同僚マネージャーとヒミツの恋、担当アイドルにバレてはいけない……
最終話
「そんなに言うなら同棲しちゃえば良いのに~」
「ううーん」
本日、木曜日、深海さんとは終日、別行動だった。
それが少し寂しくて、行きつけの飲み屋でお姉さんに思わず漏らすと、そう返ってきた。
やはり同棲……いや、でも、まだ出会って一ヶ月も経っていないし……。
「……ところで、それ? 言ってた社長のプレゼントの腕時計」
「はい」
「……50万」
「はい?」
「それ50万はするやつよ」
「……マジか」
時計なんてせいぜい5万くらいの世界に生きてきた私はこのシンプルな四角い時計盤のスティールの時計がその10倍するなんて事に想像が及ばない。
まあ予算は100万と言っていたから薄々感づいていたけど見ないフリをしていました……。はい……。
……これ私の安スーツに合っていないのでは?
「……大事にしよう」
「そうしなさい」
「それにしてもお姉さん、よく、分かりますね、時計の値段とか」
「あはは、私、こういうものです」
お姉さんが名刺を取り出す。
私も慌てて名刺を出す。
交換したその名刺に書かれた肩書きは……。
「……スタイリスト!」
「そうなのです。わりと芸能人の相手もするタイプのスタイリストだったのです」
「……こ、今後お仕事をいっしょにするときがあったらよろしくお願いします!!」
「ええ、是非。シュンくんのドラマ見たよ。あの子はまあ鑑識だから制服だけど……うん、面白かった」
「あ、ありがとうございます!」
『刑事藤野の初恋』は順調な滑り出しを見せていた。主演の母屋岸見の自然な演技を始めとして、スタンダードだが恋も交えた刑事物として人気を博している。SNSのドラマアカウントでのシュンくんの評判も上々で、私はホッとしている。
挿入歌『telepathy rhythm』も作品の味を殺すことなく起用されていて、私達はホッと胸をなで下ろしていた。
「……あ、お姉さんの名前、モラル藤原さんにお伝えしてもいいですか? サインを差し上げたいとおっしゃっていました」
「マジで! あ、じゃあ、このライブDVDに……」
「持ち歩いている……」
お姉さんからモラル藤原さんのライブDVDを受けとって、私は丁寧に鞄にしまう。
「それじゃあ、私は今日はこれで失礼します」
「うん、またね~」
「はい、また」
店の外に出る。駅までの雑踏を通り抜ける。
駅に着くと、そこには見覚えのある姿があった。
メガネ越しにも分かる甘いマスク。
仕立ての良いスーツ。
柔和な微笑み。
すらっと立つその姿はやっぱりアイドルかモデルにでもなれる気がする。
そう思ってしまうのは私がその人のことを偶像と見ているからかもしれない。
「……深海さん」
「こんばんは、由香さん。なんとなく……ここに来れば会えるかな、って」
「は、はい……えっと、今日は駅ですか」
「ええ、あの日以来、由香さんと外で飲んでないと思いまして。たまにはいいかなって。明日のスポーツバラエティは人数を絞っただけあってそんなに早くないですしね」
「……はい、じゃあ、たまには」
「僕の行きつけのバーがあるんです。よかったらそこに」
「……オシャレだ」
「あ、ハードルが高いようなら他の居酒屋でも……」
「いえ、行ってみたいです。バー」
私はそう言って深海さんの腕に腕を絡めた。
深海さんは一瞬驚いた顔をしたけど、嬉しそうに微笑んで、腕を良いポジションに置いてくれた。
「……じゃあ、行きましょうか」
「はい!」
私達は夜の町に繰り出した。
明日からまた仕事が続いていく。
そしてこの人との関係もきっと続いていってくれるだろう。
それが私は嬉しかった。
「ううーん」
本日、木曜日、深海さんとは終日、別行動だった。
それが少し寂しくて、行きつけの飲み屋でお姉さんに思わず漏らすと、そう返ってきた。
やはり同棲……いや、でも、まだ出会って一ヶ月も経っていないし……。
「……ところで、それ? 言ってた社長のプレゼントの腕時計」
「はい」
「……50万」
「はい?」
「それ50万はするやつよ」
「……マジか」
時計なんてせいぜい5万くらいの世界に生きてきた私はこのシンプルな四角い時計盤のスティールの時計がその10倍するなんて事に想像が及ばない。
まあ予算は100万と言っていたから薄々感づいていたけど見ないフリをしていました……。はい……。
……これ私の安スーツに合っていないのでは?
「……大事にしよう」
「そうしなさい」
「それにしてもお姉さん、よく、分かりますね、時計の値段とか」
「あはは、私、こういうものです」
お姉さんが名刺を取り出す。
私も慌てて名刺を出す。
交換したその名刺に書かれた肩書きは……。
「……スタイリスト!」
「そうなのです。わりと芸能人の相手もするタイプのスタイリストだったのです」
「……こ、今後お仕事をいっしょにするときがあったらよろしくお願いします!!」
「ええ、是非。シュンくんのドラマ見たよ。あの子はまあ鑑識だから制服だけど……うん、面白かった」
「あ、ありがとうございます!」
『刑事藤野の初恋』は順調な滑り出しを見せていた。主演の母屋岸見の自然な演技を始めとして、スタンダードだが恋も交えた刑事物として人気を博している。SNSのドラマアカウントでのシュンくんの評判も上々で、私はホッとしている。
挿入歌『telepathy rhythm』も作品の味を殺すことなく起用されていて、私達はホッと胸をなで下ろしていた。
「……あ、お姉さんの名前、モラル藤原さんにお伝えしてもいいですか? サインを差し上げたいとおっしゃっていました」
「マジで! あ、じゃあ、このライブDVDに……」
「持ち歩いている……」
お姉さんからモラル藤原さんのライブDVDを受けとって、私は丁寧に鞄にしまう。
「それじゃあ、私は今日はこれで失礼します」
「うん、またね~」
「はい、また」
店の外に出る。駅までの雑踏を通り抜ける。
駅に着くと、そこには見覚えのある姿があった。
メガネ越しにも分かる甘いマスク。
仕立ての良いスーツ。
柔和な微笑み。
すらっと立つその姿はやっぱりアイドルかモデルにでもなれる気がする。
そう思ってしまうのは私がその人のことを偶像と見ているからかもしれない。
「……深海さん」
「こんばんは、由香さん。なんとなく……ここに来れば会えるかな、って」
「は、はい……えっと、今日は駅ですか」
「ええ、あの日以来、由香さんと外で飲んでないと思いまして。たまにはいいかなって。明日のスポーツバラエティは人数を絞っただけあってそんなに早くないですしね」
「……はい、じゃあ、たまには」
「僕の行きつけのバーがあるんです。よかったらそこに」
「……オシャレだ」
「あ、ハードルが高いようなら他の居酒屋でも……」
「いえ、行ってみたいです。バー」
私はそう言って深海さんの腕に腕を絡めた。
深海さんは一瞬驚いた顔をしたけど、嬉しそうに微笑んで、腕を良いポジションに置いてくれた。
「……じゃあ、行きましょうか」
「はい!」
私達は夜の町に繰り出した。
明日からまた仕事が続いていく。
そしてこの人との関係もきっと続いていってくれるだろう。
それが私は嬉しかった。
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