タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第五十幕《失態》

 第五十幕《失態》               四月二十日 十九時三十二分




「父よ。懺悔したいことがある」


「何だい? 懺悔したいことってのは?」


「私は、あなたの娘ではない」


「……ええ? ど、どういうことだ」


「私は、M六十六星雲から来た宇宙人だ。私は、十五年前に罪を犯してしまった」


「罪を犯しただって?」


「……私は、地球探査中にうっかり一人の少女を殺してしまったのだ。こうなったら仕方あるまい、私が姿を変えて、しばらく少女の代わりを務めようと決めたのはいいけれど、姿を変えるのに十五年も掛かってしまったのは計算外だった。宇宙と地球では、時間の流れ方が違う。我々と地球人では時間感覚が異なるということをすっかり失念していた」


「……つ、つまり、要するに、君は、彼女に化けた宇宙人だというのか?」


「そうだ。ショックだろうが、これが真実なのだ」


「そんな……。彼女がもう死んでいたなんて」


「地球探査の任務は続行中だが、私は一生このまま、地上で過ごせと命令されている。だがそれはいい。初めから母星に生きて帰れない覚悟はできていた。私はこの星を第二の故郷として、のびのびと暮らすことにした。私が殺してしまった少女の分まで」


「ずいぶんと無責任な言い分じゃないか。お前は人の命を奪ったんだぞ」


「ああ、私が死なせてしまったのは事実だ。言い逃れはしない。あの日……、彼女は風呂に入っていた。窓を開けてビババンと歌っていた彼女は、光学迷彩装置が故障していた私の宇宙船を目撃した。そして彼女は、急いで風呂場から出ようとして――石鹸を踏んだ」


「せ、石鹸って、……え?」


「接地面の摩擦をほぼゼロにした石鹸は、前方に滑った。石鹸に体重のほとんどを預けていた彼女の重心は崩れ、結果、彼女はくるりと転んで、後頭部から落ちた。不幸なのは頭が落ちた先に浴槽の縁があったことだろう。脳挫傷で即死だった」


「…………」


「私は、彼女を殺した罪を償うことにした。もしあのとき光学迷彩装置を直しておけば……、私の心から後悔が消えた日はない。本当に済まないことをした」


「……何というか。人のいい人なのだなあと思うのと、でも変身するのに十五年も掛けているからね。同情していいのか、貶せばいいのか、いまいち分からない」


「責めてくれ……、私を責めてくれ! もっと! 私を苛めろ!」


「嫌だよ。必死になるなよドMかよ。存在がコントだよほんと」


「そう言わずに! さあ! さあ!」



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