消えない思い

樹木緑

第200話 これは夢?

僕は小さな箱の中に収められていたリングを
指でつかみ天にかざした。

指輪の内側には相変わらずに、

『Yuya Loves Kaname Forever』

と、7年間の佐々木先輩の愛を貫くように
堂々と輝いている。

「俺はこの7年、
一秒たりともお前の事を思わなかった日は無い」

佐々木先輩はそう断言した。

「でも……
駅で見たあの女の人は……?」

「彼女の名前は二条伽耶……

7年前に行ったベネツィア祭を覚えてるか?」

「名古屋であったあの仮面の?」

「ああ、あの時スウィーツで話をした3人組の女子たちを覚えてるか?」

「はい、確か偶然に隣の部屋になった人達ですよね?」

「そうだ。 一人が白川望、そして藤井稍々、もう一人が二条伽耶……」

「何故彼女たちの事を?」

「名古屋から帰って来て分かったんだが、
彼女らは同じ大学に居たんだ。
ずっと連絡を取り合ってて、
そして俺の今抱えているプロジェクトの主要参加者でもある」

「え? じゃあ……
ああ、彼女はあの時の3人組の唯一のΩの彼女だ」

「じゃあ、彼女は先輩の奥さんじゃ……」

「いや、まあ、そんな風に思ってんるんじゃないかとは思ったんだけどな、
要の事だから、彼女らの顔を覚えてはいないだろうし……」

「え~ 僕の記憶力が悪いって言ってんですか~!」

「ハハハ、 そうだろう?
俺の永遠の愛のこもった指輪の事忘れているし!」

そこを言われると痛い……

「じゃあ彼女は一緒に仕事をしている……」

「仲間だ。
あの日はクライアントを回っている時
偶然駅で会って向かう先が同じ方向だったから一緒に居たまでだ」

「じゃあ、僕の完全なる思い過ごしだったんですね……
先輩が彼女を優しく支えているようにしていたから僕はてっきり……
それに話している雰囲気が何だか親密で……」

「お前な~ 赤ちゃん抱えて立ちっぱで大きな荷物抱えてたら、
誰でも助けるだろ? お前は違うのか?」

本当だ~ お母さんの言う事は正しかった……

僕は先輩の方を向いて首を振った。

「じゃあ、先輩の今の仕事とは?」

「そこは正直に言うよ。
俺の今の仕事は弁護士だ」

「え? 弁護士? 政治家じゃ無く?」

そう尋ねると先輩は目を伏せた後、
僕の方を見てしっかりと僕を見据えると、

「俺は親父の敵に回った」

と一言言った。

「え? それってどう言う意味……?」

「もし俺たちの間を阻むものが親であれば親と、
それが国であれば国と、俺は戦う事を諦めない。

言ったはずだ、
俺を選んだことを後悔させないと……

今俺がやろうとしている事は親父とは敵対する事なんだ」

「それじゃ……」

「お前が俺の前を去って直ぐに親子の縁を切った……
そして家を出た」

「じゃあ、僕がフランスに行った事は……」

「無駄だと言えば無駄だが、
良かったと言えば良かった……

でも俺は、全ての事柄には理由があると思っている。

あの時は、要がフランスに行くのが
一番最良の方法だったんだよ。

俺はお前を信じてお前だけを思って前に進んできた。

本当は今やっているプロジェクトを片付けて
堂々とお前を迎えに行きたかった。

思ったより手こずって長引いているけどな。

結果としてはお前の方が早く片を付けて
戻って来たんだがな……

自分の力不足に少し恥じたけど、
でも、もう2度とお前を失いたくない!」

その先輩の言葉にこれまでため込んできた思いが込み上げて
僕は先輩に縋って泣いてしまった。

「かなちゃんどうしたの?

お腹痛いの? お熱あるの?

