身代わり婚約者は生真面目社長に甘く愛される
5
出来るだけ持ちうる限りの上品さで食事をし、今は紅茶を飲んでいる。なんでもない顔をしながら砂糖を二杯とミルクを注いだ。
「悠馬さんは、オムライスお好きなんですか?」
まだそこまで互いを知らないのもあり、会話が途切れがちだ。
なんとなく、話さなければと思ってしまう。沈黙していればボロが出ないだろうに気持ちは収まらないのだ。
「好きですね。オムライスがある店に行くとだいたい頼んでいます」
「へぇ、オムライスソムリエみたいな感じですか?」
「オムライスソムリエみたいな感じです」
思わず訳のわからないことを口走って、悠馬さんは悠馬さんで大真面目に返してきた。
なんだろう、オムライスソムリエって。
ううん…なんだか昔、それも小さい頃にそんなことを言って笑っていた記憶があるんだけど…。まあ、今とは関係ないか。
「前回は事情があって食べられなかったので今回来ることができて嬉しかったんです」
「前回?」
「はい、プレオープン時に呼ばれたんです」
プレオープンに呼ばれる? なんだろう、この店のオーナーと知り合いなのだろうか。
よく分かっていない私へ、悠馬さんはコーヒーを一口飲んだあとに口を開く。
「つばきさんはここの内装を見てどう思いましたか」
「え…!?」
「ありのままでいいです」
そんないきなり言われても。
私は変にもったいぶる言い方は出来ないので素直に答える。
「木の温もりが感じられるあたたい場所だと思いました。ずっと居たくなるような…広い場所ではあるけれど寂しくはないし、テーマがあるのかまでは分かりませんが、森の中みたいな感じだなと」
「なるほど。もう一つ、空間デザイナーについてご存知ですか?」
話がずいぶん変わったな、と思いつつ頷いた。悠馬さんの職業だ。
お見合い前に少しだけ調べていた。
空間設計に内装のデザインや、調度品や装飾の選定をする仕事。
あれ?
空間デザイナー?
プレオープンに呼ばれたのは、きっと何か特別な関係で。
そして、ここの内装の感想を聞かれた理由は…。
「ま、まさか、悠馬さんのデザインですか!?」
「ああ、本当に知らなかったのですね」
レストラン選びに誰がデザインしたかなんて全然気にしていなかった!
あわあわとしながら私は言い訳を考える。思いつかない。
「すすすすいません! 何も知らなくて!」
「いえ。むしろ、少し邪推していました。俺のご機嫌取りでもしているのではないかと」
一瞬凍てつくような視線になり、私は身がすくむ心地になる。
やっぱりこの人、本条家があまり好きではない。
「そんなこと…」
「でも違いました。それに、ずいぶん褒められてしまったので嬉しいですね」
「わぁぁ!」
悠馬さんは涼やかに微笑む。
「ここのコンセプトはログハウスでした。都会の中のログハウス。オーナーと擦り合わせて完成した自信作です」
周りを見渡すその瞳は柔らかで、私は不覚にもどきりとする。つばきの婚約者なのに…。
赤くなる顔を髪を弄ることで誤魔化しているとケーキが運ばれてきた。いちごのショートケーキとモンブランだ。頼んだ覚えがないのだが…。
「オーナーとシェフからサービスです」
店員さんがにこやかに疑問に答える。
「わざわざデザートを。気を使わないでいいとお伝えください」
「いえいえ。みんな気に入っているのですよ、このお店を」
そう言って店員さんは下がる。
「…本当は一般客で来たかったんですけどね」
苦笑いしながら彼は言う。
どういうことだろう?
「貰ったものはいただきましょう。つばきさんはーー」
「…モンブランで」
ううっ、イチゴアレルギー設定がここで効いてくるとは…。知らないふりして食べたいぐらいだけど、つばきが後々イチゴを食べる羽目になったら大変なのでここは食べてはいけない。
モンブランもモンブランでとても美味しい。なおさらショートケーキへの未練が募る。うう、また絶対にここへ来よう。
大事に食べていると、悠馬さんが「ふ」と笑う。
「ど、どうしました?」
「いえ。美味しそうに食べる方だな、と」
わけもなく恥ずかしくなってしまったが、褒めてくれているんだよね?
