タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第四十二幕《早朝》

 第四十二幕《早朝》              四月七日 六時         




「おっはよー! 朝だよ! 起きて起きてー!」


「……ああ? ……おはようって、今、何時だと思ってんの」


「午前六時ジャスト。今、一分になった。朝だよ」


「朝だ。ああ、確かに朝だな。紛うことなく朝っぱらで、夜中か朝か昼間かと聞かれれば、百人中百人が朝だと答える朝だ。心地よい朝だな。だが六時だ」


「六時がどうしたの? お父さん」


「六時はギリギリ早朝だと思う。そうでなくとも僕は、毎日七時に起きる習慣があり、君もそれを知っているはず。そして、僕はまだ眠い。僕が何を言いたいか分かるかい、朝っぱらから元気溌剌なキナちゃん」


「分かんない。皆目見当も付かないね、はっきり言ってくれなきゃ」


「あっそう……そうだな。相手に同じ気持ちや考えを求めるのは、よくない会話の仕方だ。今の僕の気持ちを、一言ではっきりと述べよう。うるせえぞ小娘、だ」


「ただの事実だね。もっとすごい罵声が飛んでくると覚悟してたけど」


「感情に任せた罵声は苦手だ。言うのも、言われるのも。――っで? どうして僕をテロ行為、もとい、叩き起こしてくれたんだい?」


「お父さんを強襲したのはね、私がつい早起きをしてしまって、これは使命だと悟ったから。ガンジーも言っています。明日死ぬと思って学べ、と」


「違う。明日死ぬと思って生きろ。永遠に生きると思って学べ、だ。この状況にまったく適していないだろ。明日死ぬことと早起きにどんな因果関係がある」


「因果のないものなんてないんだよ。すべてはどこかで繋がっているのです」


「含蓄ありげな言葉で誤魔化すな。いいかい? 僕は、今、機嫌が悪いんだ」


「見れば分かる。ちなみに、何で私がこんなにテンション高いのかというと、二時間前に起きてから、お父さんを起こすのを今か今かと楽しみにしていたからです」


「四時に起きたんかよ……。何なんだ、本当に君は」


「東京に出張」


「……は?」


「今日から東京に四日間出張だって言ってなかったっけ? それで、六時半には出たいから、もし六時になっても寝ていたら起こしてくれって、昨日頼んでなかったっけ?」


「…………。今、何時?」


「そうね、大体ね。六時八分」


「……恩に着る! さっきまでの暴言は許してくれ。行ってきます!」


「どういたしまして。はい、気を付けて行ってらっしゃい」



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