ねえ、パパ、かなちゃん大丈夫?」

陽一のそんな言葉に僕は心が温かくなりそして気付いた。

「ねえ、陽ちゃん、
どうして陽ちゃんは佐々木先輩がパパだって分かったの?
お写真見てた時は何も言わなかったよね?」

「あのね、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんね、
同じ匂いがするんだ。
それでね、パパね、ママと同じ匂いがするんだよ!」

そう言う陽一の言葉に僕は先輩と見合った。

「こいつは大物になるかもな?」

そんな先輩の言葉に陽一はきょとんとしていたけど、

「陽一、陽一はパパとママが仲良くしたら嬉しいか?
そしてパパとママと一緒に暮らしたいか?」

そう尋ねると、陽一は元気よく

「うん!」

と答えた。

「よし!
じゃあ、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんにお願いに行こうか!」

そう言って、僕と陽一の手を引いてリビングに戻った。

“え? それってどういうこと?
何を両親にお願いに行くの?”

僕は先輩の後をついてリビングルームまで行った。

丁度お父さんも僕たちのことが気になって
リビングに出て来ていた。

先輩は両親二人とも揃ったところを見ると、

「正装では無くすみません」

と礼儀正しく一礼した後、床に座込み正座した。

“まさか!

まさか!

嘘でしょう?

僕は夢を見ているの?

これは本当に今起きている事?”

正座をした先輩はしっかりと僕の両親の目を見て、

「お父さん,お母さん、
要をこの世に迎えて下さりありがとうございました。

恵まれまして私はかけがえのない彼と出会う事が出来ました。

また私がそばに居れない間、これまで要と陽一を守って下さり、
また導いて下さりありがとうございました。

これからは私が全身全霊を掛けて、
二人を守り愛し抜きます。

まだまだ未熟な私ですが、
どうか要を私に下さい!」

そう言って深々とお辞儀をした。

先輩がそう言った瞬間僕は先輩に飛びついた。

「先輩、先輩!
愛してる!
僕も先輩の事一秒たりとも忘れた事は無かった!
ずっと帰りたかった……
先輩の所にずっと帰って来たかった!」

そう言って僕は泣きじゃくった。

「要、要が一人で苦しんでいる時、
傍に居てあげららくてごめん。
助けてあげれなくてごめん。

一人で陽一を産ませてごめん。
一人で子育てをさせてごめん。
一人でここまでありがとう。

俺に陽一をくれてありがとう」

僕は先輩の胸縋ってワーワー泣いた。

お父さんが横で、

「要を宜しくお願いします」

と涙声で言っているのが聞こえた。

またお母さんも、

「佐々木君、要と陽一を宜しく」

そう言っているのが聞こえた。

陽一も、

「どうしたの?

どうしてかなちゃん泣いてるの?

かなちゃん泣いちゃうと、僕も……」

と言いながら、ヒック、ヒックと泣き始めた。

陽一はこれまで僕が泣いたところを見たことが無い。
苦しくても、陽一の前では笑顔を絶やさずにずっと頑張って来た。
少しは悲しそうな顔をしたこともあると思うけど、
陽一には僕一人だからと不憫な思いはさせたくなかった。

「陽ちゃん、大丈夫だよ。
パパとかなちゃんね、
結婚するんだよ。
パパも、かなちゃんもこれからずっと陽ちゃんと一緒にいるんだよ。

だからかなちゃんは嬉しくって泣いてるんだよ」

そうお母さんが陽一に言っているのが聞こえた。

僕は自分の事で一杯一杯で、
陽一の事までかまってあげる余裕がなかった。

「陽一、おいで!」

先輩が陽一にそう声を掛けると、
陽一も先輩の胸に飛び込んで、
僕と一緒にワーワー泣いた。

そして先輩が僕達に、

「二人とも愛してる。
心から愛している。
もう絶対離れない。
俺がお前たちを守るから、
これから一緒に家族になって行こうな」

そう言ってギュッと二人分抱きしめてくれた。

☘☘☘☘☘ 次回で最終回です ☘☘☘☘☘

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