幼馴染みが婚約者になった

名無しの夜

第6話 人造精霊

「あ、ありえないわ。こんな、こんな馬鹿なこと。なんでアロスにあんな離れ業が……」
「まだ言ってるの?」
「昨夜は随分へこんでましたからね」

サーラと一緒になって振り返れば、俺達の後ろをとぼとぼと付いてくるティナが何やら地面に向かってぶつぶつ呟いていた。

「ねぇ、ティナの奴、なんであんなにショック受けてるのかな?」
「恐らくですが、旅に出て早々自身のアイデンティティを一つ失った感じなのではないかと」
「アイデンティティって、そんな大袈裟な」
「私もそう思いますが、ティナですから」

もう一度二人でチラリと背後を見る。

「偶然」
「え? 何が?」
「偶然ってことはないかしら? アロスが投げたナイフはどっか別の所に飛んでて、あのイノイノに刺さってたのは誰か別のなのよ。うん。これなら辻褄が合うわ」
「でもあのナイフ、ティナがアロスさんにあげたのと同じ物でしたよ? それも新品」
「うっ、そ、それは……」
「それにイノイノを仕留めておいて何故ナイフを回収もせずに放置したのでしょうか?」
「それは、ほら。あれよ、あっ……」
「「あっ?」」

俺とサーラは一緒になって首を傾げる。

「ああ、もう! 分かったわよ。私の負け! 何よアンタ、いつの間にあんな離れ業が出来るようになったわけ?」
「え、えーと、実は秘密の特訓をしてたんだよ」
「はぁ? なによそれ? ってか先生は誰なのよ? アンタみたいなへっぽこにこんなこと教えられるなんて並みじゃないわ。ハッキリ言って私の師匠クラスよ」

(実際剣聖様の教えなんだよな……でも言えないし)

聖王の直系が代々すべての聖号者を師とするのは有名な話だ。

「だ、誰でも良いじゃないか。それよりもほら、あそこに見える山道ってもう火王国の領土じゃないかな?」

大きな谷を隔てた向こう側。何てことはない山道だけど、聖王国から一度も出たことがない俺には未知の世界のように映って見えた。

「焦るんじゃないわよ。向こうに行くには頂上付近にある橋を渡る必要があるんだから。今からそんなテンションだと持たないわよ」

さっきまで死人のようなテンションだった人が何か言ってる。

「それなんだけどさ、見えてるんだからわざわざ登らなくてもここから魔術を使って向こう側に行けば良いんじゃないかな?」
「ん? ……確かにそうよね。その方が早いわ。ってかそれしかない感じ? ナイスよアロス」
「でしょ」
「それはあまりおすすめ出来ません」
「え? どうして?」
「なんでよ?」
「良いですか? 物を浮かす魔術というのは簡単なようで実際は維持にものすごい魔力と精神力を消費するんです。私達三人に全員の荷物を合わせたら二百キロは越えます。その質量をこの距離浮かせたまま移動するとなると魔力消費も相当なものになります。墜落の危険性を考慮したら普通に登った方が断然良いと思います」
「ふーん。……だそうよ。所詮はアロスの浅知恵だったわね」
「ティナも賛成してたでしょ。と言うかサーラが無理なら俺の魔術で二人を運ぶよ」
「え? いや、ですから無理というよりもコストがですねーー」
「俺ならこれくらいの距離大丈夫だから。ほら、出ておいで」

左手の中指につけている指輪に魔力を流す。すると予め組み込んでおいた魔術が起動して、無色だった指輪が金色に輝いた。そして指輪の中から俺が作った人造の精霊が現れたんだ。

「りゅ、竜!? 二人とも逃げて!」
「え? ティナ!?」

人造精霊を出したら何故か突然ティナが斬りかかった。それがあまりにも突然すぎて人造精霊を制御する間がなく、結果ーー

「ふぎゃ!?」

竜の形をした俺の人造精霊の尾の一撃を受けて吹っ飛ぶティナ。俺は慌てて岩に激突する前にティナの体を受け止めた。

「もう、何してるのさ?」
「へ? アロス!? ど、どうやって?」
「どうやってって、あらかじめ作っておいた術式の核に魔力を注ぐことで自立した疑似生命体、通称人造精霊を顕現できるって……これ前にも説明しなかったっけ?」
「そっちじゃないわよ! どうやってあの一瞬で私の背後に回り込んだのかって聞いてるのよ!」
「え? 普通に走ってだけど」
「は、走ってって、……アンタ、本物のアロスなんでしょうね?」

ティナが俺の顔をペチペチと触ってくる。

「いや、何当たり前のこと言ってるの? ねぇサーラ」
「こ、こんな、この式をアロスさんが? 分からない。この精霊を構成する式がまるで分らない」
「あれ? あの、サーラさん?」

ただならぬ幼馴染みの様子が気になって近付こうとしたら、もう一人の幼馴染みに肩をこれでもかと揺らされた。

「そもそもさ、あの人造なんちゃらからしておかしいでしょうが」
「いやおかしいのはティナのテンションでしょ」
「だまらっしゃい。普段サーラと修行している時に見せる奴はもっとなんていうか、こう、しょぼかったじゃない。少なくともこんな本物の竜みたいな威圧感出してなかったわよ」
「ティナ、本物の竜なんて見たことないでしょ」
「煩いわね。アンタだってないでしょが」
「まぁ……ないけどさ」

確か兄さん達が何匹か倒してたはずだ。

(やっぱり二人は凄いよな)

などと考えているとーー

「分かりました。さては外見に魔力の全てを注いだ、威嚇用の人造精霊なんですね。『ショット』」

ティナの掌から発射された魔力の固まりが、俺の人造精霊をぶっ叩いた。

「ちょっ? な、何してんの?」
「大丈夫です。私はこの程度、大丈夫なんです」
「え? どうしようティナ、サーラが何を言ってるのか分からないんだけど」
「とりあえずアンタはあの化物みたいな精霊の制御に集中しなさい。いい? 絶対暴走させないでよ、絶対だからね」
「そんなに念を押さなくても大丈夫だよ。てかサーラ、もう止めて」

俺が後ろから羽交い絞めにしてようやくサーラは魔術を撃つのを止めてくれた。

「ハァハァ……も、申し訳ありません。つい取り乱してしまいました」
「そ、そう。気を付けてね」
「は、はい……ハァハァ……気を付けます」

頬に張り付いた髪を手で払うサーラ。……うん。もう大丈夫そうだ。

「それじゃあ二人とも早く乗って、こいつを使えばこんな谷なんてひとっ飛びだから」
「何か色々納得できないけど、ひとっ飛びってのはいいわね」

ティナは好奇心に溢れた笑みを浮かべると人造精霊の後ろへと飛び乗った。大人しくなったサーラも素直に続くかと思いきや、何故か俺の前で立ち止まった。

「サーラ? どうかした?」
「大丈夫ですよアロスさん」
「え? 何が?」
「たとえこのアロスさんが作ったとは思えない超強力な精霊を途中で動かせなくなっても、私が、私の魔術でアロスさんを助けてあげます」
「……えーと、ありがとう?」

ハッキリ言って数百メートル飛行するくらいなんともないのだが、いつになくサーラの目が怖いので素直に頷いておく。

「ふふ。アロスさんも殿方、見栄を張りたい年頃ですものね」

サーラは分かってますとばかりに何度か頷くと、ティナの隣に腰を下ろした。

「それじゃあ出発するよ」
「おー!」

と手を上げるティナと、

「いつでもいいですよ」

墜落に備えて魔術の準備を始めるサーラ。

勿論何の問題もなく俺達は向こう側へと辿り着けた。

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