タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第八十二幕《台無》

 第八十二幕《台無》             七月十四日 二十時三十九分




「はい終了ー! 難しいのおしまーい。ミステリとか疲れるだけだわー」


「え? ここで終わり? 解決編は? やらないの? これからキナちゃんが快刀乱麻を断つ活躍を見せて、事件を解決するストーリーじゃないの?」


「いやあ、ぶっちゃけあの空気を維持し続けるの無理だわー。嫌いだわー、ああいう緊張が漂うギスギスした感じ。三十分でリタイアしちゃいました。ミステリのトリックを考えたのはいいものの、いざやってみるとチープなトリックだと思えてきたし」


「あっそう……。相変わらず飽きっぽいというか気分屋さんだね、まったく。謎を提起しておいて、あとは投げっぱなしじゃ作家の信用に関わるよ」


「作家じゃないから別にいいもーん。お父さんはキナちゃんの名推理で容疑を晴らし、無事家路に着けたのでした。めでたしめでたし。これでいいもん」


「ふと思ったけど、極端なテコ入れをし始めたら、ああ、もうこの漫画は終わりだなって感じるよね。急な路線変更で滑って失敗して、そのままズルズルと、っと」


「……ギクッ!」


「自分でギクって言ってる……。まあ、君が始めた遊びだから、君の好きに終わらせていいけどね。それで、テコ入れの方は? そっちも満足したかい? それとも別の方向性にして続けてみる? どんな風にしても最後はさっきみたいになると思うけど」


「ぐぬぬ。見透かしてやがるぜこの親父。この俺様を子供扱いするとは……」


「子供だろう君は。態度も年齢も。あと立場的にも」


「でもね、子供は成長するものだよ。そして失敗からすぐに学習するものだ」


「ほう? つまり?」


「私は反省しました。安易なテコ入れはすべきでないと。そして、己の本分を見失ってはならないと。さて、私たちの本分は何ですか? お父さん」


「え? 知らないけど」


「そう! 親子の愛情! 生き別れになっていた父娘が紡ぎ出すハートフル劇場を読者は求めているのです。それ以外のやり取りなんてゴミですよ、ゴミ」


「今日も元気にメタだなあ……。もうそれしか言えないよ、僕は」


「存在しない親子の思い出。仲の良い家族を演じていても、どこか感じる遠慮の壁。違和感は次第に強まっていき、寂しさから私が万引きを行い、お父さんがそれを強く注意しなかったことでとうとう爆発して、私は家を飛び出す。雨の下で追いつかれ、私とお父さんは斬り付けるように本音をぶつけ合う。そういうシチュで、次のページから、よろ」


「え、またやるの? やらないよ?」


「元気に行ってみよー。はいキュー!」



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