タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第五十八幕《平行》

第五十八幕《平行》               ?月?日 ??時??分




『どうすればいいんだろう……? いくら考えても答えは出ない。


 具体的な案がないまま、こっちの時間軸に転移してきたツケが返ってきたわけだ。まさしく因果応報、自業自得。世の中ってのはよくできているね、まったく。ほとほと自分の計画性のなさが嫌になっちゃうよ。だからって、改善しようとも思わないんだけどね。


 少し整理しようか。ここで己を見直して、基礎に立ち返るのがいいかもしんない。


 私がどこから来たのか。そして、私がこっちの世界に来た目的のことを。
 こっちの世界は、本当に私のいた世界とよく似ている(正確には世界というより、歴史というべきなんだろうけど、感覚的な呼び方のクセはいまいち抜けない)。これまでにも色んな並行世界を覗いてきたけど、ここまで類似性が高い世界は初めてだ。高校に入学して、私に知っているままの友達や先生たちと会ってから、さらにその思いが確信的になった。


 あまりに似過ぎて、ときたま元の世界に戻ってきたような錯覚に陥ることもある。
 だけど、ここは私の世界ではない(歴史ではない)。


 とてもよく似た、異なる歴史の平行世界なのだ。


 平行世界。いわゆるパラレルワールド(この単語って直訳なのかな? 他にパラレルなんて言葉を使う機会ってない気がする)。


 異なる歴史を歩んできた、あったかもしれない別の時間軸の世界。


 こっちの世界ではまだ開発されていないけれど、私のいた元の世界(仮にA世界と呼ぶ)では他の平行世界を観測し、その時間軸へと渡る装置が存在する。私はとある目的を果たすためにその装置を使って、こっちの世界(仮にB世界)に転移してきた。ちなみに一般人が転移することは違法なんだけどね。ま、バレなきゃいいのだよ、バレなきゃ。


 あっちとこっち、A世界とB世界の違いは観察したところ、大まかに二点。時間軸転移装置の存在を含めたら三点だけど、ここでは割愛しとこう。


 一つは、私の両親が結婚しているか、否か。
 二つは、お父さんが事故で死んでいるか、否か。


 一つ目の点についてだけど、両親が結婚していないせいなのか、こっちの世界じゃお母さんが行方不明になっちゃっている。それと当然だけど、娘の私が産まれていない。そのせいでこっちのお父さんと初遭遇したとき、かなり苦しい言い訳をする羽目になっちゃったぜ。よくもまあ、生き別れの娘だとか、タイムカプセルベイビーとかの嘘がすんなりと出てきたものだ。でもそのお陰で、お父さんのふところに入り込むことができた。警戒心バリバリからのスタートだったけど、結果オーライ。目的を果たしさえすれば、行程は関係ないさ。


 私が法を犯してまで、B世界に来た目的。


 それは、こっちの生きているお父さんを、A世界に連れて帰ることだ』



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