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本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~

桜井 響華

配属先が提案されました。【1】

翌日、私と中里さんはルームメイク(客室清掃準備)のヘルプに来ていた。先日、支配人と清掃したので粗方の事は知っていたが、細かい部分の指導を受けながら作業をしている。

「プランによっては、女性のアメニティが特別な時もあるから気をつけてね。特にアニバーサリープランと当日がお誕生日の方には入浴剤が付与されるから、チェックリストを見逃さないで」

「はいっ」
「了解しました」

ルームメイクの方々は業者委託しているが、統率者のルームキーパーの三枝さえぐささんはホテルの社員で事細かに指導をしてくれる。

私達は元気よく返事をして、黙々と作業をこなし、終了後にはルームキーパーの太鼓判を貰えた。

「支配人には二人は完璧だと伝えておくわね。しかし…二人の何が駄目なの?こんなに一生懸命に仕事をしているのに…。他の部署は貴方達二人に仕事を教えないなんて、どうなっているのかしら?」

三枝さんは物腰柔らかな女性で、私達に対して物凄く優しく接する。

支配人や私達が言った訳ではないのだが、社員達が仕事を教えてくれないので支配人の所有化にいるとの噂が広がり、三枝さんが心配して親身になって話を聞いてくれた。

「貴方達なら大丈夫よ」って笑いかけてくれる姿は女神様のようだった。

ルームメイクの作業が終了すると、女神様のような三枝さんの元を離れて遅めのお昼に向かう。

「恵里奈ちゃん、イメチェンしたんだね。元々可愛い子だなって思ってたけど、イメチェンしたら綺麗になったね」

「…ふふっ、ありがと」

支配人のお姉さん、美容室の店長に教わったメイクを何とか頑張って再現してきた。今まではメイクの仕方が間違っていたらしく、支配人の指摘通りに幼稚に見えていたようだった。

中里さんとは一緒に仕事をこなす内に"ちゃん付け"で呼び合うようになっていて、信頼関係を築けてきといると思う。

私と中里  優月なかざと  ゆなちゃんは、同い年で短大卒業と同時にホテルに就職したという境遇同士。

以前のホテルでは予約担当だったらしいが、私同様にいざこざがあり、支配人に所有されている身だ。

職場のホテルは違うが同じ境遇で過ごしてきた者同士、話が合う。

「お疲れ様!今から食事?」

従業員食堂に辿り着き、お皿におかずを盛り付けていると後方から声をかけられた。

「今日はルームメイク行って来ました。今からお昼なんです」

宴会マネージャーの星野さんが、自分の立場も気にせずに気軽に声をかけてきたのだった。

「そっかぁ、研修は大変だけど頑張って!……?そう言えば…篠宮さん、雰囲気変わったよね?」

「実は…支配人に幼稚だって言われたんです。努力しなきゃいけないな、って思います」

支配人が私自身が輝くようにしてくれたんだもの、努力を惜しまず身だしなみに時間をかけることにした。

年齢を重ねる事にもっと綺麗な女性になりたい、貴方の隣に立っても不釣り合いにならないように───……

「そっか、そっか!可愛いね、篠宮さんっ」

星野さんは笑みを浮かべ、まるで子供にするかのように私の頭を優しく撫でる。

そんな私の横で優月ちゃんが呆然と立ち尽くしていた事に気が付いたが、私よりも先に気付いたのは星野さんだった。

「中里さんも頑張ってるよね、偉い、偉い!」

同じ様に頭を撫でられると優月ちゃんは、ほんのりと頬が赤くなった。

おかずの盛り付けが終わり席に着くと、星野さんは優月ちゃんの横に座り、問いかける。

「食べながらでいいんだけどさ、ちょっと聞いてくれるかな?会ったら話そうと思っていた事があって…中里さんにオファーなんだけど料飲事務やらない?派手さはないけど、食材の原価計算とか楽しいよ?…もし良かったら考えておいてね」

