超異世界ラブコメ(強) 悪役女帝の恋愛勝利めし!

チョーカー

悪役女帝と剣奴とアイスクリーム ②

「どうしてこうなったのでしょうか?」

 近い将来、この言葉が口癖になりそうな予感と共に頭を抱えていたエルマだった。

 「おぉ! この湯! 疲労回復に効果があるのか!」とユリア。

 「こら、浴槽に飛び込んではいけません」とエイル。

 「みなさん、おいて行かないでくださいよ」とリンリン。

 その、たわわに実った果実の如く胸部に自身のコンプレックスを刺激され、落ち込むエルマだった。

 (でも、リンリンさんを見ていたら癒されますね!)

 「? なんだか妹さんの視線から妙に強い仲間意識を感じられるのは気のせいでしょうか?」

 「何を1人で言ってるのリンリン? そうそう、妹ちゃん! どう帝国の大浴場は!」

 「は、はい! 凄いですね」とエルマだったが……

 (この人……帝国のエイル女帝ですよね? 先ほどまで、どうしてエプロンを?)

 彼女は気づいてしまった。 エイルの……いや、帝国の根源を揺るがしかねない秘密に!

 もしも、帝国の女帝が戦争で自ら捕虜にした男を奴隷に堕とし、性的な目で見ていたらどうなるか?

 確かに、この時代では、そういう目的で美男美女を奴隷として落札する富豪もいる。

 だが、それは、この国の倫理感に照らし合わせても、決して褒められた事ではない。

 スキャンダルに飢えてる帝国民。剣奴と女帝の恋愛物語が明らかになれば、のちに1000年は演劇の種目に付け加える事になってしまうのだ。

(きっと、そうに違ない! 彼女は兄さんに惚れてしまったのです。でも、それは許されない愛! でも諦めずに兄さんの気を引くために食事で誘惑を!)

 ほぼ、100点。 正確な回答を出したエルマだった。

 しかし、一方のエイルは――――

 (妹ちゃん、じっと私の顔を見てどうしたのかしら? でも、こうやってみるとアルスに似て、心臓の鼓動がドキドキって高ってくる)

 (くっ! こんなにも美人で胸も大きくて……そ、そのうえ、兄さんのご、ご主人様……ふ、不潔です! やはり、兄さんを国に連れて帰ら、かえかえ、買えあ……あれ? あたまがぐるぐるまわって……)

 「だ、大丈夫? 顔が真っ赤よ? のぼせてない?」

 「ら、らいじょぶでしゅ……」

 そのままバタンと前のめりに倒れたエルマ。

 ・・・
 
 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 「あれ? 私は?」

 エルマが目を開けると、その顔を覗き込むようにエイルがいた。

 「大丈夫? 妹ちゃん、湯に入りすぎて倒れちゃったのよ?」

 「す、すいません! 大浴場に慣れていないので」

 そこで自分が更衣室の長椅子に寝かされている事に気付く。

 着ている服も肌触りが良く涼しげ……上等な物だ。

 それから……

「はいこれ!」とエイルから差し出された不思議な物体。

 半透明の陶器に乗せられた白い固体。 よく見ると、薄っすらと湯気のような物が立ち上っているのが見える。

 「えっと、これは?」

 「アイスクリームよ」と言ってエイルはエルマの耳元に口を近づけた。

 「本当は秘密だけど、これは異世界の食べ物なのよ」

 「い、異世界!?」

 「こら、声が大きいわよ!」

 「す、すいません」と謝りながらも

 (異世界ってからかわれたのかしら?)

 そう思いながら、スプーンを手にしてアイスクリームを口へ運ぶ。

 「これは!?」と驚愕した。

 見た目からミルクと砂糖を使用した甘味の部類だとは予想できていたのだが、

 その濃厚な牛乳からクリーミーな味わい生まれ、ふんわりと柔らかい口溶け。

 爽やかな冷たさと甘さが広がり、体から力が抜けていくような優しい味。

 「ん~ 美味しい!」と両足をバタバタと動かし、悶えるように絶賛するエルマ。

 「凄いです。体の内側に甘みが広がっていくような感覚……なんだか、私は生きてるんだって」

 「あら? お兄さんと同じような事を言うのね」

 「兄さんも同じことを……」

 エルマは、勢いよく立ち上がると衣服を整え始める。

 何が起きるのか? と驚き眺めていたエイルに対して

「あなた方の恋愛が、どれほど困難か……私には想像も難しいです。でも、必ず、必ず兄さんを幸せにしてやってください!」

 「え? ええぇぇぇ!? わ、私がアルスくんを!? は、はい! 必ず幸せにしてみせます!」

 互いに手と手を取り合う少女が二入。 離れた場所で、それを見ていたリンリンとユリアは

「エイルさまは、何をしているのでしょうか?」

「さぁ? 私の耳じゃ、本人のいない所でプロポーズが成立したような会話に聞こえたけどね」

さて――――

一方、アルスは、そんな事が起きているとは知らず

1人で果汁がたっぷり入った牛乳を購入すると、一気に飲みほしたのだった。  

   

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