本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
所有者に決定権があり、お断り出来ません。【1】
三ヶ月間の研修中、自らの公休の度に様子を確認しに来てくれた支配人。
知らない人ばかりの中、励みにもなり、顔を見たら安心してホッと胸を撫で下ろす事が出来た。
辛い事も楽しい事も多々あり、覚える事も沢山あって、バトラーの研修以外にも基礎から学べた三ヶ月間だった。
初めて足を運んだエグゼクティブフロア
はワンランク上のサービスを提供する客室の階で、各スイートルームも位置する。その他、専用フロントや専用ラウンジなど特別感に溢れたフロアだ。
初日に見学をさせて頂けたのだが、高級過ぎて足がすくむ程の部屋の内装やブランドから出しているアメニティ、最上階から見える夜景など、全てにおいて魅力的だった。そんな場所でのバトラーと言うサービスに驚きもしたが、新しい世界感が生まれて楽しかった。
バトラーと呼ばれる方々の大半は英語が話せて格好良かった。高級ホテルで働くには当たり前の知識なのかもしれないが、私はあまり話せないので空き時間で英語の勉強をしたり、英会話スクールに通ったりしていた。ちなみに以前働いていたリゾートホテルでは外国人観光客も多かったので簡単な英会話は話せるようにスクールには通っていたのだが、バトラーとしてはまだまだ知識が足りなかった。
目まぐるしく過ぎた研修の日々、本日、最終日となりました。
「短い間でしたがお世話になりました。ありがとうございました」
「お疲れ様ね、篠宮さん」
「戻らないで本店に居てもいいのよ?」
「そうだよ、戻らないで一緒に働こうよ」
支配人が車でお迎えに来てくれて、お別れの時にはお見送りの為に手隙の皆で駐車場まで出向いて、優しい言葉をかけてくれた。
本店の方々は皆、気さくな良い方ばかりで人間関係に悩ませられる事はなく、間借りした同部屋の女性とは電話番号を交換して後日、会う約束をしている。
「お忙しい中、ありがとうございます」
支配人の車に乗り込むとお礼を伝えて、シートベルトを締める。
久しぶりの車内のふんわりとした香りに癒される。支配人にしては可愛すぎる香りだが、やっぱり好きだな。
「別に…。俺が橋渡ししたんだから、挨拶がてら来ただけだ。しかし、本店の方がお前の顔が生き生きしてたな」
「皆さんに良くして頂いて、毎日が楽しくてやりがいがありました。そう言えば、常連の鈴木様にお会いしました。御夫婦は名前を覚えていて下さり、嬉しかった。本当に素敵な御夫婦ですよね!今度はウチのホテルに会いに来て下さるそうです。それから、ルームシェアした同室の女の子と仲良くなって…」
誰とも分かち合えなかった三ヶ月の話を勢いだけで話してしまい、まだまだ話し足りないが隣の支配人顔がクスクスと笑っているので、ハッとして途中で止めた。
「よっぽど楽しかったんだな。良かったな」
"やってしまった"と口を抑える私に優しく頭をポンポンと軽く叩く。久しぶりに触れられた事に対して、頬に熱を持つ。
「明日はゆっくり休んで、明後日からは仕事に打ち込める様にしなさい」
「はい」
「聞いてるかもしれないが、星野の推薦もあり、本人の意思も尊重して中里は料飲事務所に配属が決まった」
三ヶ月間の間で状況は変化し続けていて、優月ちゃんからの電話報告に寄ると…優月ちゃんは正式に料飲事務として勤務する事になったらしく、厨房の方々並びに星野さんに親切にして頂いてるらしい。
レストランホールの方々とも段々と打ち解けてきて、良い関係が気付けそうだと言っていた。
優月ちゃんの配属先が決まり嬉しかったのだけれど、自分の事は何一つ、踏ん切りがつかないままで安心出来ない。
明後日からはまた過酷な環境に戻り、勤務する事は不安要素しかない。
