本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~

桜井 響華

休息日には温泉にゆっくりとつかりましょう。【5】

「日の出は6時半頃だって。あと一時間位はあるか…」

私の意識は遠くに行く寸前だった。甘美な時間が終わりを告げ、一颯さんはスマホから日の出の時刻を調べていた。

「寝ちゃうの?」

「ね、寝ないです!」

重い瞼をこじ開け、シーツにくるまったままでベッドから出る。冷蔵庫に冷やしておいたお茶のペットボトルの封を切り喉に流し込む。本当は凄くダルくて眠い。後、一時間かぁ……。起きていられるかな?

「シャワー浴びるでしょ?浴びるついでに露天風呂入ろ」

お茶を飲んでいた私の手を引っ張り露天風呂へと連れて行かれた。シーツも剥がされ、裸なんですけど……!ちなみに一颯さんは浴衣を羽織っていたけれど……。

洗い場にある椅子に座らされ、髪の毛をわしゃわしゃと洗われている。

「自分で洗えますってば!」

「たまにはいーでしょ!」

「じゃあ、一颯さんも洗ってあげますね」

「宜しくお願いします。ついでだから恵里奈の身体も洗ってあげようか?」

「それは大丈夫です!」

断固として拒否したら一颯さんは笑っていた。身体は自分で洗い、露天風呂につかる。段々と明るくなってきて露天風呂に入りながら朝日を拝めた。

「海がキラキラ輝いてますね。本当に綺麗で見れて良かったです」

「今度来た時は一緒に夕陽も見よう。まぁ、また夕陽は見逃すかもしれないけど」

夕陽は見れなかったけれど朝日を一緒に見れただけで幸せ。

露天風呂からあがると少しだけ眠る事にした。一颯さんは寝坊するかもしれないからと念の為に事前にレイトチェックアウトにしていたらしく、お昼までは客室に居られるらしい。

一颯さんと一緒に居るようになってから初めて人肌が恋しいと言う言葉が理解出来た。一颯さんと一緒に寝ると安心して良く眠れる。腕枕に頭を乗せて抱き合って寝た。私が眠るより前に一颯さんの吐息が聞こえた。

仕事で疲れて居たのに私の為に尽くしてくれて有難う御座います。大好き、一颯さん───……

「えーりーな、おーきーてっ!」

ゆさゆさと身体を揺さぶられ目が覚めた。深い眠りについていたらしく時刻は11時40分過ぎ。

「な、何で起こしてくれなかったの?」

時計を見て我に返った私は慌てふためく。ボサボサの髪の毛をとかしたり、着替えたり、化粧をしたりと大急ぎで準備をする。

私が寝ていた間に整理整頓してくれたらしい。一颯さんが知っている限りの私の荷物はまとめられていた。一颯さんも準備は完了しているみたいで完全に私待ち。

「……ご、ごめんなさい!ギリギリまで寝てしまいました」

「別に良いよ。俺が無理させたんだし」

チェックアウトを済ませるとモーニングを食べなかった分がランチへと変更していた。一颯さんはどこまでも手配済みで私はただの役立たずに過ぎない。旅館内のレストランでランチを取ってから車に乗る前に海辺を散歩している。

「朝昼が一緒なのはコレで何度目かな?あの時以来かな?」

「そうですね。一颯さんと寝ると寝坊しちゃうんですよ」

「寝坊対策として寝る前に激しい運動は控えるか、公休日はどこにも行かずにベッドで過ごすか?だな」

「ちょっと、そーゆー意味で言ったんじゃなくて安心して寝ちゃうって事です!もぉ!」

パシパシと軽く一颯さんの背中を叩く。"あの時"とは一颯さんと同じ公休日になりランチブッフェやショッピングモールに行った日の事だ。

そう言えば、"あの日"で思い出した。幸田様はどうなっただろうか?

「あの…、思い出したんですが幸田様は就職先は決まりましたか?一条様から何か聞いてます?」

「さぁ、何も?一条様も息子の就職先なんかの要件で俺には電話はしてこないだろう。アイツはアイツで道を切り拓くしかないから、泣きついてくるのなら就職先の口利きをしてやっても良いとは思ってる」

「そうですか……」

幸田様のした事は 許される事ではないが、本人は孤独を人一番味わっているように見えた。就職先が決まったら彼にも幸せが待っていると願いたい。

「幸田様にも幸せになって欲しいですよね」

「相変わらずのお人好しだね、恵里奈は…」

一颯さんは笑いながら私の頭をクシャッと撫でた。手を繋いで散歩をして、海の写真をスマホで撮影したりしてから車に乗り込んだ。

「旅行に連れてきてくれて有難う御座いました。素敵な思い出になりました」

シートベルトを締めながら一颯さんに伝えると…「次回は新婚旅行かな~?」なんて言ってクスッと笑っていた。私にはその言葉が嬉し過ぎて胸がいっぱいになり返す言葉に詰まった。

一颯さんの支配人という立場上、いつ職場恋愛を公表して結婚出来るのかは分からないけれど繋がっている赤い糸を切り離したくはない。

「……恵里奈が良ければ、いつでも御両親にも挨拶に行くし結婚の準備も進めたいと思ってるから。恵里奈の事、本気だからね?」

一颯さんが車のエンジンをかけるとお互いが好きなバンドの曲が流れてくる。ちょうど良いタイミングでウェディングソングとしても使われている曲だった。

「………はい、本気なのは知ってます」

「っぷ…、随分な自信だね、恵里奈ちゃん」

真面目に答えたつもりだったのに一颯さんは吹き出した。

「…だって、こんなに大切にしてもらってるんだから自惚れても良いでしょ?……それに……」

「それに?」

「一颯さんが挨拶しに来てくれるって言ってるのに断る理由なんてありません!」

「ははっ、このまま行っちゃおうか?」

「それは無理!心の準備ができてないから……!」

家族には、お付き合いしている人が居るとは知らせてある。挨拶に行ったら家族はビックリするだろうな。私が連れてきた人が容姿端麗で働いているホテルの支配人だなんて───……

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