番外編:美術室の幸村さん「とある教師目線」

紡灯時園

喧嘩

どうして俺はいつも余計な一言が多いのだろうか…。

遡ること2時間ほど前。
俺は怒っていた。
数Aの授業中、幸村が課題をやっていたことに対してだ。幸村に近づき、その課題を取り上げる。そのあとの幸村は不満げな表情を浮かべていた。しかし、今のこいつの行動は間違っているんだ。そう言い聞かせていた。

授業が終わったあと、幸村を教卓の前にこさせ、説教だ。

あのとき俺は、すべての内容を覚えてはいないが、こう言ったことは覚えている。
「お前のそういう所ずれているんだ。」
と。
それを言うまで反省の色をした顔は一変し、
俺から見たことが無いような怒りの顔に満ちていた。キッとこちらを睨む反抗的な顔。
そんな反抗的な生徒初めてだったのもあり、少し戸惑った自分がいる。
いつも俺が注意すると、だいたいの生徒は言い返せないというもどかしげな表情や、反省しているということを主張する表情をする生徒が多かった。

どう思って怒ったのかは本人にしかわかない。

しかし心のどこかで思ったのだ。「やばい怒らせてしまった、傷つけてしまった。」


教論として、生徒をちゃんと叱ってやるのも優しさの一つだ。

しかし今思えば、あの怒り方も諭すというよりかは、俺の気持ちや考えをぶつけただけに過ぎなかった。せめて「俺ならこう思う」と前置きがあればよかったのだが…。

感情的になってしまった。

結局あのあと俺は空気に耐えられず、ずんずんと扉に向かい、帰ろうとした。
すみませんでした。という幸村の声が聞こえた気がした。



放課後、幸村は友達も連れて職員室に先程やっていた課題を提出しにきた。二人一緒に提出しに来たのだろう。
幸村の友達は、中川美夏なかがわみかという。普段幸村に引っ付いて歩いていて、時々連れ回されているのをよく見かける。


幸村はあの怒りの顔は忘れたように、いつもどおりに見えたが、声色は少しいつもよりも低かった。
隣にいた中川は元気そうににこやかだが、幸村は無表情のまま。
俺も気持ちをすぐに切り替えられるほど、大人ではなかったらしい。 
しかしこのまま気まずいのも嫌である。
提出されたプリントを見る。中川に対し
「お前寝てばかりの癖に宿題はちゃんとやるんだな。」
と笑いながら言ってみる。

俺はもう怒ってないと伝わればいいと思ったが、チラリと顔を伺うと、無表情のままだった。 

俺にどうしてほしいんだよ。

もどかしさにまた怒りが湧き上がってきた。
つい幸村を無視するような態度をとってしまった。
それを見て呆れたように、珍しく自ら中川の腕を掴み
「帰るよ。」
っと言って早足で帰ろうとする。 
おう帰れ帰れ。
ドアまで行ったあと、幸村はくるりと振り返り、
「…失礼しました!」
と怒りを交えたいつもよりも大きな声が職員室に響く。

他の先生達は少し驚いた表情で、どうしたんだ?と少しザワついた。
幸村を怒らせているであろう俺は、頭を抱える。
あいつのあんな態度見たことが無いのもあり、さすがに戸惑いまくる。
俺はやっぱり間違えたことを言ってしまったのだろうか…?。
普段めったにあんな表情と態度もしないのに…。
  

その日俺は自分の言動と思考を振り返り、ものすごく反省した。


次会ったときは普通に接することができればいいなと願いながら。

ーーーーーーーーー
幸村の心の中

なんか宿題取り上げられた。
なんでや、ええやん、授業中寝ていいって言ってたし、宿題をやるのと変わらんやん。

なんか少し苛ついたので、不満げな表情を浮かべてみる。
それに気づいているのだろう、先生はいつもより少し挙動不審だ。それは、まるで「幸村にだけ怒っている訳ではない」と、行動で示そうとしているように、私以外の生徒にも小言を言いまわっていた。

そうなるくらいなら堂々とすればいいのに。

たしかに槻島先生は推しではあるが、だからといって特別な扱いをするつもりは無い。
人としてちゃんとしているか、常に見張っている。それは推しとしてではなく、信頼できる先生としてどうかを判断するためだ。


案の定、私は呼び出された。
言っていることは正しいが、どこか自分だけの視点で話を進めている。それがわかるので、少しイライラするが、嫌な気分にさせたことに変わりはない。

しかし、あの一言だけは許せなかった。
「お前は ずれている」
頭の中でプチンと何本かある理性という名の糸が1本切れた。
今までにないような表情をしていただろう。
先生はどう感じるだろうか?この怒りが伝わるだろうか?
 

お前は ずれている。

私からすれば、この世界も皆ずれているのだ。

常識にそって、たまには自分の感情を押し殺して生きていくのが正しい。

そんなの間違っている。 

だから、その感覚を忘れずに反抗的な態度もしていた。
それがずれているだと? 

たしかに反抗するだけなんて間違っている。しかし、自らの感覚や感情を我慢して生きていくなんて、人間として生きていく価値も意味も無くなってしまう。ロボットと変わりない。

槻島先生自体も、私からすればずれているのだ。自分からの視点が世間では当たり前だろ、とでも言うような言動。
あなただってずれているはずだ。

人のこと言えないのだよ。



すべては言葉で表せない、この感情が一気に吹き出した。


頭の整理が追いつかない。
そんな中、槻島先生はサッサと帰ろうとしたので、とりあえず礼儀として、すみませんでました。と一言言うが、それも無視されてしまった。


放課後、最悪な気分で職員室にいく。美夏がいるのでまだ気は楽だが。

二人で行くと、槻島先生は美夏にだけ笑顔で話していた。

大人の心の余裕みたいなものがお前には無いのか。

そう思い、居心地も悪いので、こちらからすぐに帰ってやろうと思った。
なんだか逃げているように思ったので、
帰り際、このイラつきが届くように挨拶し、扉を少し強くしめる。

美夏は相変わらず笑顔だった。


次あったとき、どんな顔で挨拶をしようか…。


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