本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~

桜井 響華

結婚前提のお付き合いを認めて貰えました!【4】

───時は流れて、本日、一颯さんの実家にお邪魔する事となりました。平日だと言うのに、御家族が皆様お揃いになるとの事で玄関先にして足が竦んでおります。

第一印象が大切だと人は良く言うので、いつものデート以上に身だしなみと服装には気を付けてきたつもり。咲希さん伝授の年相応の大人女子なメイク、髪はアイロンで真っ直ぐストレート、清楚なワンピースに裾にレースの施された薄手のコート、低すぎない綺麗めなパンプスと言ったコーデに身を包んで来た。大丈夫かな?変じゃないかな?

「大丈夫だよ、そんなに緊張しなくて。依子も居るけど犬大丈夫?」

「大丈夫です。よりこちゃんに会いたいです」

一颯さんが玄関のドアを開けると最初に出迎えてくれたのは、よりこちゃんだった。

「依子、ただいま」

よりこちゃんは一颯さんの匂いを嗅ぎつけ玄関先までダッシュしてダイブして来た。一颯さんはよりこちゃんを抱き上げると鳴き声が止まり、すっぽりと腕の中に収まった。よりこちゃんは目が真ん丸なポメラニアン。

「いらっしゃい、恵里奈ちゃん。依子ったら馬鹿犬でごめんね。依子はおばあちゃんと一颯の言う事しか聞かないから」

「馬鹿犬、言うな」

「だって本当の事でしょ?」

玄関のドアを開けるまで緊張していたのが嘘のように、よりこちゃんのおかげでリラックスが出来た。よりこちゃんを追いかけるようにお姉さんの咲希さんが顔を出した。

「お母さん達、もうすぐ来るから座って待ってて!」

「お邪魔します…」

咲希さんに案内されて、ふうっと一息ついてから真壁家の敷居を跨ぐ。

「ばあちゃん、ただいま。お嫁さんになる人、連れて来た」

「おかえり、一颯。あらあら、お出迎えもしませんですみません。初めまして一颯の祖母でございます」

「初めまして、一颯さんとお付き合いさせて頂いている篠宮  恵里奈と申します。予定時刻よりも早くお邪魔してしまい、すみません」

「いえいえ、こちらこそ来てくれて有難うね。噂は咲希から聞いてるよ。噂通りの礼儀正しい可愛い子だねぇ」

「ばあちゃん、天ぷら焦げそう…」

「あらら…」

おばあさんは台所で天ぷらをあげていた。その間、よりこちゃんの面倒を咲希さんが見ていたらしいが、てこづっていたので、一颯さんが来てくれて良かった…と言っていた。

少ししてから、御両親も帰って来て一颯さんと咲希さんのお兄さん御夫妻もいらっしゃった。一颯さんから、お兄さんの話は聞いた事がなかったので正直、驚いた。御両親は注文していた刺身の盛り合わせを取りに行ってたらしく、お兄さん御夫妻は仕事を抜けてきてくれたらしい。

「一颯も咲希も中々、結婚相手が見つからないから、お見合いでもと考えては居たのよ。こんなに可愛いお嫁さんが来てくれるなら、お母さん嬉しいわ。問題は咲希よね……。結婚する気があるのかしら?」

「ちょっと私の話は出さないでよ!付き合ってる人くらい居るから!」

「だったら今度連れて来てね」

「……っゔ、」

お母さんと咲希さんのバトルが始まって、お父さんは呆れた顔をしていた。一颯さんはお父さんに顔が似ている気がする。寡黙であまり話さないが実家は何処?とか二人で話をしたりもした。

お昼にお邪魔して、あっという間に夕方になってしまった。途中、お兄さん御夫妻は仕事に戻ったが御挨拶だけでも出来て良かった。お兄さんも顔立ちは一颯さんに似てたけれど穏やかに話をする人だった。

「何のお構いも出来ませんでごめんなさいね。また遊びにいらしてね。お土産も有難う御座います」

「沢山美味しいご馳走を頂き、ごちそうさまでした。今日は有難う御座いました」

帰る時は御両親と咲希さん、おばあさんに見送って頂いた。緊張したけれど楽しい一時だったなぁ。御両親も親しみ易い方で良かった。次回の休みは私の実家に一颯さんと一緒に行く予定。

「一颯さんの御実家は旅館を経営してるんですね。驚きました!」

「隠していた訳ではないが老舗旅館をやってる。大女将が母で兄嫁が女将を務めている。刺身の盛り合わせは旅館で板前に切ってもらったんだ。ちなみに父も板前ね」

「わぁっ、お父さんは板前さんなんですね!カッコイイ!」

「父は真壁家の婿養子。女共がうるさいのは真壁家の血筋」

「気さくな方達で親しみ易かったですよ」

一颯さんの実家にお邪魔した事により知らなかった事が明らかになる。何より、私を快く受け入れてくれた事が嬉しかった。結婚前提でのお付き合いも承諾を頂けた。

帰り道の車の中、緊張が溶けた私はウトウトと居眠りをしてしまった。前日は緊張し過ぎて中々寝付けなかったのもある。一颯さんに腕枕をされても、目が覚めてしまっていたのだ。大好きなバンドの曲が子守り歌になり、一颯さんの運転する車の心地好い振動が私に眠気を誘った。

「恵里奈ちゃーん、そろそろ起きて。もうすぐ着いちゃうけど夕飯どうする?」

「…っふぁ、あ、あれ?ここ何処ですか?」

「マンションのちょっと手前のコンビニだよ。はい、ホットミルクティー。気疲れしたでしょ?今日はありがとな。夕飯どうする?何処かに食べに行くか買って帰る?」

グッスリ寝てしまったみたいで一颯さんの住んでいるマンションの近くまで来ていたようだった。せっかく時間をかけて綺麗にした髪も少しボサボサになっている。一颯さんからホットミルクティーを受け取り、口に含んだ。お砂糖が入っていて甘くて美味しい。疲れた時には甘い物、と言う一颯さんなりの配慮だ。

一颯さんはクシャクシャと私の髪を撫でた。帰りはずっと寝ていただけの私に気を使ってくれて、どれだけ私を甘やかせば気が済むのだろう?

コンビニを出てホテルから少し離れたファミレスに向かう。一颯さんとファミレスに入るのは初めて。付き合いが長くなる程、一緒の初めてが増えて行く。

ファミレスに行き、ピザやサラダなどをシェアして食べた後、パフェも食べた。一颯さんは酔ってない時は一口しかパフェを食べなかった。隠れ甘党はお酒が入らないと出ないらしい……。

その後、別の公休日に私の実家にも一颯さんと一緒に挨拶に行く事が出来て、ホッと一安心。両親も妹も一颯さんを見た瞬間に格好良すぎて固まって、フリーズ。同性の父ですら間近に居るイケメンに戸惑ってしまった、と笑っていた。



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