本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
お客様は神さま!……ではありません?【5】
「一条様とはカフェに行ったのに俺の誘いは断るんだね?」
幸田様は私の目の前まで歩き、手に持っていたシャンパングラスを床に叩き付けた。叩き付けられたシャンパングラスは粉々に割れて散らばった。
「篠宮!」
ラウンジの裏側のパントリーから見守っていた一颯さんの声が聞こえたが、出てこないで!と目線と手で合図をした。
「一条様とはバトラーとして御指名頂いた上、業務で同行させて頂きました。例え一条様とであっても他のお客様の憩いの場であるホテル内のラウンジでお酒を交わす事は出来ません」
「へぇ、いちいち律儀に答えてくれてあ、り、が、と」
幸田様は言葉に合わせるように私の額に指先でトントンと軽く叩いた。それでも私は毅然とした態度を取り続けた。
グラスの割れた音に反応しラウンジで静かにお酒を嗜んでいたお客様がビクリッと驚いた。このままではいけないんだけれど……。
「元はと言えば篠宮さんが俺を無視し続けて、あの男と一緒に居るからいけないんだよ。別れるんだったら許してあげるよ?別れるつもりがないなら、もっと暴れちゃおっかな?」
割れたグラスの破片をグリグリと踏みつけて私の顔に近付いて話をしてくる幸田様。
「篠宮さんだけなんだよね、折角、俺が誘ってやってるのに俺に媚びを売らない女は。俺が誰だか知っててやってるの?知っててやってるなら篠宮さんってどうかしてるよ」
「何の事だか存じあげません……」
幸田様は何が言いたくて一体何がしたいの?私に仕返ししたければすれば良い。けれども他のお客様とスタッフに迷惑をかけるのならば私も黙ってはいられない。
「幸田様、これ以上、他のお客様の御迷惑をおかけするならばお引き取り願えますか?」
腰を下ろし、左膝を立てて、右膝を折り曲げカーペットに近い位まで近付けた。立ち膝の仕草は、お客様に穏便に対応して頂きたい時にも使うパフォーマンス的な意味合いでもある。
私達により一層、視線が集まる。
「篠宮さん、立ち上がって。俺はね、あの男と別れるんだったら許してあげるよって言ってるじゃん?そんな簡単な事なんだよ?」
一颯さんと別れる? 一颯さんとの別れを選択すれば幸田様が引き下がってくれるとは思う。申し訳ないけれど、その選択肢は無いに等しい。
それでも引き下がってくれるとは思えないから……やっぱり選択しなきゃいけないのかな?
目尻に溜まっている涙がこぼれ落ちてしまうから顔は上げる事は出来ない。幸田様にも屈服もしたくない。
どうしたら良いのかな……?
いきがって幸田様に反発してしまったが、声も出せずに震えていると右腕を掴まれて無理矢理に立たされた。
「い、いぶ…、し、支配人…?」
私は驚きの余り、よろめいた。一颯さんは私の事を見ても微笑みはせずに幸田様の目の前に立った。
「幸田様、宿泊約款の当ホテルの契約解除権に基づきお帰り頂きます。お友達の皆様も申し訳ありませんがお引き取り下さいませ」
「何だよ?今頃出てきて支配人気取りかよ」
「お話があるなら客室で聞きます。お友達の皆様、いえ、友達レンタルのアルバイトの方々、これで任務は終了です」
一颯さんはお友達に笑顔を見せた後に幸田様の両腕を背中側で羽交い締めにして客室まで連れて行く。その両側を高見沢さんと星野さんがガードしている。友達レンタルと呼ばれた方々はそそくさとラウンジを退出していった。
私は割れて散らばってしまったグラスを片付けて他のお客様に謝罪した後に幸田様の客室へと向かった。
「……で、篠宮に付きまとって何がしたかったんだ?」
「純粋に可愛いから、ただそれだけだよ」
私が客室の中へ入ると同時に高見沢さんと星野さんが出て行った。3人になった客室で一颯さんが呆れたように幸田様に問いかけた。
幸田様はいじけたようにそっぽを向き、それ以上は何も語りたくない様子だったが一颯さんの眼力の威圧により話し始めた。一颯さんは相当お怒りのようで目が笑ってはいない。
「篠宮さん、とりあえず座って話を聞いて。上から見下ろされるのは嫌いだから」
「ではお言葉に甘えて失礼致します」
私と一颯さんは幸田様が座るソファーの目の前に立って居たが座ってと言われたので隣の複数人座れるソファーに腰をかけた。一颯さんも黙ったまま、私の隣に腰をかけた。
「……支配人の目力が半端なくて怖い。それが客を見る目なの?」
「もう、お前はお客様ではない。当ホテルの契約解除権によって、ただの顔見知り程度に成り下がった」
「……はいはい、分かりましたってば!解除権でも何でも使って下さいね」
幸田様はソファーにふんぞり返って足なんて組んでいる。態度は身に余るものがあり、私自身も頭には来ているが一先ずは口を閉じている。一颯さんも目が笑ってはいないから相当怒っているのが分かるけれど、悪質な態度を取られたり、発言があっても決して手は上げたりはしない。
