3分小説

sudachi

呪いの人形

美容師の専門学校を卒業して、今の美容室に就職が決まって、1年の事。

仲のよかった山内、浜田それぞれ別々の美容室に就職した。


まだまだ見習い中、
毎晩、お店のマネキンを使って練習。
家に帰っても、自腹で購入したマネキンで、練習。
しかし、マネキンも三千円から四千円ほどする。
見習いで、給料も、さほど多くない私達にとってはなかなか厳しい出費だった。
そのため、一つのマネキンをロング、セミロング、ショート、ベリーショートと何回も使い回す事は珍しくなかった。

ある日、3人で居酒屋で飲み会を開く事になった。

会も終盤に差し掛かった頃、山内が奇妙な事を言い出した。

「呪いの人形って信じるか?」
「なんだよそれ。気持ち悪い。」俺はすかさずそう答えた。

「呪いの人形だよ。俺は、その人形を手に入れてから、めきめきと上達してる。」

確かに俺と浜田まだ見習いで、シャンプーがメインだと言うのに、山内はもう指名が入るくらいだと言う。

「俺はもう必要ないから、2人のどっちかにやるよ。」

「じゃあ、俺にくれ。」浜田が少し考えて答えた。
「オーケー、じゃあ明日、持っていってやるよ。」

それから、4ヶ月、また、3人で集まる機会があった。

「山内、最近どうよ。」俺が尋ねると
「あの人形最高だよ!初めは気味が悪かったけど、今じゃあの人形のおかげで、結構指名貰えるようになってきたんだぜ!次はお前にやるよ」


呪いの人形と言われると気持ちが悪いが、
2人とも明らかに上達しているようだった。
「じゃあ、明日お前の家にもらいに行くよ。」
「悪い、明日用事があるんだ。そうだ、俺の家この近くだから、これから俺の家で少し飲み直そうぜ。」

そう言って、3人で山内の家に向かった。

山内の家は、三階建ての三階真ん中の部屋に一人で暮らしている。
山内は、男の一人暮らしと言うのに、部屋はかなり整理されている。

「これだよ。呪いの人形。」

山内が徐に取り出した人形は、
人形とは思えない程、精巧に作られていて、
顔立ちもかなりのかなりの美人で、今にも喋り出しそうな気配すらあった。

顔は、人間ほどあるのに、体は顔ほどしかない奇妙な人形。


「玄関に置いておくから忘れるなよ」
そう言って、山内は人形を紙袋に入れて玄関に置きにいった。

山内の家で2時間ほど飲み直して、解散することになり、俺はタクシーで、家まで帰った。

家に着いた頃には、すっかり酔いも覚めていた。

俺は早速、人形を取り出した。

吸い込まれそうな瞳、綺麗なロングの黒髪。

俺は無性に、この人形の髪を切りたくなった。

「少しくらい、いいよな。もう、2人とも要らないって言ってるし」

俺は、ハサミを持ち出し、人形の髪を切り始めた。


無心に、何かに取り憑かれたように。

気がつけば、思った以上に切り過ぎてしまっていた。

その日は疲れたので、お風呂入って寝ることにした。




翌朝、何気なく昨日貰った
呪いの人形に目をやると、昨日確かに髪を切ったはずなのに、髪が伸びていた。

俺は慌てて、初めの持ち主の山内に電話した。

「おい、なんだよあれ。」

「あれ?」

「人形だよ!」

「ああ、髪伸びただろ」

「なんなんだよあれ。」

「これで、お前も練習し放題だぜ。」

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