!」」


 ん?なんで僕の後ろに居た人まで飛んでくんだ?


「まぁいいか。とにかく残りを片付けよう。」
「に、逃げろー!」
「あ、逃がさないよ。」


 盗賊達の叫びも静かになり、立っているのは僕とアマンさん達だけ。


「ふぅ……疲れた。」
「あれだけの盗賊倒してそれか。」
「見ているこっちもヒヤヒヤしたけどな。」


 ♦︎


 盗賊をまとめて意識が戻るのを待ってアマンさんが尋ねた。


「ところでこんな辺境で盗賊をやる意味あんのか?」
「昔は良かった。ここ最近は通る人間も減ってな……そこに久しぶりに来たのが貴方達なんです。」
「討伐部隊廃止になったからな。」
「は?そうなのか!」
「知らなかったのか?」
「しばらく町にも行ってないしな……。」


 そうなるとこの人達は何年もここに居たのか?


「魔物は出るから、ちょくちょく素材を売りには行っていたんだが。知らなかった。」
「逆にここらの魔物を狩れてたんだな。」
「それはそれで凄いな。」
「そう?ここらの魔物って弱くない?」
「「シノブにはな。」」


 相変わらず息ぴったりだね。森の魔物くらいがこの辺に出るならそんなに危なくないはず。だけど戦えない2人にとっては凄い事なのかもしれない。


「ところで盗賊ってどうするもの?」
「捕まえて町のギルドに引き渡しだな。普通はな……。」
「しかしアマン。ここから全員を連れて行くのは大変だぞ。」
「盗賊ってこれだけじゃないだろうしね〜。」
「「「!!」」」


 盗賊って言うくらいだから、アジトにもまだ仲間はいるはずだ。


「アジトはどこ?」
「……。」


 何も言わない盗賊達。


「アイさん。町以外で数人の人が集まっている場所が分かったりしない?」
『探しましょう。ワイドレンジサーチ……。』


 これも出来るんだね。しばらく待ってみる。


『北東2キロ行ったところに洞窟があります。数名の人間がいます。』
「あっちの方?」
「……。」


 答えてくれない。どうしよう。


「アジトが北東2キロって所にあるみたいだけど。僕行って見てこようか?」
「俺らを2人にされても困るんだが。」
「それだな。縛っても逃げる事も出来るだろうし。」
「この人達が大人しくなればいいんだよね?ん〜何かある?」
『ふふふ。一つ案があります。』
「お、アイさんに案があるって。」


 何か怖い感じがするアイさん。一応意見を聞いてみよう。


『忍様が魔法を見せて、相手を屈服させれば良いのです。』
「するかな〜?屈服する様な派手なやつ出来ないよ?」
「「屈服する派手なやつって……。」」


 2人の顔が驚いてこっちを見る。


『そのアジトから少し離れた、誰もいない場所に魔法を落とします。』


 何もない場所であれば問題ないよね?


「アイさん、派手なのなんだろう?」
『忍様の凄さを見せつけるのであれば、電系の魔法がおススメです。』
「また、凄そうなの。で?どうやるの?」
「おい。なんか話が怪しい方向に。」
「アマン。シノブを止めちゃいけない。何か分からないが寒気がする。」
「寒気?何を行ってるんだゾン?」


 学校で習った記憶はあるけど。下敷き擦って静電気溜めてって訳にはいかないだろうし。


『まずは地表にある水分を上空に。そこは温度が異なりますので、雲となり氷となるのです。』
「上空の水を冷やし、氷を発生させればいい?」
『その氷をぶつけ出てきた静電気を溜めて落とす事が基本となります。』
「へー氷と氷をぶつけるんだね。風とかで操っちゃえば早いか。」


 僕が上空の雲を作っている事に、開いた口が塞がらない盗賊達。


「おいおい。なんだあの雲。」
「あれは神の怒り……。」
「いや、だって。こいつが作ってるみたいな事言っているぞ?」
「こいつが神?」
「「いや、違うから。」」


 観客がガヤガヤしてくる。集中を切らさないように雲を固め、氷と氷をぶつけさせる。


『準備します。エリアコントロール。』
「この後どうするの?落としていい?」
「今のうちに謝った方がいいぞ。」
「お前らのアジトなくなるぞ。」
「は。俺らのアジトは天然の洞窟だ。雷如きじゃビクともしないぞ。あ。」


 その自身はどこからくるのか。雷って天災だよ?


「まぁいいや。アジトに当てないようお願いね。」
『お任せ下さい。』
「シノブ、俺らは安全か?」
『耳を塞ぐ事を推奨します。』
「アイさんが耳を塞ぐ事を推奨するって。」
「「了解だ!」」


 素直に耳を塞ぐ2人に首を傾げる盗賊達。


 そんじゃ、いきますか。神の怒りとか言ってたし、それっぽい名前でいこう。


「ジャッジメント!」


 ―ピカ!……ズガァァァァァン!


