幼馴染みが婚約者になった

名無しの夜

第12話 過保護?

「どういうことも何もないだろ弟君。サーラちゃんは君のことが好きなんだよ」
「や、やっぱりそう思いますか?」

リラザイアさんが俺達の奴隷となった後、ジジダンさんの案内でダンジョンの位置を確認。今は周辺にモンスターが出た痕跡がないか手分けして調査をしているところだ。

「羨ましいね。あんな可愛い子に好かれるなんて」
「可愛い……そうですね。サーラって可愛いですよね」
「うん。あのサラサラの黒髪、パッチりとした大きなお目目。それに一目見ただけで良家のお嬢様と分かる品のよさ。後はなんと言っても……」
「「胸ですよね(だよね)」」

俺とアリアさんはニヤリと笑いあった。

「ふっ、ちゃんとあの胸の魅力に気が付いていたとは、やるじゃないか弟君」
「僕はサーラの幼馴染みですよ? 誰もよりも近くでサーラの成長を見守ってきた自負があります」

そう、まだ小さかった時も、ちょっと大きくなった時代ときも、あれ? 凄く大きくなってない? と思った時代ときも俺達は常に一緒だったんだ。

「その割りには今まであまり感心がなさそうだったよね?」
「それは一緒にいすぎた弊害といいますか、綺麗だなっとは思っても今一つ異性感? みたいなものが足りなかったんですよね」
「それがなんで急に目覚めたんだい?」
「な、何でってそれは……」

言葉に詰まってしまう口とは反対に、俺の目はアリアさんの艶やかな唇に釘つけとなる。

「ん? へー……なるほどね。そう言うことかい」
「え? キスなんて言ってませんよ? 言ってませんからね!?」
「やれやれ。その露骨なアピール、どうやらテクニシャンな僕の口付けが弟君……いや、旦那様をメロメロにしてしまったようだね。さて、どう責任を取ったものか」

アリアさんに頬を撫でられて、俺の胸がキュンと高まった。

「知っての通り、僕は男に興味がないんだよ。だからこれは……特別だよ?」
「アリアさん」
「ちっちっち。お姉様と呼んでごらん?」
「は、はい。おねえーー」
「呼ばなくていいから」

ポカッ!

「あいたっ?」

後少しでキスというところで、俺は背後からの手刀バイオレンスに膝をついた。

「ね、姉さん? せっかく新しい扉が開けそうだったのに、なんてことするのさ」
「お姉ちゃん命令です。そんな扉は永久に閉じちゃっててください」
「ふっ。嫉妬かい? そんな君も素敵だよ、マイハニー」
「プレイボーイの真似事してるところ悪いけど、貴方顔が真っ赤よ?」
「えっ!? う、うそ?」

余裕綽々の態度から一転したアリアさんは慌てて自身の顔に手をやる。そんな女軍人の姿にお姉ちゃんがふっと笑った。

「う・そ・よ。ふふ。処女のくせに苦手な男を手玉にとろうとするから、そんな簡単にボロが出るのよ?」
「…………ふっ。これは一本取られたね。仕方ない。ここは引き下がるとしよう」

足早に立ち去っていくアリアさん。こちらに背中を向ける直前に見せた顔は今度こそ本当に真っ赤だった。

(アリアさん、無理してたんだ。……というか)

「キス、したかったな」

その事実が悲しすぎて涙でそうだった。

「……弟君」
「ん? 何姉さん」

(今から追いかけて行ったらキスしてくれないかな?)

俺はアリアさんが走って行った方をボーと見つめる。

「大きな町についたら子作りするから時間つくってね」
「うん。いい……よ? ん? えっ!? あの、今なんて」
「それと剣聖様が弟君に用があるそうよ」
「いや、子作り……って、し、師匠!? いつからそこに?」

気が付けば、人形のように非の打ち所のない美貌が俺をジーと見つめていた。

「……弟子は発情期」
「い、いや違いますよ?」
「違うの?」

コテリ、と師匠は不思議そうに首を傾げた。

「そ、そうですよ。大体人間は年中発情してる生物なのであって、発情期ということはつまり正常けんこうであることの証拠であり、しかし健康であることは発情と必ずしも一致しないんです。つまり結論を言えば人間に発情期なるものは存在しない。そうでしょう? そうじゃないですか、師匠」
「弟子はスケベ」
「えっ、あの…………はい。スケベですみません」

項垂れる俺の頭を剣聖様が優しく撫でてくれる。

「素直。いい子、いい子」
「あの、師匠。俺もう十八なんですけど」
「……いい子じゃない?」
「い、いえ、そんなことは……。はい、いい子です」

確か剣聖様は俺よりも年上のはずなのだが、少女に見える見掛けのせいで悲しい顔をされると罪悪感が半端ない。

「よかった」
「そ、それよりも剣聖様。何か俺に話があったのでは?」
「今から貴方達が潜るダンジョンを見てきた。分類上はEランクの簡単なもの。罠も対したことないけど落とし穴は気を付けて。単純だけど腕利きでもたまに命を落とす。これが確認できた罠の場所。頼りすぎず、参考程度に使って」

剣聖様から手渡された地図にはダンジョンの構造から中を徘徊している魔物の種類まで全部書かれていた。

「こ、これ全部剣聖様が?」
「浅いダンジョンだから驚くことない。 私が潰しても良かったけど、あなた達には良い修行になる。頑張ってね」
「は、はい。ありがとうございます」

ちょっと過保護な気もするけど、師匠の気遣いが嬉しくて頭を下げる。

(魔物は……問題なさそうだな。となると一番注意するのは師匠のいう通り罠だな)

人を食らうことで魔物は成長する。そして魔物が食べる相手は生者に限定されない。だからダンジョンには凶悪なトラップがそこいらに仕掛けられているのだ。

(ティナとか思いっきり罠に引っ掛かりそうだし、これは気が抜けないぞ)

さっそくもらった地図を頭にいれる。

「ん? そういえば拳聖様と術聖様はどうしたんですか?」
「二人はダンジョンマスターの痕跡を追って行った」
「……ダンジョンマスター」

それはダンジョンを作った魔族を指す言葉。魔物という特殊な人造精霊を生み出す為とはいえ、魔族の誰もが単独で地下迷宮を作れるわけではない。必然、ダンジョンマスターには二つ名を持つ魔族が多く、それは俺達のターゲットと言うことでもあるのだけどーー

(正直、今のティナとサーラには戦わせたくないな)

才能はあれど、実戦経験が浅い二人が相手にするには些か荷が重い相手だ。

「心配しなくともダンジョンマスターは私達が狩る。アロスは二人を見ててあげるといい」
「剣聖様……何から何までありがとうございます」
「これくらいどうと言うこともない。でも貴方も修行中。それは忘れないで」

剣聖様はもう一度俺の頭を撫でると、スッと煙のように姿を消した。

「それで弟君。私に何か聞きたいことがあったんじゃないかしら?」
「え? ……ううん。今はいいよ」

子作り云々のことが頭を過ったが、流石に今はそんなことを気にしてる場合ではない。

(二人と挑む初めてのダンジョン。絶対にミスれない)

強い不安と高揚に、俺は拳を握りしめた。

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