心の支えだった優月ちゃんは料飲事務所にいる為、仕事中は会える機会もなかなか無い。
「俺は仕事に戻るから、またな」
寮付近まで送り届けられたが、別れが名残惜しく、支配人の袖をキュッと掴んでしまった。
恋人未満な関係は会いたいとも寂しいとも言えず、曖昧な素振りしか出来ない。
「疲れてるのに無理強いしたくないから言わなかったけど、明日は俺も公休だ。合鍵持ってるだろ?なるべく早く帰る。部屋で待ってろ」
キュッと袖を掴みながら、会えなかった寂しさから、目には涙がうっすらと浮かぶ。
支配人の優しい一言で、まだ関係は続いていたんだと確信し、涙がシートに滲む。
「また泣く…」と呆れた様に言って、支配人は右手の指で私の涙をなぞる。
「部屋に来る気があるなら、今日は先に寝ないように昼寝でもしとけ」
「……今は眠くありません」
「先に寝られたら困るから言ってるんだ。今日はきちんと泊まる用意と覚悟を決めてから来い」
「………」
「ようやく察したか?理解出来たなら、さっさと降りろ!」
不敵な笑みを浮かべたと思ったら、冷たくあしらわれ、車から無理矢理に降ろされた。荷物が入っているカートを引き、寮まで歩きながら考える。
支配人の言っている事は、つまり、…アレだ。
初めてお泊まりした時は偶然の産物だったが、疲れも重なったせいか酔いつぶれて寝てしまった。
あの時は"何もしない"と約束されたものだったから、起きていても何もなかったのだと思う。
今日は…『覚悟を決めてから来い』と言われたので、"何かをする"と宣言されたのと同じだ。
いざとなると躊躇してしまうが、はしたないけれど"何か"を期待している自分がいるのも事実。
恋人未満から恋人へと昇格出来るでしょうか?
「おかえりっ、恵里奈ちゃん!!」
少し離れた正面に位置する場所に、私を呼びながら手を振る姿が見えた───優月ちゃんだ。カートをその場に置き去りにし、優月ちゃんに駆け寄る。
「ただいまっ」
「恵里奈ちゃんが戻って来たって聞いて、星野さんがちょっとだけ抜けていいよって言ってくれたから来たの!お疲れ様!」
「優月ちゃん、会いたかったぁ!」
たった三ヶ月、されど三ヶ月…、会えなかった日々を懐かしむ様にはしゃぐ。
「優月ちゃん、配属決まったんだよね。おめでとう!」
「うん、星野さんの押しに負けて、料飲事務所にいるよ。実はね…内緒だけど…」
話を聞き進めると優月ちゃんは少しずつ、星野さんと打ち解けられ、面と向かって話しても緊張しなくなったそうで、自然に恋心を抱く様になったらしい。
「星野さんて、本当に優しくて素敵な人なの。男性恐怖症も克服出来そうだよ」
「良かったぁ、心配だったんだ。今度ゆっくりと恋バナ聞かせてね!」
優月ちゃんは過去のトラウマが原因で自分がカッコイイと思う人が苦手だったが、星野さんのおかげで克服しつつあるらしい。
上手く行くと良いな、と心から思う。
短い時間だったけれど、優月ちゃんと話が出来て元気の源をチャージした。
明後日からは、あの職場に戻るんだ。
優月ちゃんも自分の意思で動き出したんだから、私も前を向いて頑張りたい。
本店の方々は、"自分は自分"というプライドを持っている為、芯が強いからこそ、人にも優しく接してくれた。
私も後ろ向きな考えばかりではなく、自分から新しい世界に飛び込んで見ようと思う。
まだまだ未熟だけれど、バトラーの仕事やその他のヘルプの仕事を上手にこなせれば、職場の皆とも仲良くなれるかもしれない。
妬みや嫉妬、様々な苦労事が多々あるけれど…それを覆す事が出来る位に仕事が出来る女性になりたい。
願わくば、支配人の隣に居ても釣り合いのとれる女性になりたい。
そう思うのは図々しい願いかもしれないけれど、好きになってしまった以上は自分自身を向上し、支配人が後ろ指を刺されないようにするしか方法はないのだから───……