なんだか悠馬さんにペースを崩されっぱなしだ。ボロを出さないように必死でいなくちゃいけないのに。
「そういえば…前回オムライスを食べられなった事情ってなんですか?」
「ああ。ご存知でしたか? ここ、ハンバーグに力を入れているんですよ」
「そうですね、ホームページでも一番先に出てきました」
そう思うとハンバーグも良かったかもしれない。
だけどソースが服につくかもと考えて尻込みしてしまったのだ。
悠馬さんは言いづらそうに口を開く。
「…プレオープンの時、シェフがハンバーグについて熱弁していて、他のメニューを頼みづらかったんですよ」
悠馬さん、結構お人好しな人なんだな。
「悠馬さんは、オムライスお好きなんですか?」
まだそこまで互いを知らないのもあり、会話が途切れがちだ。
なんとなく、話さなければと思ってしまう。沈黙していればボロが出ないだろうに気持ちは収まらないのだ。
「好きですね。オムライスがある店に行くとだいたい頼んでいます」
「へぇ、オムライスソムリエみたいな感じですか?」
「オムライスソムリエみたいな感じです」
思わず訳のわからないことを口走って、悠馬さんは悠馬さんで大真面目に返してきた。
なんだろう、オムライスソムリエって。
ううん…なんだか昔、それも小さい頃にそんなことを言って笑っていた記憶があるんだけど…。まあ、今とは関係ないか。
「前回は事情があって食べられなかったので今回来ることができて嬉しかったんです」
「前回?」
「はい、プレオープン時に呼ばれたんです」
プレオープンに呼ばれる? なんだろう、この店のオーナーと知り合いなのだろうか。
よく分かっていない私へ、悠馬さんはコーヒーを一口飲んだあとに口を開く。
「つばきさんはここの内装を見てどう思いましたか」
「え…!?」
「ありのままでいいです」
そんないきなり言われても。
私は変にもったいぶる言い方は出来ないので素直に答える。
「木の温もりが感じられるあたたい場所だと思いました。ずっと居たくなるような…広い場所ではあるけれど寂しくはないし、テーマがあるのかまでは分かりませんが、森の中みたいな感じだなと」
「なるほど。もう一つ、空間デザイナーについてご存知ですか?」
話がずいぶん変わったな、と思いつつ頷いた。悠馬さんの職業だ。
お見合い前に少しだけ調べていた。
空間設計に内装のデザインや、調度品や装飾の選定をする仕事。
あれ?
空間デザイナー?
プレオープンに呼ばれたのは、きっと何か特別な関係で。
そして、ここの内装の感想を聞かれた理由は…。
「ま、まさか、悠馬さんのデザインですか!?」
「ああ、本当に知らなかったのですね」
レストラン選びに誰がデザインしたかなんて全然気にしていなかった!
あわあわとしながら私は言い訳を考える。思いつかない。
「すすすすいません! 何も知らなくて!」
「いえ。むしろ、少し邪推していました。俺のご機嫌取りでもしているのではないかと」
一瞬凍てつくような視線になり、私は身がすくむ心地になる。
やっぱりこの人、本条家があまり好きではない。
「そんなこと…」
「でも違いました。それに、ずいぶん褒められてしまったので嬉しいですね」
「わぁぁ!」
悠馬さんは涼やかに微笑む。
「ここのコンセプトはログハウスでした。都会の中のログハウス。オーナーと擦り合わせて完成した自信作です」
周りを見渡すその瞳は柔らかで、私は不覚にもどきりとする。つばきの婚約者なのに…。
赤くなる顔を髪を弄ることで誤魔化しているとケーキが運ばれてきた。いちごのショートケーキとモンブランだ。頼んだ覚えがないのだが…。
「オーナーとシェフからサービスです」
店員さんがにこやかに疑問に答える。
「わざわざデザートを。気を使わないでいいとお伝えください」
「いえいえ。みんな気に入っているのですよ、このお店を」
そう言って店員さんは下がる。
「…本当は一般客で来たかったんですけどね」
苦笑いしながら彼は言う。
どういうことだろう?
「貰ったものはいただきましょう。つばきさんはーー」
「…モンブランで」
ううっ、イチゴアレルギー設定がここで効いてくるとは…。知らないふりして食べたいぐらいだけど、つばきが後々イチゴを食べる羽目になったら大変なのでここは食べてはいけない。
モンブランもモンブランでとても美味しい。なおさらショートケーキへの未練が募る。うう、また絶対にここへ来よう。
大事に食べていると、悠馬さんが「ふ」と笑う。
「ど、どうしました?」
「いえ。美味しそうに食べる方だな、と」
わけもなく恥ずかしくなってしまったが、褒めてくれているんだよね?
なんだか悠馬さんにペースを崩されっぱなしだ。ボロを出さないように必死でいなくちゃいけないのに。
「そういえば…前回オムライスを食べられなった事情ってなんですか?」
「ああ。ご存知でしたか? ここ、ハンバーグに力を入れているんですよ」
「そうですね、ホームページでも一番先に出てきました」
そう思うとハンバーグも良かったかもしれない。
だけどソースが服につくかもと考えて尻込みしてしまったのだ。
悠馬さんは言いづらそうに口を開く。
「…プレオープンの時、シェフがハンバーグについて熱弁していて、他のメニューを頼みづらかったんですよ」
悠馬さん、結構お人好しな人なんだな。
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