戦場の絶対正義

アカヤネ

序章 八話 突撃

突然、轟いた銃声は私邸一階の応接間にも聞こえていた。同じ階からではない。だが、響いてくる銃声は確実に建物の中から聞こえてくるものだった。
「何事だ!」
銃声が聞こえる度に、悲鳴をあげる大使の妻の傍らで、ベレー帽の小隊長が無線兵の方を向いて怒声をあげる。
「地下室の警備に当たっていた連中が襲撃されてます!敵は……っ!」
無線兵がそこまで叫んだところで、無線機を取り上げた小隊長は自分自身が直接、交信に答えた。
「S2!どうした!何があった!」
「隊長!やつら……、どこから現れたのか……。ああ……っ、くそ!ラグーが殺られた!」
銃声が聞こえる無線の向こうで、悲鳴混じりの報告をあげる部下に、「何があったんだ!状況を具体的に伝えい!」と怒鳴った小隊長だったが、無線越しにも伝わる切迫した状況では、その指示に従うことは不可能だった。
「分かりません!突然、エルマンが撃たれて……、うわっ!」
交信の途中で悲鳴をあげたのを最後に兵士の声は沈黙し、無線の向こうからは銃声と他の兵士の悲鳴が聞こえてくるのみとなった。
「おい!どうした!S2!応答せよ!」
小隊長が無線の向こうにそう叫んだ瞬間、交信は途切れた。
それが何を意味するのか分かっていた。だが分かっていても、どうしようもないことを悟り、小隊長は数秒間、沈黙するしかなかった。
しかし、沈黙こそが最大のタブーだった。数秒の沈黙の後、我に返った小隊長が無線兵に向かって、「二階のやつらを呼べ!」と叫んだ瞬間、扉の向こうで悲鳴が聞こえ、両開きドアの扉に十発ほどの弾痕が走った。
一斉に扉の方を見た兵士達は、皆それを見て、何が起こったか一瞬で理解した。小隊長が指示を下すよりも先に、一番扉に近かった兵士が両開きドアに体当たりし、廊下に出ると同時に地下室に続く階段がある方の、廊下の角に向けてAK-47を発砲したが、次の瞬間には頭と首を撃ち抜かれて即死していた。
銃声はほとんど聞こえなかった。サプレッサーを装着しているのか……。
別の兵士が続いて扉を飛び出し、同じ方向に向けてFALライフルを掃射すると、部屋の中へと再び飛び込んだ。その後を銃声のない掃射が追いかける。敵の銃撃が止んだのを確かめて、再び扉の陰から身を出した兵士がFALライフルを廊下の角に向かって掃射する。今度はもう一人別の兵士も彼の後ろにつき、FALライフルを撃って援護する体勢を取った。
目の前で起こる激戦を見せつけられた小隊長に余裕はなかった。鬼の形相で無線兵を振り返った小隊長は、先ほどまでの数倍は迫力の増した剣幕で怒鳴った。
「早く呼べ!」

階下から聞こえてくる銃声に動揺しつつも、勝手に持ち場を離れることはできずにいた二階警戒担当の三人の兵士達は、指揮所からの応援要請を聞くと同時に階下に向かおうと廊下を走ったが、階段の前まで来たところで、三階との間の踊場で待ち伏せしていたウィリアムとハワードの二丁のMC-51SD消音カービンがフルオートで放った七.六二ミリ弾の嵐に襲われ、二人が一瞬の内に死亡した。右腕と右足に銃弾を受けながらも左手に持ち変えたM16A1を撃ち返そうとしたもう一人の兵士は引き金を引くよりも前に、ウィリアムが接近しながら放ったMC-51SDの銃弾に心臓を貫かれて息絶えた。
二階に他の敵がいないことを確かめたウィリアムは後ろの部下達にハンドサインを出し、その指示に従って、ブラボー分隊の隊員達はハワードを先頭に一階へと続く階段を降りた。出来れば、二階のクリアリングも全て終わらせたいところだったが、下ではすでにアルファ分隊の隊員達が敵と戦闘を開始している。時間の余裕はなかった。
ウィリアムは一番後ろにつくリーとアーヴィングに後方を警戒するように伝えると、先頭のハワードの後ろについて、階下の敵に気づかれぬよう、物音も気配も消して階段を降りる足を踏み出した。
階段を降りきると角になっていて、階段の方向と直角になるようにして、廊下が延びていた。銃声が角を曲がった右側の方向から轟き、マズルフラッシュの閃光が壁や天井に反射して瞬いていた。
壁に張り付いて、角から静かに様子を窺ったハワードは後ろのウィリアムを振り返って、ハンドサインで状況を伝えた。
敵は二人。廊下の向こう側、距離は五メートルほど。
了解の意のうなずきを返したウィリアムは後ろを振り返り、アールにハンドサインを出した。
敵は恐らく、廊下の東側から銃撃しているアルファ分隊と交戦していると思われる。こちらには注意が向いていない。隙をついて一気に叩く算段だった。
指示を解したアールはハワードと交代して、隊列の最前列に着くと角から様子を窺った。
敵は二人。いや、一人やられた。だが、まだ他にも兵士が部屋の中にいるな……。
敵に反撃の暇を与えずに一気に殲滅する。そのためにアールはMC-51SDから、スリングで肩にかけていたH&K HK69グレネードランチャーに武器を持ち替え、中折式の銃身を開くと薬室から閃光グレネードを取りだし、代わりに近接安全装置を外した四〇ミリ破砕グレネード弾を装填した。伸縮式のワイヤーストックを伸ばし、HK69グレネードランチャーをしっかりと構えたアールは奇襲をかける瞬間に向けて、準備を整えた。