幸田様は私の目の前まで歩き、手に持っていたシャンパングラスを床に叩き付けた。叩き付けられたシャンパングラスは粉々に割れて散らばった。
「篠宮!」
ラウンジの裏側のパントリーから見守っていた一颯さんの声が聞こえたが、出てこないで!と目線と手で合図をした。
「一条様とはバトラーとして御指名頂いた上、業務で同行させて頂きました。例え一条様とであっても他のお客様の憩いの場であるホテル内のラウンジでお酒を交わす事は出来ません」
「へぇ、いちいち律儀に答えてくれてあ、り、が、と」
幸田様は言葉に合わせるように私の額に指先でトントンと軽く叩いた。それでも私は毅然とした態度を取り続けた。
グラスの割れた音に反応しラウンジで静かにお酒を嗜んでいたお客様がビクリッと驚いた。このままではいけないんだけれど……。
「元はと言えば篠宮さんが俺を無視し続けて、あの男と一緒に居るからいけないんだよ。別れるんだったら許してあげるよ?別れるつもりがないなら、もっと暴れちゃおっかな?」
割れたグラスの破片をグリグリと踏みつけて私の顔に近付いて話をしてくる幸田様。
「篠宮さんだけなんだよね、折角、俺が誘ってやってるのに俺に媚びを売らない女は。俺が誰だか知っててやってるの?知っててやってるなら篠宮さんってどうかしてるよ」
「何の事だか存じあげません……」
幸田様は何が言いたくて一体何がしたいの?私に仕返ししたければすれば良い。けれども他のお客様とスタッフに迷惑をかけるのならば私も黙ってはいられない。
「幸田様、これ以上、他のお客様の御迷惑をおかけするならばお引き取り願えますか?」
腰を下ろし、左膝を立てて、右膝を折り曲げカーペットに近い位まで近付けた。立ち膝の仕草は、お客様に穏便に対応して頂きたい時にも使うパフォーマンス的な意味合いでもある。
私達により一層、視線が集まる。
「篠宮さん、立ち上がって。俺はね、あの男と別れるんだったら許してあげるよって言ってるじゃん?そんな簡単な事なんだよ?」
一颯さんと別れる? 一颯さんとの別れを選択すれば幸田様が引き下がってくれるとは思う。申し訳ないけれど、その選択肢は無いに等しい。
それでも引き下がってくれるとは思えないから……やっぱり選択しなきゃいけないのかな?
目尻に溜まっている涙がこぼれ落ちてしまうから顔は上げる事は出来ない。幸田様にも屈服もしたくない。
どうしたら良いのかな……?
いきがって幸田様に反発してしまったが、声も出せずに震えていると右腕を掴まれて無理矢理に立たされた。
「い、いぶ…、し、支配人…?」
私は驚きの余り、よろめいた。一颯さんは私の事を見ても微笑みはせずに幸田様の目の前に立った。
「幸田様、宿泊約款の当ホテルの契約解除権に基づきお帰り頂きます。お友達の皆様も申し訳ありませんがお引き取り下さいませ」
「何だよ?今頃出てきて支配人気取りかよ」
「お話があるなら客室で聞きます。お友達の皆様、いえ、友達レンタルのアルバイトの方々、これで任務は終了です」
一颯さんはお友達に笑顔を見せた後に幸田様の両腕を背中側で羽交い締めにして客室まで連れて行く。その両側を高見沢さんと星野さんがガードしている。友達レンタルと呼ばれた方々はそそくさとラウンジを退出していった。
私は割れて散らばってしまったグラスを片付けて他のお客様に謝罪した後に幸田様の客室へと向かった。
「……で、篠宮に付きまとって何がしたかったんだ?」
「純粋に可愛いから、ただそれだけだよ」
私が客室の中へ入ると同時に高見沢さんと星野さんが出て行った。3人になった客室で一颯さんが呆れたように幸田様に問いかけた。
幸田様はいじけたようにそっぽを向き、それ以上は何も語りたくない様子だったが一颯さんの眼力の威圧により話し始めた。一颯さんは相当お怒りのようで目が笑ってはいない。
「篠宮さん、とりあえず座って話を聞いて。上から見下ろされるのは嫌いだから」
「ではお言葉に甘えて失礼致します」
私と一颯さんは幸田様が座るソファーの目の前に立って居たが座ってと言われたので隣の複数人座れるソファーに腰をかけた。一颯さんも黙ったまま、私の隣に腰をかけた。
「……支配人の目力が半端なくて怖い。それが客を見る目なの?」
「もう、お前はお客様ではない。当ホテルの契約解除権によって、ただの顔見知り程度に成り下がった」
「……はいはい、分かりましたってば!解除権でも何でも使って下さいね」
幸田様はソファーにふんぞり返って足なんて組んでいる。態度は身に余るものがあり、私自身も頭には来ているが一先ずは口を閉じている。一颯さんも目が笑ってはいないから相当怒っているのが分かるけれど、悪質な態度を取られたり、発言があっても決して手は上げたりはしない。
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