タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第十七幕《破顔》

 第十七幕《破顔》                 


娘「きゅあー! 可愛い可愛い可愛い! こっちはお花っぽくて可愛い~! こっちはフリルがふりふりで可愛い! うわあ……どっちにしようかな。お父さん、どっちが似合う?」


「うん? ……うん、どっちも君によく似合っているよ」


娘「そう? あー、でも実を言うと、お花の方ちょっとサイズが合わないんだよね。現品限りってのがネックです。使い分けで両方購入もありかー? どう思う?」


「……いや、さ。洋服の感想だったら分かるけど、何で、筆箱の相談を受けているんだ僕は。筆箱が似合うかどうかなんて分からないって。自分で決めなよ」


娘「ブーブー。自分で決められないから聞いてるんじゃない! 重要だよペンシルボーックスは。これで高校三年間の親友の数が決まると言っても過言では……ッ!」


「過言も過言だろ。筆箱なんかで親友がポンポンできて堪るかい。っつか、文房具屋でここまでテンション上げる子は初めて見たよ。文房具屋の子かよ」


娘「文房具屋の子は文房具を見慣れているだろうから、テンションは上がらないと思うけど。いやさ、文房具ってプチ贅沢するのにぴったりというか、実用性とデザイン性とコストのバランスが秀逸だし、五百円、千円でも良い物が転がっていて、数千円を覚悟で、本当に一生使えるレベルの物が手に入るじゃない。すごくない!」


「うーむ、想像以上の熱意が返ってきた。まあ、何の買い物かと付き合ってみたら、新年度に向けての準備といった感じか。高校の制服はこれから?」


娘「うん、制服は別の日に。それよりお父さん、ちょっと気になってるんだけど、いつまで私のことを『君』だなんて爽やかによそよそしく呼ぶの?」


「うん? ほらさ、一応、君の名前を教えてもらったけど、昨日知り合ったばかりなんだから呼び捨てにするのも失礼でしょ。かと言って、ちゃん付けとかで呼ぶのは、また違ったいかがわしさがあるし。苗字で呼ぶのが安牌だけど、君の苗字ってほら、もう戸籍的には僕と一緒だから、これも変になる。悪くないんだよ、『君』呼びは」


娘「そつのなさが悪い方に出ちまった例だにゃー。まあ、分からなくもないか。私もお父さんでしっくり来たけど、今から別の呼び方しろって言われたら困っちゃうし。じゃあ、私の中学時代のあだ名を折衷案とするのはどうでしょう」


「あだ名かい? そのあだ名にもよるね。どんなだい?」


娘「はいはーい。私は名前の二文字を取って、キーナと呼ばれていましたー。お父さんも気軽にキーナちゃんって呼んでよね?」


「キナでよくない? 別に伸ばさなくても」


娘「……はーあ。これだから中年は。これだから中年は!」


「なぜ二回言った?」



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