「敵はどこから来ている!」
赤ベレー帽の指揮官はベレッタM12を構えて、銃撃が行われている扉の陰まで歩み寄ると、敵に応戦する部下にすぐ後ろから怒鳴った。すでに警戒要員として、扉の前に配置していた二人を含めて、四人の部下がそこで死んでいた。
「東側です。廊下の角から撃ってきます!」
FALライフルを通路の東側の角に隠れる敵に向けて銃撃する部下は何度か小さく振り返りながら叫んだ。
「くそ……。地下から侵入する経路があったのか……。」
毒ついたものの、こうなれば侵入者を仕留めるしかない……。
逃れられない状況に小隊長は悪態を叫びながら、先程の部下の後ろからベレッタM12をフルオートで射撃したが、侵入者の腕は想像以上に高く、三人で銃撃しているのに一瞬の隙をついて反撃してくる。さきほどのFALライフルを撃っていた部下の頭部が敵の銃弾に吹き飛ばされ、その後ろから銃撃していた小隊長の顔に赤色の脳髄が飛び散った。
「グレネードだ!手榴弾使うぞ!」
同僚が死んで動揺している部下に小隊長は顔にかかった血を拭くことも忘れて叫んだ。我に返った部下がAK-47を下ろし、手榴弾を用意するのを確認した小隊長はベレッタM12のストックを脇に挟んで左手だけで撃ちながら、迷彩服につけたMk2 破片手榴弾を右手でとり、安全ピンを口でぬくと、敵が身を隠す廊下の角に向けて全力で放り投げた。一拍遅れて彼の部下も手榴弾を投げ、小隊長は投げ返されないように、弾の切れたベレッタM12から死んだ部下のFALライフルに武器を切り替えて、通路の角に向けてフルオートで撃った。
廊下の曲がり角のところに転がった二個の破片手榴弾は、二秒の沈黙の後、閃光と爆発音とともに、相次いで炸裂した。一瞬、遅れてきた爆風を扉の裏に隠れてやり過ごした小隊長と部下は爆風が行きすぎると同時に、扉から顔と銃を出して、手榴弾の爆発で壁の一部が崩れ、焦げ付いた廊下の角に狙いを定めた。撃ち返してくる気配はない。
殺ったか……?
すかさず弾切れになったベレッタM12に新たな弾倉を装填した小隊長は、
「ホセ!オスカル!後ろを頼む!」
と背後に叫んで、部屋の中に残っている二人の部下を呼び出した。彼らが自分の後ろについて、それぞれのFALライフルを西側の廊下の角に向けて構えるのを確認して、AK-47を構えた部下に続いて、東側の角へと足を踏み出したが、その瞬間、焦げ付いた廊下の角から体の最小面積だけを出したアルファ分隊の隊員が硝煙の中からMC-51SDを発砲し、AK-47を構えた革命軍兵士の頭に、七.六二ミリ弾が突き刺さった。
「敵だ!撃て!」
自身もベレッタM12を掃射しながら叫んだ小隊長の後ろで、二人の革命軍兵士も隊長と同じ方向に向けてFALを撃ち始め、西側の角を警戒する目がなくなった瞬間、その角からアール少尉が飛び出した。東側に気をとられていた兵士達の意識がアールの方に向き、小隊長も気配に気づいて振り返ろうとしたが、彼らが引き金を引く前に、アールの体は角の裏側に隠れ、代わりにHK69グレネードランチャーから放たれた四〇ミリグレネード弾が、彼らのすぐ後ろの壁に突き刺さって爆発し、爆風に撒き散らされた鉄片と衝撃波に体を引き裂かれて、小隊長と二人の革命軍兵士は四散した。

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