知らない人ばかりの中、励みにもなり、顔を見たら安心してホッと胸を撫で下ろす事が出来た。
辛い事も楽しい事も多々あり、覚える事も沢山あって、バトラーの研修以外にも基礎から学べた三ヶ月間だった。
初めて足を運んだエグゼクティブフロア
はワンランク上のサービスを提供する客室の階で、各スイートルームも位置する。その他、専用フロントや専用ラウンジなど特別感に溢れたフロアだ。
初日に見学をさせて頂けたのだが、高級過ぎて足がすくむ程の部屋の内装やブランドから出しているアメニティ、最上階から見える夜景など、全てにおいて魅力的だった。そんな場所でのバトラーと言うサービスに驚きもしたが、新しい世界感が生まれて楽しかった。
バトラーと呼ばれる方々の大半は英語が話せて格好良かった。高級ホテルで働くには当たり前の知識なのかもしれないが、私はあまり話せないので空き時間で英語の勉強をしたり、英会話スクールに通ったりしていた。ちなみに以前働いていたリゾートホテルでは外国人観光客も多かったので簡単な英会話は話せるようにスクールには通っていたのだが、バトラーとしてはまだまだ知識が足りなかった。
目まぐるしく過ぎた研修の日々、本日、最終日となりました。
「短い間でしたがお世話になりました。ありがとうございました」
「お疲れ様ね、篠宮さん」
「戻らないで本店に居てもいいのよ?」
「そうだよ、戻らないで一緒に働こうよ」
支配人が車でお迎えに来てくれて、お別れの時にはお見送りの為に手隙の皆で駐車場まで出向いて、優しい言葉をかけてくれた。
本店の方々は皆、気さくな良い方ばかりで人間関係に悩ませられる事はなく、間借りした同部屋の女性とは電話番号を交換して後日、会う約束をしている。
「お忙しい中、ありがとうございます」
支配人の車に乗り込むとお礼を伝えて、シートベルトを締める。
久しぶりの車内のふんわりとした香りに癒される。支配人にしては可愛すぎる香りだが、やっぱり好きだな。
「別に…。俺が橋渡ししたんだから、挨拶がてら来ただけだ。しかし、本店の方がお前の顔が生き生きしてたな」
「皆さんに良くして頂いて、毎日が楽しくてやりがいがありました。そう言えば、常連の鈴木様にお会いしました。御夫婦は名前を覚えていて下さり、嬉しかった。本当に素敵な御夫婦ですよね!今度はウチのホテルに会いに来て下さるそうです。それから、ルームシェアした同室の女の子と仲良くなって…」
誰とも分かち合えなかった三ヶ月の話を勢いだけで話してしまい、まだまだ話し足りないが隣の支配人顔がクスクスと笑っているので、ハッとして途中で止めた。
「よっぽど楽しかったんだな。良かったな」
"やってしまった"と口を抑える私に優しく頭をポンポンと軽く叩く。久しぶりに触れられた事に対して、頬に熱を持つ。
「明日はゆっくり休んで、明後日からは仕事に打ち込める様にしなさい」
「はい」
「聞いてるかもしれないが、星野の推薦もあり、本人の意思も尊重して中里は料飲事務所に配属が決まった」
三ヶ月間の間で状況は変化し続けていて、優月ちゃんからの電話報告に寄ると…優月ちゃんは正式に料飲事務として勤務する事になったらしく、厨房の方々並びに星野さんに親切にして頂いてるらしい。
レストランホールの方々とも段々と打ち解けてきて、良い関係が気付けそうだと言っていた。
優月ちゃんの配属先が決まり嬉しかったのだけれど、自分の事は何一つ、踏ん切りがつかないままで安心出来ない。
明後日からはまた過酷な環境に戻り、勤務する事は不安要素しかない。
心の支えだった優月ちゃんは料飲事務所にいる為、仕事中は会える機会もなかなか無い。
「俺は仕事に戻るから、またな」
