超異世界ラブコメ(強) 悪役女帝の恋愛勝利めし!

チョーカー

 悪役女帝と剣奴とカレーライス①

 ここは食堂の調理室。

 いるのは白いエプロンに身に着け、腰まで伸ばした金髪を後ろにまとめた少女が1人。

 彼女は「フ~フフン~」と陽気な鼻歌。

 少女はご機嫌な様子で鍋をかき混ぜている。

 「でも、弱火でじっくりコトコト飽きるまでってこれでいいのかしら?」

 急に不安になった少女は、調理室の奥に視線を移す。

 「食堂のおばちゃんに確認を……いや、だめだめ。1人で作るって何度も練習したのだから!」

 そう考え直し、鍋に視線を戻しながらも少女は疑問が浮かんだ。

 (不思議ね。調理室の奥に部屋なんてなかったはずなのに。少なくとも――――

 私が闘技場の設計図を書いた時には、部屋なんか用意してなかったわ)

 しかし、彼女の思考をかき消すように、ドタバタと音をまき散らしながら乱入してくる者がいた。

 「騒がしいぞ、リンリン。常日頃から淑女として慎ましみを持てと……」
 
 リンリンと呼ばれた小柄な少女は黒髪と片目を隠した眼帯が特徴的だった。

 彼女は、「も、申し訳ありません。しかし、そろそろ時間であります!」と小柄な体を大きく伸ばして敬礼をした。

 「むむむ……もうそんな時間か」と天井を見上げ、耳を澄ます。

 聞こえてくるのは

 「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」

 と殺伐とした合唱だった。

 後ろでまとめた金髪を解き、白いエプロンを外す。
 
「うん、実にいい。愛すべき我が国民は今日も活気に溢れているな。我が軍師リンリンよ」

「全ては、貴方様の御心のままに。エイル陛下」

 金髪の少女の名前はエイル。 長身と強い意思を秘めた眼。

 そんな彼女は、帝国を支配する女王陛下である。
 
 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

   ここは剣と魔法の世界。

 そこはかとなく中世ヨーロッパのような雰囲気を醸し出して……いや、ちがうか?

 その世界よりも、もう少しばかり前だ。 現世で言うところの古代ローマに近しい。

 いやはや、話を戻そうではないか。

 ――――とにかく、ここは剣と魔法の世界に間違いはない。
 
 魔獣と呼ばれる怪物たちは我が物顔で跋扈し、魔族と呼ばれる狂暴な亜人の軍勢は、虎視眈々と世界を狙っている。

 そんな危険が蔓延る世界に我らが帝国は、絶対的巨大防御都市を建設。

 高い壁と練度の高い兵士によって魔族の軍勢すらも弾き返す。
  
 その結果、帝国は栄華を極めるのでございます!

 都市内部では大きな劇場や銭湯など市民を楽しませる設備が充実。

 そんな中、市民に最も人気がある施設は無論、闘技場だ。

 「殺せ!殺せ!」と施設応援団団長の音頭にのって物騒な声援。

 それに乗って2人の若者が姿を現す。

 1人は東洋の剣士 侍。

 武具をつけず、既に長い日本刀を抜き身で持っている。

「さて、今宵の銘刀 飛燕の切れ味を一味違うでござる」
 
 対するもう1人は――――

「今宵って、今は昼だけどな」

「ほう……流石でござるな。若き闘技場の王者 アルス殿は殺し合いを前に余裕がある様子」

「殺し合いって、真剣で斬り合うだけだろ? 闘技場の死亡率なんて、1回の興行に1人くらいだぞ」

「はっはっは……それは失礼つかまつる。拙者の剣は必殺にて無敵にて―――」

「そうかい? 御託はいいから切り結ぼうぜ」

 バチバチと異音が聞こえてるような睨み合い。

 それを遮るような声が闘技場に轟いた。
  
『これは凄まじい視殺戦です! ……おっと、私は試合の実況解説を担当させていただきます、ご存じミスターストーカー! この放送は闘技場内に魔法で拡散させていただいています。さて……注目の試合はこの後すぐ!』

「ふっ……」と笑ったのはアルスと侍のどちらが先か?

 両者は、ゆっくりと離れ、距離を保つと――――

『それでは、試合開始でございます!』

それが合図になって互いに構える。

(……なるほど。事前情報通り、剣が消えて見えるか)

侍の構え。刀を腰の位置にして、剣先を相手に向けている。

鏡のように磨かれた刀身が光を反射して、ひどく見えずらい。

「まずは、拙者の剣技の煌めきを見るでござる」

 侍は踏み込む。……と同時に下に向けた刀を跳ね上げた。

「――――我が剣技を避けるでござるか」

「紙一重だったぜ。そのまま、アンタが刀を振り切ってたらカウンターの刺突を放てたんだがな」

 口ではそう言いながらも両者は

 ((面白い!))

