タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第十一幕《月日》

 第十一幕《月日》                




娘「私の身の上話の続き、していい?」


「どうぞ」


娘「小学生まで何も知らずに施設で育った。どういうシチュエーションで、どんな場所に捨てられていたかを知ったのは、中学校の入学式の日だった」


「驚いたんじゃないの」


娘「そこはね。人並みにショックを受けたよ。でも知りたいと思った。私を拾ったという用務員さんから話を聞いたり、捨てられていた場所に行ってみたり、そこに埋まっていたタイムカプセルを掘り返して、中身を見て、たぶんお母さんだろうって人のことを知って。中学生の三年間そんなことに費やした。そして、カプセルの中身から、父親のことを知った。十六年前、お母さんが行方不明になる前まで付き合っていた彼氏の男性。自分の父親と推定するには、充分な材料だった」


「そして、たびたびあの場所に足を運んで、こっちとの遭遇を待っていたのか」


娘「そういうわけ。出会えたのは本当に偶然だね。写真で一目見て、私はビビッと来たけど、それだけじゃ親子の証明にはならないじゃない? 血の繋がりは証明できないし、あなたが認知してくれないかもしれない。もし駄目だったら私は天涯孤独に戻っちゃう。そうならないよう戸籍をいじって、先手を打たせてもらったよ」


「親子じゃないかもしれない男性を相手に、よく心を決められたね」


娘「ずっと始めから、決めていました! って奴ね。十五歳になったら、自分の意志で養子縁組の相手を選ぶことができる。だから私は、あなたを選んだ」


「……あれ? 僕の同意も必要なはずだけど……」


娘「お父さん、里親制度に登録してくれていたでしょう? 人柄にも収入にも問題がなかったし、だから、権利や契約関係がスムーズに済んだよー」


「いや……、登録してないけど、里親制度」


娘「え? ……………………え?」


「『え?』は僕の方のセリフだよね。どこの誰と間違えてくれたの」


娘「……あれぇー? でも、すんなり審査は通ったしなぁ? ……あれー?」


「さあて、ボロが出てきました」


娘「……ど、どう? 私の人生。お父さんと出会うまでのスリリングな経緯は?」


「すごい話だね。こんなこと言うのは、失礼かもしれないけど、……本当の話かい?」


娘「本当の話よ」


「…………」


娘「そして、お父さんの子になりに来た」



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