 落ちた衝撃に地面が揺れる。大地が盛り上がり、木々を薙ぎ払う。勢いは風となり僕らの横を過ぎ去って行く。


「派手だね。」
「これアジト跡形もないんじゃないか?」
『洞窟が剥き出しになり、全員の生存が確認できました。』
「全員生存してるって。」
「あんだけの事があって、全員無事って奇跡だな……。」
『私が計算しているんです。問題ありません!』
「アイさんが計算したから問題ないって。」
「シノブもだけど、相談役の人もあぶねーからな。」


 アイさんも危ない人認定された。あれ?僕も?


『失礼な。私は良識ありますよ!』
「アイさんが良識はありますと言ってます。」
「あの規模の魔法を進めるあたりに良識?」
「相談役さんはシノブに甘いからな。」
『忍様の凄さを見せつけるなら、これくらい最低限ですよ。』
「見せつけるならこれくらい最低限だって。」
「「良識ねぇ……。」」


 盗賊の人達は大人しくなった。結果良ければなんとやら。遠くのアジトにいた人達は転移で全員連れてきた。


「この人達どうする?」
「そこなんだよな。本来は町の冒険者ギルドに引き渡すんだよ。」
「この人数は連れていけないな。」


 盗賊の人達は僕らの会話にビクビクしている。そんな殺したりしないから、そんな目で僕を見ないで欲しい。


「近くの町って言うとこれから行くところ?」
「あぁ。【ネクタース】なんだが。」
「確か3日はかかるって。」
「この人数連れて歩くとなると、もっとかかるな。」


 2人がどうしたものかと考える。


「置いていけばいいじゃん。駄目なの?」
「盗賊だからな……また別の誰かを襲うかもしれんだろう。」
「あーそれは駄目だね。」


 全員がブンブン首を振っているけどなんだろう。あ、静かにしててって僕が言ったんだっけ。


「喋っていいですよ。」
「我らは今後盗賊業を止める。頼むから殺すのは俺だけにしてくれ。」
「そんな頭!俺らも罪は償います!」
「そうです!頭を差し出して終わりなんてないっす!」
「お前ら……。」


 盗賊であるけど、仲間意識は高いんだね。この人達の言う事も信じられるけど……。


「皆んなが町に行ければいいんだよね?」
「あぁ。それが一番だが。」
「なら町までひとっ走りしてくるよ。」


 屈伸して走る準備をする。


「まぁシノブが行けば転移出来るけど。」
「あ、旅の醍醐味無くなるから止める?」
「いや、そう言う問題でもないしな。でも馬車でも3日かかるぞ?」
「アイさん。本気で走ればどれくらいで【ネクタース】に着くかな?」
『1時間もあれば行けると思います。』


 1時間か……少しかかっちゃうな。アマンさんに聞いてみるか。


「1時間はかかるって。」
「1時間?」
「やっぱかかり過ぎですよね?その間2人だけですし。」
「いや、早すぎるくらいだが……。」
「それなら行って欲しいくらいだ。」
「魔物も出る訳ですし、2人が襲われないとも限りませんし。」
「「…………。」」


 2人が青い顔をする。魔物もそうだけど、何より盗賊の人と一緒だよ?


「旦那!その間はこの2人を守れば良いんですよね?」
「え?旦那?僕16……。」
「頭の命の為です!俺らが守りますよ!」
「いや、でも……。」
「この辺の魔物には遅れは取りません!お願いします!」
「「「お願いします!!」」」


 いや、まぁそれなら問題ないか……ないのか?


「でもそれって皆んなが逃げたりできる訳だよね?」
「我々は旦那を裏切ったりしません!」
「そうです!誰1人殺さなかった旦那に報いる為にも!」
「え?あーうん。2人はどう?」
「大丈夫じゃないか?」
「あの魔法見てシノブを裏切らんだろうしな。」
「いいなら行くけど。」


 僕の魔法見て大丈夫な根拠が分からないけど。2人が大丈夫って言うのなら、なるべく早く行けばいいか。


「それならいいけど。アイさん。可能な限りの補助してくれる?」
『お任せ下さい!全力でサポートします!マッスルレインフォース、ポスチャーコントロール、オートマティックリカバリー、ノンリミット。』


 なんかアイさんの方が気合入ってるな。体も軽いしこれならいくらでも走れそうだよ。


「じゃ、ちょっと行ってくる。」
「「「いってらっしゃいませ!!」」」
「あーうん。よろしくね。」
「「「はい!」」」


 大丈夫かなー?まぁここは信じるしかないか。なるべく早く戻ってくるけど。


「では……。」


 ―シュン。


「「「消えた!?」」」


 遥か後方でそんな言葉が聞こえた気がした。

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