 と心では絶賛し合う。

 続いて動いたのは侍だった。

 さきほど、振り切れなかった刀。それをそのまま、アルスに押し当てるようとタックルににた動きを見せる。

 (日本刀の切れ味ならば、振り回さずとも押し当てて引けば斬れるでござるよ!)

 「奇襲攻撃!? だが――――」と金属音が鳴り響く。

 アルスは後ろへ飛びながらも手にしたグラディウス(刃渡り50センチ。柄をいれて70センチほどの剣)で日本刀受けたのだ。

 「これも、鍔迫り合いになるのでござろうか?」

 「ん……?」

 両者、押し合いになる。

 小柄なのは侍の方だが、アルスも帝国の中では小柄な方になる。体格的な差は大きくない。

 膂力の差は若干であるアルスが勝る。 胸前まで押し当てられそうになるまでになった刃は押し返られて――――

 「だが、ここで柔の技を使わせていただくでござるよ!」

 「なっ―――!?」と驚きの声を上げるアルス。

 (左右に揺さぶりを仕掛けてきたと思った次の瞬間にバランスが!?)

 「ぐっあっ!?」と浮遊感を感じた直後に地面に叩きつけられ呻き声が漏れる。

 「勝機! チェストぉぉぉぉ……でござる!」

 裂帛の気合と共に白刃がアルスの首を狙い振り落とされた。

 受けるアルス。 互いの武器が悲鳴の如き軋みを上げる。

 その時、侍の表情に不快感のようなものが浮かんでいたのをマルスは見逃さなかった。

 そして――――「この!」と下から蹴りを叩きこみ、侍を蹴り剥がす。

 (くっ……拙者を浮かすほどの蹴り。 なんと、出鱈目な膂力でござるか)

 侍は立ち上がろうとするも、ガクッとヒザから力が抜けるような感覚に襲われる。

 (内臓に受けた衝撃が下半身まで……いかん、狙われるでござる!)

 だが、アルスは襲ってこない。 立ち上がっているのを待っているかのようですらあった。

 「……なぜ、攻めてこないでござるか? 手心ならば……」

 「いや、もう勝ち方がわかったから」

 「……? 何を――――」

 何を言ってるでござるか? と言う余裕すらなかった。

 アルスの猛攻。

 「その日本刀とやらでグラディウスの繰り出す連撃を捌け続けるか?」

 「――――っ!? (短い分、手数が多い!……でござる)」

 「気がついているかい? ご自慢の日本刀がとんでもない事になっているぜ?」

 「なにを……」と言う途中で侍も愛刀の異変に気付いた。

 「は、刃こぼれが!?」

 「アンタの武器の特徴は、間合いの読みづらさと異常な切れ味ってところか。その反面、刀身は強い衝撃に耐えれず、刃こぼれしやすい。避けてからのカウンターが基本戦術だろ?」

 「まさか2、3合、刃を交えただけで、そこまで見抜いたのでござるか?」

 戦慄。 全身の毛穴から汗が噴き出す。

 「流れ着いたは異国の闘技場。童の面影を残した王者がいると聞いて訝しがてはいたのでござるが……本物でござったか!」

 それは歓喜。 強者に会えた事で発せられた歓喜の声だった。

「うおおおおぉぉぉぉでござる!」と振り上げた日本刀。それをアルスは――――

「斬鉄」

最速の一撃によって、切断せしめた。

「……己の命と見立てたはずの日本刀が折れてしまえば、もう戦え道理はござらぬ。拙者の負けでござるよ」 

 侍は負けを認めた。それと同時に闘技場の観客数万人が一斉に立ち上がり、絶賛の嵐を巻き起こす。

『決着! 闘技場の若き王者 アルス。東洋の神秘 侍との一戦。 武器破壊というこれ以上にない。決着でございます!』

 上空からは、実況兼解説の声が轟いた。――――しかし、闘技場の戦いはこれで終わらない。

勝敗が決した後の儀式的行為が始まる。

観客たちは各々、親指を上に立てると下へ向けた。

『地獄に落ちろ』……という意味ではない。 

 親指を下に向けると生存が許される。

 逆に親指を上に向けると――――死刑だ。

 闘技者の生殺与奪権を持っているのは勝者では観客たちだ。

 しかし、何事にも例外というものがある。 

 観客たちの視線は、特別席に座る女性に注がれた。

 それは、皇帝陛下――――エイル女帝だった。

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