境界の教会/キョウカイ×キョウカイ

宇佐見きゅう

おつかい完了

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 美玲は廊下を逆戻りして倉庫のドアの前に立った。中から微かに話し声が聞こえる。
 ドアが内側に開いて、木箱を抱えた阿誰が出てきた。


「あら、美玲。どうしたの?」
「皆がこっちにいるって聞いたんだけど、鳳子たち何してるの?」
「ええ、私たちも鬼無さんにせっつかれて証拠探しをね」


 阿誰は両手で抱えていた木箱を足元の床に置いた。


「物が多いから、まずは整頓から」
「そうなんだ。鬼無さん、いる?」
「呼んであげるわ」


 倉庫内に振り返った。


「鬼無さん、美玲よ」
「あぁ? 何だ」


 ぶっきらぼうな声が返ってきて、すぐに鬼無が顔を見せた。彼女は帽子と上着を脱いで、ワイシャツ姿になっていた。ただしサスペンダーホルスターは装着したままで、左脇には拳銃のグリップが見えた。
 美玲は倉庫の中を覗いてみた。資料室の半分ほどの面積に、様々な物品が雑多に詰まれていた。奥で棚田とメイドの一之瀬が盗人のごとく物色している。
 鬼無が言った。


「どうした阿呆娘。何か発見したか?」
「タルボットさんが呼んでるよ。何の用かは知らないけど」
「あっそ」


 鬼無は廊下に出て、数歩先の向かいにある資料室に入っていく。
 美玲たちもそれに従うが、ドアの前で立ち止まる。
 資料室の中の惨状を目撃した阿誰が口を歪めた。


「凄いことになってるわね、こっち」
「まあね」美玲は胸を張る。
「何でちょっと偉そうなのよ」


 鬼無は本の山脈を乱暴に切り崩して押し入っていく。


「おっさん、何の用だ? っつか、自分で呼びに来いよ」


 鬼無が呼びかけると、奥から渋い声が返ってきた。


「正論だが、少し手が離せなくてね」


 本の山で囲まれた中央から、タルボットがゆっくりと姿を見せた。どうやら床に腰を下ろして読書していたようだ。


「ふう、流石に首に来るね」
「何か発見したのか?」


 鬼無が腕を組んで、空っぽの本棚に寄りかかった。入り口に立っているこちらを向いて、手を下から振った。


「美玲、てめえはちっと休んでこい。ずっと手伝ってて疲れただろ」
「へ? どうしたの鬼無さん。急に優しくなっちゃって。似合わないよ」
「うるせえ。作業効率の問題だ。ぼーっとしたまま手伝われても邪魔なんだよ」
「うっわひどい。せっかく手伝ってあげてんのに!」
「う・る・せ・え。いいから、邪魔だおらっ」


 鬼無は、ずかずかとドアに近付いてきて、乱暴に閉めた。
 むかっと来たのでドアを睨みつけた。大人しいと思ったら大間違いだぞと言い返してやりたかったが、横から阿誰に宥められて、資料室の前から移動した。


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