タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第六十六幕《雨中》

 第六十六幕《雨中》




「……何か、雨の中のドライブって息が詰まりそうになるんだけど。ならない?」


「そう? 閉塞感があるからかな。僕は、雨の日のドライブも嫌いじゃないよ」


「音楽掛けていい? ……あれ? スマホを繋ぐところどこ? 見当たらないんだけど」


「悪い。生憎、プレイヤー用の端子は付いてないんだ、この車」


「え? そうなの? でも前に音楽聞いてなかったっけ?」


「そのときはCDを掛けてたんだ。そこの引き出しに何枚か入ってるよ」


「CDって何?」


「……これが、ジェネレーションギャップか……! 今でも普通に売ってるんだけどなあ」


「ああ、あのアイドルの握手権とか入ってる奴か。存在は知ってる」


「そのイメージもどうかと思うけどね。そういえば、最近、学校はどうだい?」


「んー、まあ、楽しいよー。特に何かあるってわけじゃないけど、普通に楽しい」


「そう。たぶんそれが一番いいことだ。特別じゃないのに幸せに思えることは、とても貴重な時間だと思う。部活は、何に入ったんだっけ? 前に、お友達とトラブって何の部活に入るか悩んでいるって聞いてから、そのままだったけど」


「ああ、話してなかったね。私、生徒会に入ったの。生徒会会計」


「生徒会? それはまた、へえ……。帰りが遅い日があるから、何かしているとは思っていたけど、生徒会ってのは予想外だった。いや、逆にぴったりか?」


「うん、入ってみて自分でもそう思う。まあ、今のところ何の行事もないし、やることもなくて暇なんだけど。先生のお手伝いだよ、主なお仕事は」


「ふうん。キナちゃんが権力側の人間か。あ、それと、あれの問題はどうなったの? 同級生に告白された件」


「ああ、古賀くん? 一回一緒にカラオケに行って、結局振った」


「あ、振ったんだ。ってか、カラオケに行ったの? それ初耳なんだが」


「話してないからね。今日はどうしたのお父さん。やけに色々聞いてくるじゃない」


「うん。一応、君の保護者だからね。キナちゃんって、元気のないところを他人に見せようとしないから、一人で無理してないかなと心配になって。元気ならいいんだ」


「あはは、嫌だなあ。私はいつだって元気だよ。元気もりもり!」


「そうみたいだ。……まあ、ね。万が一にも、気付かないまま手遅れになったら、今度こそ僕は自分を許せなくなると思うから。だから、知っておきたいんだ」


「…………」


「……うん。キナちゃんの言うとおりだ。雨の日はどうも息が詰まりそうになる」


「そうだねー。明日は、晴れるといいね」



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