異世界女将 温泉お宿においでませ♪

ひさら

20

 
すみません!
何故か20話をとばして21話が投稿されてました!
順番通りに直してみましたが、直ってなかったらまたやり直します><

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「おまえらは明日、あさってくらいから仕事に出るんだろ?」 

との一言で、争奪戦はクバードが制した。
あんなに重症だったんだから少しでも休んでいろという事らしい。
私はもっと休んだ方がいいんじゃないかと思うけどね。
ちなみに骨折の彼は歩けないから御者もムリだ。
 
クバードも、足のケガがもう少し治るまで仕事ができないけど、蓄えもあるし焦らず治すとの事。
貸し馬車屋さんまでの道すがら、そんな事を話しながら歩く。

話しをしながら、私は隣を歩くクバードが昨日からずっと気になっていた。
 
「クバード、何でそんな身体に合ってない杖を使っているの?何で松葉杖を使わないの?」
「まつばづえ? 何の事だ?」
 
え?松葉杖ないの? 
・・・そういえば病院がなかったっけ。
この国の医療関係ってどうなってんの?色々ないの?マジで?ほんとに?! 
何それ!怖っ!改めて考えるとめちゃくちゃ怖いわ!!
 
私は青ざめながら松葉杖を説明する。
 
「私の国の(いや、世界的にだけどややこしくなるから省略)足のケガをした人が使う杖なんだけど・・・」
 
詳しく話すと、クバードはしきりに感心していた。やっぱり身体に合ってない杖は不便らしい。
それじゃあ試しに木工師さんに作ってもらえばいいじゃないと提案する。ちょうどこれから行くんだしさ。
 
貸し馬車屋さんではクバードがすんなり手続きをしてくれて、御者台にはクバードが、荷台には私たちが乗った。
初めての馬車に子供たちは大はしゃぎだ。小春さんははしゃげなかったけどね!
ゴムのタイヤでもなくクッションの利いたシートもない。
木のタイヤに木の荷台、ひ弱な日本人女性にはダイレクトな振動が厳しいよ!
 
それ程乗っていなかったけど、木工師さんのお店に着いたときは心からホッとした。
家までの帰り道は、狭かろうが御者台に乗せてもらおう!
少しはマシな筈だ。たぶん。
 
 
 
「こんにちは~!お願いしていた椅子と桶を受け取りにきました」
「は~い。ちゃんとできてますよ」
 
おかみさんがニコニコと招き入れてくれた。
親方も出来上がった品を前に言う。
 
「要望通りに仕上げといた。確認してくれ」
 
確認も何も、すっかり同じものがきちんと十個ずつ並んでいる!
ちょっと壮観だった。
 
「ありがとうございます!とってもいい感じです!」
 
子供たちがひとつひとつ座って自分の物を決めているし。
君たち、それ違いが判るの?
 
それから親方に、絵を描きながら松葉杖を説明する。
 
「こういう物がほしいんですが、作れますか?」
 
親方はう~んと唸って、本当はこういった物は細工師の仕事になるんだが、今回大量に注文してくれたから特別に作ってみようと言ってくれた。単に初めて見る物に興味もあるらしい。
それでクバードの脇から下の長さを計ったり、だいたいの金額も言っていた。
 
「それでいい。じゃあ頼む」
「明日中には作っておくから、明日の夕方か、明後日にでも取りに来い」
 
男同士の会話は簡潔だな。
後は支払いを済ませて、椅子と桶を荷台に乗せる。職人さんたちも手伝ってくれたよ。
 
「ありがとうございました。またどうぞ」
「こちらこそ!またよろしくお願いします!」
 
おかみさんの声に見送られて、馬車が動き出した。

思っていた通り御者台は狭かった。
クバードが大きいからね!
でも荷台よりはいくぶんかマシだと思われる。
 
「松葉杖で少しは楽になるといいね」
「あぁ、出来上がりが楽しみだ」
 
そんな事を話していたら、すぐに家に着いた。歩くと二十分以上かかる道のりが、馬車なら半分以下だ。
家のドアのすぐ前に馬車を止めたクバードは、当たり前のように荷卸しを手伝おうとした。
 