「……はい、考えておきます」

「勝手な行動をすると真壁総支配人に怒られちゃうから、後程、きちんと話をして推薦しときます。それまでは聞かなかった事にしておいて」

「……はい」

終始、俯きっぱなしの優月ちゃんは緊張しているかに見える。

優月ちゃんの方向を見ながら話している星野さんだったけれど、緊張して固まっているのに気付いたのか、話を終えると前向きになり、私の方を見て話す。

お箸を持ったままで箸が進んでなかった優月ちゃんは、星野さんの視線から外れるとやっと口に食べ物を運んだ。

優月ちゃん、顔が真っ赤だ。

「篠宮さんは以前のホテルではフロントに居たんだよね?確かに接客向きだと思うよ。レストランでも大歓迎だからね、希望の部署は前向きに考えてみて」

「ありがとうございます!」

星野さんからのお誘いは勿論嬉しいのだけれども、婚礼サービスはめちゃくちゃ疲れました。

仕事スイッチが入った星野さんは人が変わったように厳しく、それでいてお客様の前では極上の笑顔でサービスをする、正にプロなのだ。

レストランサービスは嫌いではないが、配膳会の方々のレベルにも着いていけず、自分の限界が見えた気がした。

星野さんは『慣れもあるよ』と言うけれど、慣れだけではない、持って生まれた天性もあるので私には向いていないかもしれない。

いつの日か、婚礼の介添人はしてみたいとは思うけれど…。

「今夜のブッフェは小規模だから、そんなに大変じゃないと思うよ。休憩が終わり次第、会場に来て。俺は先に行くから、時間までゆっくりしてね」

星野さんは忙しいのか、食べ終わると直ぐに席を立ってしまった。食器を下げた後にバイバイと手を降る姿は、まるで少年の様に若々しかった。

「……はぁっ、緊張したぁ。私、カッコイイ男性って免疫がなくて近くに居るのが苦手なの」

星野さんが居なくなった後に優月ちゃんが漏らした本音。

緊張してたのは気付いていたけれど、そんな理由だったとは思いもよらなかった。

「私も緊張するよ。星野さん、アイドルグループに居そうだもんね。あの笑顔にキュンってくるよね」

「キュンってするけど、苦手なの!高校生の時に大学生の気になる人が出来て告白した時があって…その人、本当にカッコイイ人だったけど、性格が凄く残念な人だった。

お前なんかが俺に告白してきて恥ずかしいとか散々言われたの。それからトラウマになっちゃって、怖いの…」

「…優月ちゃん」

間違っても星野さんはそんなタイプの男性には見えないが、優月ちゃんにとっては同じカテゴリーに入ってしまうのかもしれない。

何て声をかけたら良いのか戸惑っていると、ガタンッと椅子を引く音が隣側から聞こえた。

誰だろう?と振り返ると支配人で、気が付いた時には頬杖をつきながら座っていた。

「そんな男はロクでもない奴だから、付き合わなくて正解だったな。性格が歪んでるんだから、顔も大した事はなかったんだろう。中里の目の錯覚だったと思うぞ?」

キッパリと言い切る支配人は不敵な笑みを浮かべる。

容姿端麗、聡明な貴方からすれば、大抵の男性は見劣るでしょう。その事を本人は分かっているのか、いないのかは謎だが、自信に満ち溢れているのは確か。

優月ちゃんは支配人の言葉で救われたのか、「はい、錯覚だったと思う事にします」と答えてにこやかに微笑む。

毒舌も役立つ時があるんだと関心していると、隣に座り頬杖をついている支配人の目線が気になった。明らかに私の事を見ているような視線に身体が固まる。

「ごちそうさまでした」

後から食べ始まったのに先に終わった優月ちゃんが食器を片付けようと立ち上がり、席を外すと見計らうように耳元で囁かれた。

「仕事が終わったら、一人で支配人室に来い」

誰にも気付かれない為に言い終えた後は自然の流れのように、この場を去る支配人。

私の顔が見える位置には誰も座ってなくて良かった。

不意打ちをくらい、私の顔が熱を帯びる。職場での接近行為並びにからかい行為は止めて欲しい。

いちいち反応してしまい、周囲も気にしていたら心臓が持たないもの。

「支配人は星野さんに用事があったみたいだけどすれ違いだったみたい…。いつの間にか来たからビックリしたぁ」

戻って来た優月ちゃんは、従業員食堂の出口で支配人とすれ違った時にそう言われたらしい。

そっか、星野さんに用事があったから来ただけで私はたまたま居たからついでだったのね。

「ブッフェ会場にまた顔出すって言ってたよ」

「そうなんだ?」

もしかしたら片付けのヘルプに来てくれるのかもしれない。

そう言えば今日も配膳会の方々が三人来ると星野さんが言っていたけれど、こないだの大学生には会いたくないな。支配人が注意を促してくれたけれど、根掘り葉掘り聞かれそうで怖いから…。

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