幼馴染みが婚約者になった

名無しの夜

第16話 決闘?

「確かにリラザイアは私らの奴隷だけど、それがなによ」

物騒な気配を放つ傭兵の皆さんを、ティナが堂々とした態度で睨み返す。

「リラザイアちゃんの親父さんには若いころ何度も助けられた。その娘が奴隷に落ちたと聞いて黙っているわけにはいかんだろ」

そうだ! そうだ! とそこかしこで上がる声。

「こんなに傭兵達に慕われているなんて、さすがは大陸でも名の知れた商会の関係者だよね」
「そうですね。ダダンダさんがシュウ商会でも指折りの幹部と言う話でしたから、その身内であるリラザイアさんのお父様も高い地位にいるのでしょう」

この慕われぶりはそれだけでもないような気がするけど、なんにしろ困った事態に陥ってしまった。

(彼らをリラザイアさんに会わせるのが一番いい解決方法かな)

「ティナ、ここはひとまず穏便にーー」
「はぁ? アンタらが誰にお世話になろうがそんなの私らには関係ないし」
「行こうって言っても無理な話だよね、うん」

どんまいとばかりにサーラが俺の背中を叩く。

「威勢のいい嬢ちゃんだな。この状況が分かっているのか?」

初老の傭兵がそう言えば、何人かがこれ見よがしに武器を弄って見せる。

「ふん。こんな可憐な乙女を取り囲んでおいてその言い草。アンタらこそ誰に喧嘩売ってるのか分かってるんでしょうね?」

輝くような金色の髪が闘気でざわめき、ティナの気性を現したかのような赤い瞳が戦意に爛々と輝いた。

「お、おい、こいつ」
「ああ、ただの小娘じゃないぞ」

脅せばすぐに屈する若造とでも侮っていたのだろうか、ティナが放つ可憐な乙女には程遠いオーラに傭兵達の顔色が変わる。

「何よ、こないの? だったら私からーー」
「ティナ、ストーップ!」

俺は自分から積極的に斬りかかろうとするティナをスンでのところで止める。

「ちょ? なによ? 何でこういう時ばっかり抱きつくのよ。もっと日常でグイグイ来なさいよ」
「いや、俺が行きたくもない非日常に飛び込むのは大抵ティナのせいだからね。ティナこそもっと日常にグイグイ来てよ」
「そ、それはつまり、その、俺に毎朝お味噌汁を作ってくれないか的な、そ、そういうことでいいの?」
「……は?」

俺の幼馴染はたまに訳の分からないことを言う。

「あの、アロスさん。私もお味噌汁は作れますよ」
「いや、うん。俺も作れるし」

(何で急に料理の話?)

気にはなったが、それはあくまでも俺の都合でしかなかった。

ドンッ! と大きな音に視線を傭兵達へと戻せば、リーダー格の初老傭兵が床に剣を突き刺していた。

「この戦力差で戯けてみせるとは、いい度胸だな」
「落ち着いてください。ちょっとした誤解があるようですが、きっと話し合いで解決できます」
「……こちらの要求は一つ、リラザイア嬢ちゃんを奴隷から解放することだ。無論金もそれなりの額を払う。どうだ?」
「俺達はそれで構いませんが、リラザイアさんが断ると思いますよ?」
「奴隷の意思など無視すればいい。そう言う扱いをされるからこそ、奴隷と言われるのだから」
「俺達はリラザイアさんにそんなことはしませんので安心してください」
「今まではそうかもしれんが、これからもそうだとは限らないだろう? リラザイア嬢ちゃんの美貌を間近で見続けて、邪な気持ちを一切抱かないと誓えるか?」
「それはもちろ……ん?」

俺の脳裏に金色の綺麗な巻き毛やサーラに負けない大きな胸部が浮かぶ。

「ん、ん、ん~~?」
「ちょっとアロス?」
「いや、だってさ、リラザイアさん美人だし、俺も男だし」

俺としてはそんな気は今のところまったくないが、誓えるかと問われれば正直自信がない。

「もう、情けないわね」

腰に手を当てるティナと、フンと鼻で笑う初老の男。

「そもそもの話、すでにボウズは綺麗な嬢ちゃんを二人も侍らせてる。この時点で信用できん」
「は、はぁ!? 何よアンタ、私達がアロスの女だって言う訳?」
「違うのか?」
「そ、それはその、違わないというか、まだそこまでの段階じゃないと言うか、えっと、その、サーラ?」
「ティナ、答えたくない質問には答えなくていいと思いますよ。個人情報ですので」
「そうよ。プライバシーよ、プライバシー。何で私達の関係をいちいちアンタに教えてやんなきゃ何ないのよ」
「話にならんな」
「こっちのセリフよ!」

ため息をつく初老傭兵にティナが怒鳴り返す。

「それでは決闘で決めたらどうじゃ?」
「ひ、姫様!?」

(姫様?)

視線を入口の付近に向ければ、ベールを被って顔の上半分を隠した褐色の女性が立っていた。多分年は俺達とそう変わらない少女のはずだが、そんな彼女に多くの傭兵達が跪き、ギルドの職員さん達も頭を下げる。

「話は聞いておった。貴様らが妾の友を奴隷にしたとかいう旅人か。……ほう、剣聖と術聖の弟子か」
「なっ!? 聖号者の弟子?」

お姫様(?)の言葉にギルドが騒がしくなる。

「いかにおっちょこちょいな妾の友であっても、そこいらの凡夫の奴隷になるなどと可笑しいとは思っておったが……」
「そう? あの調子だと相手が私達じゃなくても、いつか普通に奴隷になってたと思うけど」
「ふん。妾を前にその余裕、流石は噂に名高い聖号者の弟子よな」
「ふふん。当然でしょ。お姫様だか何だか知らないけど、それだけでこの私が跪くと思ったら大間違いよ」
「いや、そこは形式上跪いておいた方がいいような……」
「アロスさん、もうここはティナに任せましょう」

付き合いの長さは同じなのだ、サーラの言葉に俺は黙って頷いた……んだけどもーー

「面白い。それではこんな賭けはどうじゃ? 妾が決闘に勝ったらリラザイアとお主は妾のモノ。お主が勝ったら好きなものをやろう」
「乗ったわ」
「ちょっと!? 何言ってるの?」

さっそくティナに任せたことを後悔した。それはサーラも同じだったようで、

「そうです。それではリラザイアさんと同レベルです」

などと、中々酷いことを言っている。

「女には引けない時があるのよ」
「いや、絶対それ、今じゃないよね」
「よし。話は決まったな。付いて来るが良い」

そう言ってお姫様はさっさと出て行ってしまう。

「ティナ」
「ティナさん」

俺とサーラの非難の視線に、しかしティナは自信満々に胸を張った。

「大丈夫よ。私にどんと任せておきなさい」

正直、凄く不安だった。

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