タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第八十幕《万練》

 第八十幕《万練》                 七月十四日 二十時六分




「最近、私たちの関係、マンネリになっていると思いませんか、お父さん」


「親子間に持ち出されるマンネリとはいったい……?」


「マンネリはマンネリだよ。魚や野菜を酢と油を合わせた汁に漬け込んだ料理」


「それはマリネだ。関係がマリネになっているってどんなだ。最近というなら、段々と僕に対して遠慮がなくなってきたよね、キナちゃん。いいことだとは思うけど、たまに本気で付いていけないときがあるんだよね。それで、マンネリが何だって?」


「いや、マンネリが悪いといっているわけじゃないの。最近私たち、日常に埋もれているってことを問題提起したいの。普通で平凡なことしかやってない」


「平凡で十分だと思うのだが。別に特別なことをしたいとか思わないし」


「駄目だよ。これじゃまるで、仲のいい本当の親子みたいじゃん。スリルともロマンスもないまま、グダグダの関係で物語が終わっちゃうじゃん。それじゃあ駄目だよ!」


「……分からない。君が何を言っているのかさっぱり分からない」


「このままじゃ、こうして二人は末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし、で話が終わっちゃうってことだよ。打ち切りの最終回の方がまだヤマもオチもあって楽しい。知ってる? エンターテインメントって、マンネリになり始めたら終わりなんだよ」


「はあ……。全然ちっともさっぱりひたすら理解できないけど、ツッコミするのも面倒だから流してしまうけれど、つまりどうしろって言うんだい?」


「マンネリは打破しなければならない。要するに、テコ入れを加えます」


「テコ入れ」


「イエス。新たな刺激を加えて、緩んだ現状に活を入れるのだよ」


「新たな刺激ねえ……。例えばどんな? キナちゃんが本当は僕と血が繋がっていないという事実が判明したり、旅行先で殺人事件に巻き込まれたりとかかい?」


「いいねえ。そう、そういう感じ。新キャラを出すのもいいよね。私の友人が家に遊びに来て、お父さんに一目惚れして、際どい三角関係が発生したりとか、お父さんが十年前に犯した殺人事件を調べている刑事が私に接触してきたりとか、私とお父さんどっちかの幼馴染が現れて、許婚発言したりとか、死んだと思われていたお母さんがひょっこり現れて、意味不明な予言を残してまた消えたりとか。こういう夢が広がっていく感じ」


「不穏ばかりが広がっていくような気がするけど」


「じゃ、夏休みに行った温泉旅館で、昔お父さんに惚れていた幼馴染の女性と再会して、その翌日に彼女が死体で発見されて、第一容疑者として疑われたお父さんは、容疑を晴らすために捜査を開始する。そういう設定で、次のページからスタートね」


「次のページって何?」



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