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本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~

桜井 響華

本日、総支配人に所有されました。【2】

「鈴木様、お帰りなさいませ。大変なご無礼を致しまして申し訳ありませんでした。この度はお許し頂き、誠に有難う御座います」

タクシーでお帰りになった、鈴木様御夫妻を玄関前のロータリーにて出迎える。挨拶以外は何も言わずに深々とお辞儀をするように指導され、支配人の隣に居るように命じられた。

「まぁ!出迎えまでして頂いて、こちらが恐縮しちゃうわね」

黒塗りのタクシーから降りた奥様が、支配人と私に向けてニッコリと優しく微笑む。

「それにしても、真壁支配人。いいのかい、本当にスイートを使わせてもらって?」

後からタクシーを降りた旦那様が困り顔で支配人に尋ねる。

「えぇ、私共のミスで起きた事ですので遠慮なくお使い下さいませ。こちらこそ、図々しくもスイートルームに移動して欲しいとのお願いをお聞き頂けて嬉しい限りで御座います」

「顔を上げて下さいな、真壁支配人と…。あら?この可愛い子は新人さんかしら?」

支配人は御夫妻にお許しを頂くまで頭を上げようとしなかったので、私も同様に頭を下げていた。お許しが出て頭を上げた時、奥様の視線は私に集中した。

「はい、三月から入社致しました篠宮です。宜しくお願い致します!」

「元気があって本当に可愛らしいわね、頑張ってね」

「ほう、若いのに綺麗なお辞儀が出来るとは、流石、一流ホテルですな。私は篠宮さんが一瞬で気に入りましたぞ」

中肉中背の旦那様が豪快に笑い、奥様は優しく微笑んで下さったので、私も答える様に口角を上に上げて静かに笑みを浮かべる。隣の支配人も同じ様に静かな笑みを浮かべて、私達を見守った。

鈴木様御夫妻は気品溢れる、印象のとても良い方々で好感が持てる。その後は鈴木様のお荷物をお預かりして、スイートまでお届けをして任務完了。

「まっ、まさか!鈴木様にスイートをお貸しするとは思いもしませんでした!」

またまたエレベーターの中。何も知らされずに対応させられ、一段落ついたので、ほっと一息ついたところ。

支配人がいつの間にかに外出中の鈴木様に電話連絡をし、スイートルームへの移動の確約を取り付けていたとは知らなかった。
驚きを隠せずに興奮しながら話かけてしまったが、支配人は微動だにせず返答してくれる。

「鈴木様は本店のお得意様なんだ。こちらにも興味を持って、今回は御予約頂けた。今回しくじると本店にすら宿泊しなくなる可能性も出てくる。しかし、チェックインの時間になり、部屋がないのも事実。

お客様を選ぶ訳ではないが、新規のお客様をスイートルームにご案内すると後々、面倒事になり兼ねない。ならば、信頼の置ける鈴木様に御理解頂き、移動をしてもらおうと考えた訳だ。

この事が吉と出るか、凶と出るかは…分からないけどな…」

「なるほど…。でも、私がいたホテルではよっぽどの繁忙期以外は逃がし部屋ありましたよ?こちらはないんですね?」

「いや、いつもならある。今回の件はダブルブッキングした上に、キャンセルを見込んでオーバーブックして満室にしてしまい、逃がし部屋も作らなかった。しかも、それをチェックインまで隠し通していたとは…とんだ馬鹿がやる事だな」

「そ、そうですか…」

ダブルブッキングとは同じ部屋に2つのお客様が予約してしまう事、オーバーブックはキャンセルを見越して余分に予約を入れてしまう事。

老舗高級ホテルが本店の系列ホテルがオープンしたとメディア等でも取り上げられ、予想外に予約が集中。予約した者も慣れない為に、試行錯誤してミスを侵してしまう事になった。

支配人は淡々と話し、掃除用具のある場所へと向かう。掃除用具、シーツ、タオル、アメニティなどを台車に乗せて、業務用エレベーターから客室エレベーターへと乗り換えた。

「次は鈴木様が宿泊した部屋を掃除する。ここは到着時間が遅いお客様を入れる事にした。お前は、水周りを頼む」

ピピッ、ガチャッ。

鈴木様が宿泊していた部屋にカードキーを差し込んでロック解除をしてから入り、早速、支配人はシーツを剥がし、ベッドメイクに取り掛かる。

私もお風呂、洗面所、トイレ等を掃除し、仕上げに水滴が落ちていないように拭きあげた。途中、支配人の様子が気になり、陰から覗いてみると…無表情で掃除機をひたすらかけている姿に何だか可笑しくなり、声を潜めて笑ってしまった。

細かい物を補充し、最終チェックをし終了。お風呂周りを掃除をしたせいか、汗なのか、知らぬ間に濡れたのか、ブラウスがしっとりして、額にも汗の粒がついている。

「……お疲れ様」

ボソリと言われ、タオルを投げられる。

「あ、有難う御座いますっ」

お礼を言い、投げられたタオルを受け取り、汗を拭う。今、一瞬、私の身体を上から下まで見渡された気がしたけど?

「今日はもう上がるか?疲れただろ?」

掃除用具を台車で運ぶ途中、優しく話をかけてくれた。

「…えっと、まだ大丈夫です。頑張れますっ」

「そうか…。じゃあ、少し休憩しよう。」

その後も口角をあげてフフッと笑い、流し目で私を見ながら言ったので、私は頬に火照りを感じて顔を反らした。

「………はい」

か細く、聞こえるか聞こえないかのような声で返事をして、まともに支配人の顔は見れなかった。

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