寮付近まで送り届けられたが、別れが名残惜しく、支配人の袖をキュッと掴んでしまった。
恋人未満な関係は会いたいとも寂しいとも言えず、曖昧な素振りしか出来ない。
「疲れてるのに無理強いしたくないから言わなかったけど、明日は俺も公休だ。合鍵持ってるだろ?なるべく早く帰る。部屋で待ってろ」
キュッと袖を掴みながら、会えなかった寂しさから、目には涙がうっすらと浮かぶ。
支配人の優しい一言で、まだ関係は続いていたんだと確信し、涙がシートに滲む。
「また泣く…」と呆れた様に言って、支配人は右手の指で私の涙をなぞる。
「部屋に来る気があるなら、今日は先に寝ないように昼寝でもしとけ」
「……今は眠くありません」
「先に寝られたら困るから言ってるんだ。今日はきちんと泊まる用意と覚悟を決めてから来い」
「………」
「ようやく察したか?理解出来たなら、さっさと降りろ!」
不敵な笑みを浮かべたと思ったら、冷たくあしらわれ、車から無理矢理に降ろされた。荷物が入っているカートを引き、寮まで歩きながら考える。
支配人の言っている事は、つまり、…アレだ。
初めてお泊まりした時は偶然の産物だったが、疲れも重なったせいか酔いつぶれて寝てしまった。
あの時は"何もしない"と約束されたものだったから、起きていても何もなかったのだと思う。
今日は…『覚悟を決めてから来い』と言われたので、"何かをする"と宣言されたのと同じだ。
いざとなると躊躇してしまうが、はしたないけれど"何か"を期待している自分がいるのも事実。
恋人未満から恋人へと昇格出来るでしょうか?
「おかえりっ、恵里奈ちゃん!!」
少し離れた正面に位置する場所に、私を呼びながら手を振る姿が見えた───優月ちゃんだ。カートをその場に置き去りにし、優月ちゃんに駆け寄る。
「ただいまっ」
「恵里奈ちゃんが戻って来たって聞いて、星野さんがちょっとだけ抜けていいよって言ってくれたから来たの!お疲れ様!」
「優月ちゃん、会いたかったぁ!」
たった三ヶ月、されど三ヶ月…、会えなかった日々を懐かしむ様にはしゃぐ。
「優月ちゃん、配属決まったんだよね。おめでとう!」
「うん、星野さんの押しに負けて、料飲事務所にいるよ。実はね…内緒だけど…」
話を聞き進めると優月ちゃんは少しずつ、星野さんと打ち解けられ、面と向かって話しても緊張しなくなったそうで、自然に恋心を抱く様になったらしい。
「星野さんて、本当に優しくて素敵な人なの。男性恐怖症も克服出来そうだよ」
「良かったぁ、心配だったんだ。今度ゆっくりと恋バナ聞かせてね!」
優月ちゃんは過去のトラウマが原因で自分がカッコイイと思う人が苦手だったが、星野さんのおかげで克服しつつあるらしい。
上手く行くと良いな、と心から思う。
短い時間だったけれど、優月ちゃんと話が出来て元気の源をチャージした。
明後日からは、あの職場に戻るんだ。
優月ちゃんも自分の意思で動き出したんだから、私も前を向いて頑張りたい。
本店の方々は、"自分は自分"というプライドを持っている為、芯が強いからこそ、人にも優しく接してくれた。
私も後ろ向きな考えばかりではなく、自分から新しい世界に飛び込んで見ようと思う。
まだまだ未熟だけれど、バトラーの仕事やその他のヘルプの仕事を上手にこなせれば、職場の皆とも仲良くなれるかもしれない。
妬みや嫉妬、様々な苦労事が多々あるけれど…それを覆す事が出来る位に仕事が出来る女性になりたい。
願わくば、支配人の隣に居ても釣り合いのとれる女性になりたい。
そう思うのは図々しい願いかもしれないけれど、好きになってしまった以上は自分自身を向上し、支配人が後ろ指を刺されないようにするしか方法はないのだから───……
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