「何してんの!ケガ人なんだからいいって!」
「いや、大丈夫だ。こんなにたくさん大変だろう。どれも軽いものばかりだから負担はない」
「いいから、ダメダメ!!ちょっとだけ待ってて!」
 
とりあえず家の中に運び入れて、後から洗い場に持っていこう。
入浴時に各自で持って行ってもいいしね。
 
・・・ん? 温泉・・・。
 
ちょっと思いついた事があって、子供たちに話してみた。
子供たちはいいよ~!と了承してくれた。ついでにエラムにもう一言。
 
 
 
「クバードありがとう。ケガ人なのにごめんね」
「こんなの大した事ない。こっちこそありがとな」
「いや、昨日から全然腫れは引いてないし、大した事だと思うよ。
でね、もしよかったらだけど・・・、足湯してみない?」
「あしゆ?」
 
ここには温泉がないんだから、もちろん足湯もないだろう。そして湯治なんて概念もないと思われる。
でもさ、温泉でケガや病気を癒すって古い時代から考えられたし、実際癒してきた訳じゃない?まぁ元の世界でだけど。
ファンタジーな世界の人々がどうだかわからないけど、試してみる価値はあると思うんだ。
 
ここはみんなの家だから、私が勝手に決められない。
上の子たち四人には聞けないけど、代表して?下の子たちに聞いてみた。

「クバードを温泉に入れていい?」
「いいよ~!」 

ありがとう! 本当にうちの子たちは優しいいい子だ!!
 
この家の敷地内に入れたって事で、クバードに悪心はないって証明されてるしね!
一応保護者としてそういう事はちゃんと考えているのだよ。当たり前だけど!
 
「私の国では、薬湯に(温泉というよりわかりやすいでしょ?)入ってケガや病気を癒すのよ。たまたまこのうちの裏にその薬湯が湧いててね」
「足をその薬湯につけるって事か?」
「察しがいいね! 私たちはどこも悪くないけど、沐浴代わりに毎日入ってるから安全は保障できるよ!」
「いや、疑ったりしない。あんなに助けてくれたのに」
 
クバードはちょっと考えていたけど、身体が資本の冒険者さんだからケガは早く治る方がいいに決まってる。
 
「俺まで世話になってすまないな」
 
と、足湯を試してみる事になった。
 
 
 
温泉に連れてきて、入浴の作法を教える。
 
「まずは足の汚れを落とすよ」
 
いくら源泉かけ流しとはいっても、汚れたままの足をそのままお湯に入れられたらたまらない!
エラムにシャンプー類を女湯に持って行ってもらってるから石鹸は使えないけど、プラスチックボトルを見せる訳にいかないしね。
出来たばかりの椅子に座らせて、ズボンの裾をめくったら、かけ湯をしながら丹念に足を清める。
 
「コハル、何をする!そんな事は自分でする!」
「だってクバード、ちゃんと洗える?」
 
クバードが慌てて言うけど、譲れないわ。
頭から水をかぶるだけという男衆に、口で説明しただけで繊細に洗えるとは思えない。
クバードは赤くなって固まってしまったけどかまわず進める。

腫れ上がっている足は間近に見るとさらに痛々しい。
痛くないように優しく丁寧に、まぁ許せるくらいには汚れを落とせた。
 
「それじゃあお湯に入れていいよ」
 
クバードは椅子に座ったまま足を温泉に入れた。
露天風呂だし、元々の温度もあまり高くない。日も傾いてきて気温も下がってきたし、林を渡る風は涼しいからのぼせる事はないだろう。
 
「コハルさん、麦茶持って来た」
「おぉ!シリンありがと~! 火の用意だけしてて」
「うん!」
 
ユーリンが麦茶を二つ持ってきてくれた。
なんて気がきく子なんでしょ!
 
クバードと二人で麦茶を飲む。
特に話はない。鳥の声を聞き、渡る風に耳を澄ませて静かに過ごす。
身体を癒すんだもんね。こういう過ごし方があってると思う。
 
しばらくして温泉から足を上げたクバードと、私も声を上げたから静かとは程遠くなったけどね!

恐ろしく青黒かった色は一段階ほど薄くなっていたし、腫れ上がっていた足も一回りくらい小さくなっているように思える。

目に見える成果に二人で喜び合った!痛みも若干引いたようだって!

やったね!温泉効果! 
やったね!温泉様々だ!



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