身代わり婚約者は生真面目社長に甘く愛される
54
パイプオルガンの音が鳴り響く中、チャペルへの扉が開かれた。
真っ白なバージンロード。天井にはステンドグラスが嵌められ、透き通った影を落としている。
私は母親と向き合い、少し身長の低い彼女の為に身をかがめた。ゆっくりとベールが下ろされる。
「お母さん、今までありがとう」
そう言えば、母親は口元を歪めて頷いた。
父親の方を向きその左腕と自分の右腕をそっと組む。かすかに震えていた。顔を見上げれば、口元を強く引き結んでいる。いつも温和な彼のそんな表情を見るのは初めてだった。泣くのを堪えているのだとすぐに分かった。
二人でゆっくりとバージンロードを歩いていく。
「あやめ、ふたりで幸せになるんだよ」
「うん」
ひそりと手向けられた言葉に頷く。
祭壇の下、悠馬さんの前で私たちの足は止まる。
父親の手に導かれて私は悠馬さんの手を握った。ゆっくりと私と悠馬さんで祭壇の元へ登っていく。
讃美歌が歌われ、誓約の言葉も少しだけ上擦ったけれど答えることが出来た。
「緊張してる?」
指輪が準備されるわずかな間、悠馬さんがささやいてくる。
小さく頷くと彼はふっと笑う。
「俺だけ見ていて」
――こういう時にそういうことを言うのは、反則でしょう!
固まる私の指をゆるく擦り、悠馬さんは薬指に指輪を嵌める。二人でたくさん相談して選んだものだ。
私もおぼつかない指先で悠馬さんの薬指に同じように指輪を嵌める。
神父に促され、悠馬さんは静かにベールの縁を摘まんだ。ゆっくりと上げられ、彼の顔がはっきりと見えるようになる。きっと、悠馬さんも同じだろう。
彼は私の肩にそっと手を添える。私も背を伸ばした。
顔が近づき、触れるだけ――のはずが、緊張し力み過ぎたせいでぶつかるようなキスだった。それに気づいたのは私たちだけで、こっそりと笑う。
拍手を浴びながらふたりで外へ歩いていく。出てすぐに小さな鐘があり、その前で私たちは中から出てくる参列者に言葉をかけたりかけられたりした。
皆が道の端に並ぶと、悠馬さんと鐘を鳴らす。高らかに音が鳴りひびく。
……ここまで来たんだ。
音の余韻を聞きながら、私は思う。
身代わりとして悠馬さんと出会い、悩んで、笑って、泣いて、ここまで来た。
ここに立つことが出来て、幸せだ。
「あやめさん」
「うん、悠馬さん」
学生時代の友人たちが、葉月が、ちゃっかり里美ちゃんが、かえで君が、その後ろでつばきが花びらを撒いた。バラの甘やかな匂いがふわりとする。
その中を私と悠馬さんは歩いていく。並んで、しっかりと踏みしめながら。
この先もずっとずっと、一緒に歩いていくのだ。
私とあなたで、幸せな未来を。
FIN
真っ白なバージンロード。天井にはステンドグラスが嵌められ、透き通った影を落としている。
私は母親と向き合い、少し身長の低い彼女の為に身をかがめた。ゆっくりとベールが下ろされる。
「お母さん、今までありがとう」
そう言えば、母親は口元を歪めて頷いた。
父親の方を向きその左腕と自分の右腕をそっと組む。かすかに震えていた。顔を見上げれば、口元を強く引き結んでいる。いつも温和な彼のそんな表情を見るのは初めてだった。泣くのを堪えているのだとすぐに分かった。
二人でゆっくりとバージンロードを歩いていく。
「あやめ、ふたりで幸せになるんだよ」
「うん」
ひそりと手向けられた言葉に頷く。
祭壇の下、悠馬さんの前で私たちの足は止まる。
父親の手に導かれて私は悠馬さんの手を握った。ゆっくりと私と悠馬さんで祭壇の元へ登っていく。
讃美歌が歌われ、誓約の言葉も少しだけ上擦ったけれど答えることが出来た。
「緊張してる?」
指輪が準備されるわずかな間、悠馬さんがささやいてくる。
小さく頷くと彼はふっと笑う。
「俺だけ見ていて」
――こういう時にそういうことを言うのは、反則でしょう!
固まる私の指をゆるく擦り、悠馬さんは薬指に指輪を嵌める。二人でたくさん相談して選んだものだ。
私もおぼつかない指先で悠馬さんの薬指に同じように指輪を嵌める。
神父に促され、悠馬さんは静かにベールの縁を摘まんだ。ゆっくりと上げられ、彼の顔がはっきりと見えるようになる。きっと、悠馬さんも同じだろう。
彼は私の肩にそっと手を添える。私も背を伸ばした。
顔が近づき、触れるだけ――のはずが、緊張し力み過ぎたせいでぶつかるようなキスだった。それに気づいたのは私たちだけで、こっそりと笑う。
拍手を浴びながらふたりで外へ歩いていく。出てすぐに小さな鐘があり、その前で私たちは中から出てくる参列者に言葉をかけたりかけられたりした。
皆が道の端に並ぶと、悠馬さんと鐘を鳴らす。高らかに音が鳴りひびく。
……ここまで来たんだ。
音の余韻を聞きながら、私は思う。
身代わりとして悠馬さんと出会い、悩んで、笑って、泣いて、ここまで来た。
ここに立つことが出来て、幸せだ。
「あやめさん」
「うん、悠馬さん」
学生時代の友人たちが、葉月が、ちゃっかり里美ちゃんが、かえで君が、その後ろでつばきが花びらを撒いた。バラの甘やかな匂いがふわりとする。
その中を私と悠馬さんは歩いていく。並んで、しっかりと踏みしめながら。
この先もずっとずっと、一緒に歩いていくのだ。
私とあなたで、幸せな未来を。
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