幼馴染みが婚約者になった

名無しの夜

第10話 提案

「こうなれば仕方ありませんわ。貴方達、私と決闘しなさいな」

商人さんの姪であるリラザイアさんが突然そんなことを言い出した。

「はい? アンタ突然何言ってんの?」

ティナのもっともな質問にリラザイアさんは鋭い眼差しを俺達へと向けた。

「不躾とは存じております。でも私、これでも色々な所で修行しており腕には結構な自信がありますの。なのに叔父様ったらいつまで経っても私を子供扱いして……。今回だって初めから私がダンジョンの主を潰せば話はそれで終わっていましたのに。まったく過保護すぎますわ」
「そんなこと言ってもな。どんな不測な事態があるかも分からんし……。第一お前は人間相手の護衛であって、魔物を想定した訓練は受けていないだろ」
「何度も言っておりますが、このリーラ・シュウラウの剣を持ってすれば魔物なんてお茶のこさいさいですわ。それを叔父様がお認めになられた貴方方を倒すことで証明してごらんに入れましょう」
「上等よ受けてたーー」
「いや、待って待って。リラザイアさんには悪いけど、こんな勝負受けることないよ」

背後から手を伸ばしてティナの口を塞ぐ。

「んぐっ!? ん、んんっ~!?」
「そうですね、私達が勝ってもメリットが何もありませんし」
「メリット……そうですわね。それならば私は私を賭けましょうか。もしも私が貴方達に敗れるようなことがあれば、貴方方の奴隷となって、この高貴な身体で誠心誠意ご奉仕いたしますわ」
「え? 突然何言ってんのこの人、ちょっと怖いんだけど」
「そうですね。自分から奴隷になられに来られる方なんて初めて見ました」
「いや、そうじゃなくて…………ん? あれ、ひょっとして奴隷って聖王国の外には普通にいるの?」
「はい。全ての国ではありませんが、どちらかと言えば認めている国の方が多いですね。人はその……用途が色々とあるのでお金になると師匠が……」
「こわっ!? え、じゃあ俺達も気を付けないと。特にティナ、これから大きな町に行くこともあるだろうけど知らない人についてっちゃ駄目だからね」

ティナが口を塞ぐ俺の腕を強引にどける。

「私は子供か! てか、なんで私だけに言うのよ。サーラにも言いなさいよ、サーラにも」
「いや、サーラは大丈夫そうだし」
「日頃の行い……ですね」
「よーし。一対二ってわけね。掛かってきなさいよ、アンタ達ぃ~」

ティナが決闘云々言ってるリラザイアさんに背中を向けて、俺とサーラの前で華麗なステップを披露した。

「……失礼。漫才の最中に悪いのですけど、私との勝負をお受けになるかどうか、返事を頂いても?」
「いや、奴隷なんて別にほしくないので……」
「そうですね。使い道もあまりなさそうですし」
「サーラ、その理由ちょっと怖い」

でもやはり勝負は受けないことになりそうなのでホッとした。のだがーー

「いや、うちの姪を奴隷にしたら色々と旅には便利だぞ? 何せ俺の姪だからな。大陸中のシュウ商会に顔がきく」

ここで当事者の身内からまさかのお勧めをされた。

「いや、あの、ダダンダさんはリラザイアさんの叔父さんですよね? そんなこと言わずにリラザイアさんを止めるべきでは……」
「そりゃ俺だって可愛い姪を奴隷になんざしたくないがな。こっちの商談に割り込んでこんな馬鹿な提案をするんだ。痛い目を見ても仕方ないってもんだろ」
「いや、でも……奴隷ですよ?」
「まっ、俺も野盗の類いなら絶対止めただろうが、アンタ達なら大丈夫だろう」
「やけに評価が高いですね?」

商人のくせに出会って一日と経ってない人を信頼しすぎではないだろうか?

「ん? そりゃそうだ。先生達はあの剣聖と術聖の弟子だろ?」
「な、なんでそれを?」
「あっ、それは恐らくこれですね」

サーラが首に掛けているペンダントを持ち上げる。

「二人とも見たことのないのつけてると思ったら、それってし……術聖様達の物なの?」
「はい。これは師の許可を得て武者修行中であることを示すもので、聖号者の権威が通じるところなら私達の身分を証明してくれます」
「ふふん。凄いでしょ」
「うん。剣聖様達が凄いね」
「そこは私を誉めときなさいよ!」
「貴方達、さては私のことを舐めまくっておりますわね?」

リーラさんがやけに怖い目でこちらを睨んでくる。

「別に舐めちゃいないわよ。ただ私の方が強いってだけの話」

ティナみたいにハッキリとは伝えにくいが、ティナの言う通りリーラさんは正面から一対一で戦った場合、負ける相手ではなさそうだ。

「それを舐めてるっていうのですわ。仕方ありませんわね。貴方達は年下ですし優しく倒してあげるつもりでしたが気が変わりましたわ」

リーラさんは腰の剣を抜くと、刀身が通常より一回り細いそれで、空を何度かヒュッ、ヒュッと斬ってみせる。

「少しばかり痛い目みてもらいますわよ」
「上等よ! やれるものならやってみなさいよ」

ティナの瞳が戦意にギラギラと輝いた。

「待って! 待って! ティナ、ストップ!」
「何よ、 ここまで来てまだ止める気?」
「……いや、もう止めないけどさ、どうしてもやるって言うなら俺がやるよ」

ティナに任せるとリラザイアさんに大怪我させかねない。

「あら、私は三人がかりでも問題ありませんわよ?」

リラザイアさんの発言にダダンダさんは天を仰ぎ見た。

「なぁ、リラザイア。悪いことは言わねぇ。最後のチャンスだ。考え直せ。お前さんは確かに剣の腕はたつが、それは正面から来た敵を数人倒せるかどうかの腕だ。一人で戦況を決められるほどのもんじゃねぇ」
「それが間違いなのですわ。今までだって何度となく私の剣は野蛮な殿方をほふってきましたもの」
「それはこっちにも仲間がいた場合だろ。お前は変なところでバカなくせに要領が良い、仲間がいる乱戦では最適な動きを自然とする。だがそれはお前が単体で強いことを意味しない」
「どこまで言っても平行線ですわね。まぁ、だからこその決闘なのですが」
「止めないか」
「止めませんわ」
「言っとくが、奴隷になっても俺達に買い戻してもらえることを期待しているなら甘いぞ?」
「叔父様こそ、これで私の実力が証明された暁には、今後一切私の方針に口を出さないと誓ってくださいな」
「いいだろう。その場合はお前を商隊の独立護衛隊長にしてやる」
「ふふ。その言葉が欲しかったのですわ。結果が出た後に前言を翻すことが無いようお願いしますわね」
「はぁ。……ったく小娘が、好きにしろ」

何やら火花を散らす叔父と姪。

「ねぇ、アロス」
「……何?」
「私達、決闘の当事者なのにすっごい蚊帳の外感ない?」
「……そうだね」
「時間がありそうですし、イノイノの薫製を食べますか?」
「「食べる」」

そうして俺達は口論する甥と姪を傍目にランチタイムへと突入したのだった。

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