タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第三十六幕《決断》

第三十六幕《決断》             




「あなたは私を娘だと認識している。私がそう言ったから。だけど、家族に対しての愛情では呪いを解くことはできないんだ。遅まきながら、ようやくそのことに気付いた。若返りの呪いを解くには、やはり、恋人に対しての愛情でないとならない。だから、私は真実を打ち明けて、自分の正体を教えることにした」


「なるほど……。それはつまり、戻るつもりなんだね。元の姿に」


「……ええ。でもね、本音を言うと戻りたくないんだ。あんな殺伐とした日々には何の救いもない。戦って戦って、産まれてから死ぬまで戦い続けて、最期は人形のように朽ちるだけ……。そんな生涯には、何の意味もないじゃないか」


「じゃあ、無理して戻らなくても……」


「……いいえ、それでもやっぱり駄目なのよ」


「……どうして?」


「……『お父さん』との生活は、とても楽しかった。温かさに満ちていて、ずっとここにいたいと思った。すぐに元の姿に戻って、魔女との戦いに挑まなきゃいけないっていうのに、私は優しい揺り篭に、身を委ねてしまった」


「…………」


「どうするのがいいか、ずっと迷っていて、ずるずると過ごしちゃった。今だって迷っている。このまま本当に『娘』になっちゃった方が、幸せなんじゃないかって。だけど、このまま一緒にいたら、いずれ魔女に私の居場所を突き止められて、あなたを戦いに巻き込んでしまう。そうするわけには行かない。あなたを失うわけには……」


「……ああ」


「だから……、もう終わりにする。終わりにしなきゃいけない。ひと時の淡い夢から覚めるときが来たの。温かくて優しくて、嘘に満ちていた日々はこれでおしまい。『お父さん』と一緒に過ごすのも、今日が最後」


「ああ。よく分かったよ。お別れなんだな」


「ごめんなさい……。勝手に転がり込んできて、散々振り回しておいて、勝手に去ろうとするなんて。私には謝ることしかできない」


「謝る必要はないよ。君との日々は、僕にも幸せを与えてくれた」


「そんな……、そんな優しいことを言わないで。私をこれ以上幸せにしないで」


「……ごめん」


「さようなら『お父さん』。あなたを愛していた」


「僕も愛していたよ。ずっと、愛している」


「さようなら……」



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