タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第六十七幕《会議》

 第六十七幕《会議》              六月十日 十九時五十三分




「第九十八回家族会議ー。イエーイ!」


「おかしいね。これまでの九十七回分の記憶が僕にないわけだが」


「ええまあ、制作上の都合でそこはカットされました。ええ」


「僕の記憶がバラエティ番組みたいな扱いに。ええとそれで? 家族会議っていうけど議題は? 何かあったっけ、話し合うこと」


「今月二十三日に私の高校で授業参観があるのは、読者の皆様もご存知のとおり」


「いや、初めて聞いたけど。ご存知じゃないけど。読者の皆様ってのがどこのどなたかは知らないけど、その彼らもきっと知らないと思うよ」


「詳細は別紙参照。はいこれ」


「どうも。これが授業参観の案内のプリント? こういうのはもう少し早く見せてほしいな。つまり、プリントを見せるのが遅くなったけど、授業参観に来てくれっていうお願い? うーん、その日に半休を取れば、行けなくはないと思うけど、どうかな」


「ううん、違うの。その逆。来てくれじゃなくて、来ないでっていうお願い」


「来ないで? 授業参観に来るなってこと?」


「ウィ。絶対に来ないでってこと」


「どうしてまた? 僕が行くと、何かまずいことがあるのかい。というか、来てもらいたくないんだったら、最初から話さなきゃよかったじゃない。キナちゃんが話さなければ、僕は知らないままだったんだから」


「すでに知っていると思ったんだよ。今朝、机の上にプリントを出しっ放しにして学校に行っちゃったから、『やばい、見られた』って。それで堂々と言おうと覚悟を決めた」


「あそう。僕に来てもらいたくない理由は? どんな不都合があるんだ」


「うん……。友達に、お父さんの自慢話をしちゃってて。それでついつい、あることないこと尾びれ背びれ装備しちゃったのです。お父さんが来ると、その嘘が全部ばれちゃう。そんなことになったら、私、学校に行けなくなっちゃうよ!」


「君はいったい何を言っているんだ?」


「えーと、戯れ言?」


「一応ふざけたことを言っている自覚はあるのか……。どんな嘘ついたんだ?」


「優しくて、ハンサムで、お洒落で、女心の分かるナイスミドルで……。どうしよう。本物のお父さんをみんなに見られたら、それが全部嘘だったってばれちゃう……!」


「おい待て娘。聞き捨てならない台詞が聞こえたんだが」


「本当はまるっきり違うって知られて、恥を掻いちゃう……!」


「ほほう……。元気に喧嘩を売ってくるねえ。逆に心地いい」



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