パラサイト・ワールド 寄生される世界

MK マッチー

最終話 脱出




17:55

ヘリが着陸し三人は急いで乗り込む。コックピットの助手席から三木大佐が顔を出す。

三木:
「三人とも、無事で何よりだ」

宮部:
「ええ、お陰で助かりました。………でも大佐、他の隊員達はどうしたんです?もっといましたよね?」

三木:
「……彼らは、彼らの職務を全うして殉じたよ」

その言葉で察した。これ以上の言葉は不要で、大佐には慰めにもならなければ、隊員達の供養にもならない。

パイロット:「全員乗ったな?では離陸する!」

機体が持ち上がり地面が遠ざかっていく。
重苦しい空気が機内を支配し、気まずい雰囲気が流れ続けるかと思われたが、落合がその空気をぶち壊した。

落合:
「……ところで、脱出した後病院的な所行きたいんだけど……。ワクチン打ってても傷が痛くて痛くて、そろそろ限界」

三木:
「安心したまえ。軍用の医療所が設けてある、そこで治療しよう」

山田:
「…………。」

宮部:
「よかったぁ~。これで本当に終わったんですね……。太郎さん、私達助かったんですね」

山田:
「……そのようです、本当に良かったですね。ところで大佐、ちょっと聞きたい事が……」

?:「グギャァァアアアーーー!!!」

落合:
「な、何だ?!」

山田:
「まさか!!」

全員で窓の外を覗き込む。倒れた筈の黒田が再び立っていた。
顔の右半分の抉られた部分から、ウジャウジャと無数のベビー・ノーミンが蠢き、犇めき合っていた。その隙間からは時折、赤黒い触手が出現している。

パイロット:「クソ!まだ生きていたのかあの化け物。即刻ここから離脱する!」

山田:
「待ってください!アレをこのままにはしておけません。逃がしてくれるとも到底思えない」

宮部:
「それにそのままだと町の外へ、逃げてしまう可能性だってあります。ここで倒しましょう!」

落合:
「え?嘘?マジで?満身創痍なのに戦うの?老体に鞭打ちとかまさにこの事だよ!!」

三木:
「……仕方ない。ではその固定銃座を使いたまえ。今度こそ止めを刺せ」

落合:
「うっひょひょ~!!M134のガトリング銃~!!生でお目にかかれるとは思いもしなかったーー! 生生生、生が一番!!!」

山田:
「……現金な奴」

宮部:
「太郎さん、倒しましょう。あの人を……」

山田:
「雅さん……。ええ!終止符を打ちましょう。あの人に!」

2人で肩を並べ、ガトリング銃を黒田に向ける。

・KS社上空



一緒に引き金を引き、雨霰の銃弾を黒田に降らせる。
人なら即ミンチになる筈だった。
しかし人を捨て、人を超え、人を超越した者。肉片と血しぶき、ベビー・ノーミンを散らしながら尚、倒れず立ち続けている。



ノーミン完全体:「グウォォオオオ!!」



吼えた直後跳躍した。ヘリを飛び越え隣りのB棟の、屋上へと着地しヘリを見据える。



三木:

「跳んだ!! ……何てジャンプ力だ」


山田:

「追いかけて!」


パイロット:「何が悲しくて大の大人が、春休みに化け物と、おいかけっこをしなきゃいけないんだ!」



ヘリは急旋回をし再び黒田に銃口を向ける。しかし向けたより早く、黒田から吐き出された寄生虫弾が、ヘリの側面に当たり大きく揺れた。



宮部:

「きゃあ!」


山田:

「う!くっ!」


落合:

「痛い!痛い痛い! この揺れ傷に響く!!」


三木:

「空の上で地震に合うとは、思いもしなかった……」


パイロット:「おい!あの変な弾の処理も頼む。当たり続けたらヘリが保たない!!」



宮部が飛んで来る寄生虫弾を、銃弾で相殺し、山田は黒田本体を蜂の巣にする。
度重なるダメージにより黒田が片膝を付いた。
B棟の屋上がボロボロになってきた頃、再び黒田が跳躍、ヘリを飛び越えC棟の屋上に着地する。



山田:

「追って!」


パイロット:「一般人なのに人使いの荒さ、半端無いな!!」



ヘリが大きく旋回し、3度ガトリング銃の銃口を黒田に向ける。黒田が高速で寄生虫弾を、吐き飛ばして来た。宮部が何弾か処理するも、数弾ヘリの側面に当たり、ヘリが大きく揺れる。
それでも山田は攻撃の手を緩める事をせず、黒田を蜂の巣にし続ける。そうしてやっと黒田が両膝を付き、頭(こうべ)を垂れた。


これを勝機と見た落合が、積んであったロケットランチャーを担いで、黒田に狙いを定めた。



三木:

「おい、勝手に使うな!」


落合:

