美術室の幸村さん

紡灯時園

部活の先生が嫌いな幸村さん

今日も一人だ。 
隣の美術準備室に主顧問の先生はいるが、わたしがあまりにも冷たい視線や態度を取るので、大人しくしているらしい。

いやだって、なんか、無理。

今年からこちらに来た主顧問の体型は太っていて、顔はつぶらな瞳ではある。喋り方は自信の無さと、楽しく喋りたいという感情が入り混じっている感じだ。

なんとなく嫌いです、みたいな考え方はあまりしたくない。
わたし自身も、なんとなくってなんだよ、ってなるから。
要するに理由もないのに人を嫌うのは失礼だと思っている、ということだ。
しかし、この先生とはできるだけ近付かないでほしいし、言葉も必要以上に交わしたくない。

理由ははっきりとは自分でもわからない。しかし多分これだろう、と思えることを上げるとするのなら、「陰キャのクセに陽キャを演じようとしている」ところ。わたしは感覚が鋭いほうなので、人が嘘を付いているか、本音を言っているかどうかなどが、なんとなく分かってしまう。
その感覚で感じた違和感、この違和感がなんとなく嫌い、の理由だろう。

その陰キャのクセに陽キャを演じる、というのは、いわゆる身の丈に合っていない喋り方、態度ということ。
人は好かれようとすると嫌われる、のと似たようなものだ。

この前なんて、「彩雲さん」なんていきなり下の名前で呼びやがった。ゆるすまじ。
別に嫌ではないが、少し違和感だしお前に呼ばれたくない。推しになら呼ばれたいが。

他にも嫌いな理由を上げるなら、1つの思い当たることがある。
それは先輩がまだ引退する前。
なかなか絵を描こうとしない先輩に対し、
「描いてよ〜」と毎日のように強要していた。それでもイヤだ!と断り続けていた先輩に彼は笑いながらこう言ったのだ。 

「なかなか折れないね。ここまで言ったら折れてくれると思ったのにな。」

つまり彼は私達を上手く操ってやろうと考えていたらしい。私にはそう聞こえた。

その言葉からにじみ出てくる言葉は、
俺、子供の扱い慣れてまーす。
え、こう頼めば折れてくれるの俺知ってるから。
そう、まるで人間観察できてます俺、その観察したことを利用して相手に言うことを聞かせることなんて容易いっすよー。
的なことを言っているに等しい。

ここまでくると少し妄想が入っているように見えるが、今のわたしは自身の感覚を信じている。

まぁ、理由はどうであれ、今は申し訳ないが嫌いだ。近付かないでくれ。
ていうかもう帰れ。


毎年美術部の主顧問のことを好きになれない幸村さんであった。



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