タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第十八幕《休憩》

 第十八幕《休憩》                 


娘「ん? どうしたのお父さん、さっきから難しい顔をして。キャラメルホイッピングスペシャルチョコソースあずきトルネードカフェモカはやっぱちょっと冒険し過ぎてた?」


「想像以上に甘ったるい……。いや、今日って日曜だったなぁって。ほら、家族連れがちらほらいるじゃん? 子供と手を繋いで歩いていたりさ、ベビーカーとか」


娘「いるね。それが?」


「うん。こうして休憩しながら、そういう幸せそうな家族を見ていたら、自分もまあ今はそんな感じだったなと思って、改めて不思議なことになっているな、と」


娘「ははあ。夢見心地って奴かしら?」


「少なくとも、この胸焼けは本物だ。夢というか、いきなり異世界に飛ばされちゃった感じ。昨日までは失業した独身中年だったはずなのに、今日になったら、年頃の娘を持ったパパモドキだ。資格も経験も覚悟もないのに、立場だけ与えられた。しかも、一人の人生を左右するほどの。色々と思うものがあるよ。嫌でも考えてしまう」


娘「難しく考えなくてもいいのに。お父さんが責任感じることは何一つない。しょせん私の人生なんだから、私の力で何とかしていくよ」


「君の方からそう言ってもらえるのはありがたいけどね。人として、という奴だ。一人の男として、って奴。でも一番の戸惑いは将来じゃなくて、やっぱ、世の中何が起こるか分からないっていうところかな。運命の複雑さを思い知っているよ」


娘「あー、お父さん、流され体質だからなー。……飲まないなら、もらっていい?」


「間接キスとか躊躇いなさいってあんた。僕だって一応、男性なんだから」


娘「じゃあもらいまーす。その言い草は父親っていうか、母親だよね。家族と言えば、お父さんって兄弟は妹さんがいたよね。妹さんは結婚は?」


「んん? 妹は仕事漬けの男っ気ない生活を送っているよ。もう三十路だってのに、さばけた人生を送っているぜ。あいつを女らしくするには、どうすればいいんかね。腕相撲で僕に勝とうとするんだぜ、あいつ」


娘「それはお父さんが貧弱だからなんじゃ……?」


「いや、さすがに負けないけど。そのくらいの勢いというか。ちなみに、キナちゃんは結婚願望とか、将来的な家族計画とか持っているかい?」


娘「ふにゃーん」


「……んん? 何その返事。イエス? ノー?」


娘「んんー。キナちゃんはですねー。常に一杯一杯で、結婚とか考えたことなくて。恋愛経験もゼロなんす。子供を作って、一緒に幸せになれたらいいなー、程度で」


「君が言うと重みが違うね……。いや、本当に」



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