「汚物は消毒だぁぁあーー!!」



引き金を引きロケット弾が、真っすぐ黒田に飛んでいく。黒田に着弾し霧散するかと思われた。

黒田は顔を上げたかと思えば、跳躍した。すれ違い様にロケット弾が黒田がいた場所に着弾し、
C棟の屋上が木っ端みじんになる。


そして黒田はヘリに体当たりを食らわし、ヘリを激しく揺さぶった。
三人は衝撃で後方へと投げ出される形となり、スライドドアにぶつかった。



ノーミン完全体:「グギャァァアア!!」



黒田はキャビンスライドドアに、鉤爪をこじり付け体勢を保った。
大きなノミの足で、ガトリング銃を破壊していく。

山田達は絶望の眼差しを向け、諦めの言葉を口にした。



宮部:

「そんな……。私達は、ここまでなの………?」


落合:

「ぎゃああーー!!僕達は死ぬんだー!ここで死ぬんだーー!!」


パイロット:「死なせるかよぉ!!」



パイロットは操縦桿を渾身の力で捻り、ヘリを高速で回転し始めた。
遠心力で壁の隅に山田達が追いやられる。



三木:

「機内は満員のため、お下りください!」



コルトパイソンを懐から出し、黒田に連射した。
黒田は限界が来たのか、力尽きた様な形でぶら下がり始めた。山田はその隙を見逃さなかった。



山田:

「憧れを超える!! うぉおおおーーーー!!」



僅かに残った人間の左側の頬を、ストレートパンチを食らわす。
遠心力も手伝ってか、黒田が弾き飛ばされ中央研究所の屋上に落下していった。



パイロット:「時間が限界だ、ここから離れるぞ!」



そう言ってヘリは体勢を整え、KS社から離れていく。
離れた直後、KS社の地下から爆発が起きた。予告された自爆が始まったのだろう。

地下区画は広かったようでKS社の周りの、道路が爆破し事故車両を巻き込んでいく。

そして一階で爆発が起き、連鎖爆発が上階に上る。
C棟とB棟の建物が崩れ始め、中央研究所に寄りかかる形で激突する。そして中央研究所の屋上が爆発し、黒田が炎に包まれた。



ノーミン完全体:「グォォオオーーー!!!」

黒田の断末魔が爆煙に轟いた。


18:00



ミサイルがヘリの横を素通りした。
三人はミサイルを目で追った。



炎に包まれ体が溶け始めた黒田は、天を仰いだ。
雷雨が止み分厚い曇天の隙間から、妖しい月光を放ちながら月が顔を出す。



黒田?:
「…………ワ……ガ、子タチ、ニ……栄光ヲ…………。 …………我ガ子ニ、永遠ノ………繁栄アレェェエエエエーーーーー!!!」



ドロドロに溶けていく右手の鉤爪を、月に伸ばした。

ミサイルが遮った。


三木:
「目を瞑って何かに掴まれ!!」

昼のように明るくなった。直後ヘリを揺らす程の衝撃波が襲う。ヘリが墜落するのを覚悟したが、それは杞憂に終わる。激しい揺れが収まったのを、確認して振り返る。
狩矢崎市は大きなキノコ雲に、成り果てていた。三人はへたり込んだ。

三木:
「……こちらウォーカー、どうした? …………任務を放棄して君も脱出しろ。通信を終える」

無線で誰かとやり取りをしている三木を、ぼーっと見ていた山田の隣りに宮部が座る。

宮部:
「……終わったんですね、全部………」

山田:
「……ええ、終わったんです。……全部」

何気なしに宮部が見つめてると、感じた山田は宮部を見つめる。
2人にそう言う空気が流れ始めた矢先、落合が話を振った。

落合:
「……いや~一時はどうなるかと思いましたが、案外どうにかなりましたね~」

山田:
「そうですね。がむしゃらに生きた。………必死に生きようとしたのは、人生を振り返っても多分今日ぐらいでしょう」

宮部:
「何かに必死になるっていうのは、改めて素敵だなって思い知らされました」

落合:
「確かに素晴らしいと思いますけど、気付き方というか、その過程がどうかしてると思うんですよね…」

山田:
「確かに」

三人で吹き出し、一斉に笑う。

宮部:
「……あの、太郎さん。これからどうするんですか? 住む場所ごと故郷が無くなって、何もかも失いました。これからどうします?」

山田:
「どうしましょうか。 今のところ何も考えられないので、取りあえずは治療ですね。その後風呂入って、寝て、明日起きるのが目標です」

落合:
「普通ですね~。まぁ普通が一番か……」

山田:
「そして一緒に生きましょう」

宮部:
「えっ………」

真っすぐ宮部の目を見据える山田。宮部はただただ赤面する。しかし落合が話に入る。

落合:
「その『一緒に』って僕も入ってますよね?」

山田:
「…え?ええ、まぁそうですね」

宮部は少し不機嫌な顔で落合を睨む。落合はわざとらしい口笛を吹く。
怒った宮部に体を揺らされ、傷みに悲鳴を上げる落合。
2人のやり取りを微笑みながら見た後、山田は窓の外を頬杖を付き眺めた。

「生きてるって、幸せだな」

ヘリは山々と空の地平線を飛んでいく。どこまでも自由に。 

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